78話
地底湖から脱出した後、もういい時間だった事もあってログアウトした千春。
その翌日、母より「最近、長い時間ゲームしてるみたいじゃない」という遠回しなお小言を頂戴したため、また以前のようにゲーム禁止令が出る前に自主的に自粛し、お手伝いなどなどに精を出す日々を一週間ほど続けた。
そうして意図せず久しぶりのログインになってしまった今日。
フィールド上でログアウトしたため、今日は拠点からではなくオートセーブからのリスタート。
「………………どうにか『嗄れ森』を迂回する方法はないかな」
ゲーム自粛中に何度も何度もネットサーフィンして調べた結果、迂回する方法はないと早い段階から結論は出ている。
正直な事を言えば、実は『嗄れ森』が嫌で自主的に自粛していたまである千春。
足取りは重いままフィールドを進み、そして嗄れ森に到着。
千春の目の前には、生命力の枯れた森がある。
手で簡単に折れそうな細い枯木の森。
地面は水が枯れてひび割れた大地。
雑草の一本もはえていない。
そして何よりの特徴は、その枯れ果てた森を包み込む濃霧。
数メートル先の視界を奪うほどの霧がここ一帯を包んでおり、その中で『嗄れ森』だけが、かろうじて比較的ましな視界確保が可能な場所だった。
他の場所は数センチ先が真っ白に煙るレベルなので移動は困難で、ミニマップも完全に機能しない仕様にされているため、それらを頼りに進む事も出来そうにない。
付け加えると、方位磁石などを使って進めるんじゃないか、と挑戦したプレイヤーもいたが秒で挫折している。
「ぁぁ……ぅぅ……ぃゃぁ……」
面倒そうなフィールドダンジョンではあるが、千春はその面倒くささが嫌なのではない。
嫌なのは、ここで遭遇するモンスターたち。
「うひぃっ!?」
ボコッ、と唐突に枯れた地面に穴が開き、その穴を開けた原因がそのモンスター。
それは人の手だった。
年季が見て取れる腐敗具合で、腕の一部分にだけしか肉がなかった。
そして地面からはえた腕が地面を掴むと、腕力だけで地面から這い出てくる。
ゾンビやグールという種のモンスター。
千春の装備する『ヘリオス』であれば光属性攻撃の特性効果もあり、確実に一撃必殺できるモンスターである。
しかし千春は短い悲鳴の後、微動だにしない。
ただただゾンビが這い出てくる所に顔を向けている。
『ワフ?』
ポチが主人を見上げると、そこには白目を剥いて気絶する乙女の姿があった。
千春は精巧なのはもちろん、陳腐なものでも『おばけ』、特にゾンビなど気持ち悪い系のホラーが特に苦手だった。
中学時代の文化祭で、作り込みのかなり甘いホラーハウスの手作りおばけを太陽の下で見ただけで悲鳴を上げて逃げ出した過去がある程度には怖がり。
そうして固まっている間にゾンビは地中からの完全脱出を果たし、千春の前に立つ。
あまり怖くなり過ぎないようにと、かなりデフォルメされているため、どちらかと言うとキモカワイイに分類されても不思議はないクオリティになっている。
『ガウッ』
敵ですよ主、と話しかけるようにポチが吠えた。
主人はイヤイヤと無言で首を横に振ってポチの腰に抱き着いて脇腹らへんに顔を埋める。
『ガ、ガウッ』
戦闘がはじまってますけど、とポチが吠える。
しかし千春のリアクションは先ほどと同じ。
ただ今回は『イヤイヤ』ではなく『ムリムリ』だった事を追記しておく。
そして、ものすごく小さな声で「やっちゃってポチさん」と呟いた。
主の許可は出た。
主の状態を見れば戦えない状態であることは瞭然。
優秀なAI知能を持つポチにも、それがわかる。
『ガウッ!』
咆哮一声。
魔法が発動し、氷柱状の氷の槍が飛びゾンビに突き刺さり、刺さった所から冷気に侵され凍り付いていく。
『ワフッ』
終わりました、と伝えるポチ。
そして千春は、もっと強くポチの体に顔を押し付け、さらには抱き着く力も増す。
優秀なAI知能を持つポチ、困惑。
「このまま出口までお願いします、ポチさんいいえポチさま」
『ク~~ン……』
情けない声を上げつつ、ポチはしがみついて離れない主を引きずって嗄れ森を奥へと入っていく。




