80話
結論から言えば、迷いの森にホラー要素はなかった。
「キャアアアアアアッ!!」
でも千春の悲鳴は何度も迷いの森に木霊している。
なぜか。
「可愛い! カワイイ! かわいい!」
千春の前に現れたのは、ぬいぐるみ。
アニマルドール。
西洋ドール。
日本人形。
それらがデフォルメされたものが、凶器を手に千春に襲い掛かってきていた。
こちらの方が嗄れ森などよりよっぽどホラーに近い気がしないでもないのだが、千春にとっては何も問題はないようで、ずっと黄色い歓喜の悲鳴がやまない。
そしてレベル差もあるため、ドールからの攻撃では1ダメージしか入らないため、攻撃を受け続ける事を是とし、千春は遭遇したドールを抱きしめる行為に余念がない。
主人が攻撃された事で敵と認識したポチがドールを攻撃した事もあったのだが、その時の反省も込めて今はポチに攻撃禁止命令を出してまでドールたちと戯れている。
「楽園です! 夢の国です! ああ、このゲームをプレイしていてよかった!」
大好きな『可愛い物』に囲まれて生活する事を、千春は夢見ている。
そんな千春は、ぬいぐるみも大好きな物の一つ。
それが敵意であれ、意思をもって動いている。
あまつさえ(敵意があるから)自分へと集まってきてくれる。
嬉しい以外の感情の動きはないと千春は断言できてしまう。
だからこそ、
「はぁ~……。もっこもこに癒される……。右を見ても左を見ても息する可愛いばかりなんて……。決めた。私、ここに拠点を構える。絶対に!」
そう結論を出すのに時間はかからなかった。
ただ拠点は街に作るもの。
それがルールではあるのだが、わがままを押し通す方法もある。
「ちょっと痛い出費だけど、仕方ないよね」
メニューを開いて、目的の項目から必要な手続きを済ませる。
チャリンッと効果音。
この手のゲームには付き物である『課金システム』。
もちろんエンドワールドにも実装されている。
その中に『好きな場所に拠点を設置できる』という商品がある。
課金アイテムの中では高価な部類に入るそれを、千春は躊躇なく購入した。
今月のお小遣いのほぼ全額に相当する出費だったと付け加えておく。
「必要経費。うん。必要経費だった」
金銭の力は偉大なのだと再認識させられる。
今月はまだ始まったばかりなのに、とかは考えない。
「何処に置こうかな……」
千春の現在地は海難事故により漂着した最初の場所。
海難事故イベント後の漂着場所は必ず同じポイントになる。
「……ありかも」
千春は考える。
ここは迷いの森を攻略する開始地点である。
しかし、それは海難事故というイベントが発生してしまった千春にとっての、だ。
多くのプレイヤーにとっては中間地点どころか寄道ポイントでしかない。
人に関わる事が怖い自分にしてみれば立地条件としては恵まれているのでは? と考えさせられる。
目を合わせなければ少しは話せるようになっただけ、進歩はしているのだけれど。
「街中に拠点を作ってお店をしたらお客さんいっぱいきてくれるかもしれないけれど、たぶん私は途中でギブする。行商人スタイルも……」
思い出されるのは変態の顔。
そのせいで千春は最初の街であるラグアを出る覚悟を決めさせられたのだ。
それもあって行商人スタイルを続けるのは無理に思えた。
「ここならお客さんゼロって事もないだろうし、だからっていっぱいもこないだろうし」
そう考えると、ここ以外は考えられないように思えてきた千春。
「うん! ここに決めた!」
そして千春は迷いの森の海難事故漂着地点に拠点を設置する。
ログハウスに近い拠点を選んだため風景を壊す事もない。
「ポチ! ここが私たちの新しいお家だよ!」
『ワンッ』
千春は新たな拠点に入ろうとして、
「あ」
抱きしめていた西洋ドールのハサミ攻撃で受けた1ダメージでHPは全損。
千春はゲームオーバーとなり新しい拠点で無事に復活。
復活場所として再設定した後でよかったと胸をなでおろす千春だった。




