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76話 

 

「いや普通にマナポーションの方が先に尽きるって」


 察した。


 今ようやく大蛟のHPを三分の一ほど削った所。


 千春のマナポーションの在庫はすでに最初の半分まで減っている。


 どう計算しても間に合いそうにない。


「いや、いや、いや。計算するまでもないからね、これ」


 自分の思考にツッコミを入れつつ、千春はマナポーションを飲む。


 ゼロになりかけていたMPが最大値まで回復する。


 最大値になったのも一瞬で、それはすぐに減り始める。


 ヘリオスのマシンガンモードで光属性の魔法弾を垂れ流すようにバラまいているのだから当然の話だった。


(これは勝てないかなー)


 そんな後ろ向きな思考が、少し前から千春の脳裏に浮かんで消えない。


(負けるならこれ以上の消耗は無駄だよね)


 もう諦めて倒されてしまおうかとも思う。


 しかしだ。


 しかしポチは主人である千春の最初の方針に従って今も彼女を背に乗せて回避し続けてくれている。


 もちろん回避の成否は確率で決まるため、被弾する事も百近い攻撃の中の一回だけだがあった。


 その攻撃を千春に代わって受けてくれたのも、ポチだ。


 その時の事を思うと簡単には止めたくない気持ちもあり、だからこそ無駄かもしれないと思いながらも戦闘を今も継続している。


「……勝負をかけよう」


 ポチに話しかける。


 主人であるプレイヤーとペットは一心同体。


 言葉は通じなくても、プレイヤーの作戦意思は通じる。


 だから言葉にしなくても千春の作戦は正確にポチに通じていた。


『ガウッ』


 チラッと後ろを振り返り、ポチも同意を示すように顔を縦に振った。


 そしてポチは眼前にまで迫っていた無数の泡を、その隙間を縫うように前進しながら回避していく。


 前方空間に敷き詰めるように放たれていた泡の一つひとつが爆弾のようなもので、触れると破裂し、その衝撃で吹き飛ばされてダメージを受ける。


 しかも敷き詰められているため、ひとつにでも触れれば連鎖爆発し、千春とポチのHPを一回で全損させるだけの威力を秘めた大蛟の【大水泡】という攻撃だった。


 一つの泡に触れる事なくすり抜けきったポチは、陸地を蹴る。


 蹴った先には大蛟。


 大蛟は空中に躍り出た千春の乗せたポチを迎え撃つため、顎関節を外して大口を開ける。


 それは【水砲・極】の攻撃前動作に酷似していたが、違う。


 これは大蛟が初めて見せる物理攻撃。


 【嚙み砕き】から【丸呑み】に繋げるコンボ攻撃である。


 だから大蛟は蛇のような体を伸ばすようにして、千春とポチに迫る。


「フォームチェンジ『ショットガン』!」


 光りと同時にヘリオスのフォルムが三度目の変化を見せる。


 銃身が長く太く、そして銃口が二つ連なった形状。


 一回でに連射が可能なショットガン。


 吐き出す弾は散弾。


 撃ちだされるのと同時に魔法弾は砕け散り、前方向へと拡散する。


 広範囲に弾丸をバラまけるのだが、同時に。


「接近状態であればあるほど攻撃威力も命中率も格段に上昇する!」


 だからこその、賭け。


 あのまま大蛟が遠距離攻撃に徹していれば、千春たちは敗北を受け入れるしかなかった。


 空中に躍り出た時点で、今のポチには回避行動が取れなくなっていたから。


 そして千春とポチは最初の賭けには勝った。


「敵の攻撃があたる前に、私の攻撃をあてる!」


 最接近されたと千春が判断した瞬間に引き金を引く。


 ダンッ!!! とハンドガン、マシンガンよりも重い発砲音が空間に響く。


 ショットガンの弾は大蛟の下顎の一部を吹き飛ばす事に成功していた。


「やった!」


 ポチの上で歓声を上げる千春。


 しかしそれはまだ早い。


 大蛟のHPバーは大きく削れはしたが、全損には程遠い。


 ただ攻撃は潰せている。


 ポチは、ひるんだ大蛟の顔面を足場にし陸地へと戻る。


 直後、再開された大蛟の遠距離攻撃の連打。


 回避し、回避し、回避し続ける。


 それも陸地と地底湖のギリギリで。


 そして連打の途切れた一瞬の隙に陸地を蹴り、大蛟へと一直線に跳躍。


 このために攻撃を受けるリスクを高くしつつも、ギリギリの場所でポチは回避し続けていたのだから。


 倒される道筋を確実に設定されている大蛟は、一定範囲内に入ってきた敵を物理的に迎撃するために接近戦を仕掛ける。


 つまり先ほどと同じように【嚙み砕き】から【丸呑み】という行動に出てくる。


 遠距離行動に特化している代わりに、近接行動に多様性はない。


 それこそが大蛟を攻めるポイントだった。


 それでも水中、水上、空中で行動できる何かしらのスキルを保有していなければ勝ち筋はなく、それらのスキルは第二大陸攻略進行時点であれば、獲得している可能性は低い。


 というよりもレベル差があり過ぎて理不尽ゲーと評価されていただろう。


 推奨レベル20のエリアで、大蛟はレベル99という高難易度ボスだったのだから。


 とはいえ配置されたのは最近なので当時の心配は無用なのだが。


 攻略法を見つけられれば、あとレベルがある程度あれば倒せない相手ではない。


 ダンッ!!! という何度目かの銃声の後で、千春に見えていた大蛟のHPバーが砕けて消えた。


 そして表示されるリザルト画面を見て、


「勝ったーーッ!!!」


『アオオォォーーンッ』


 千春とポチの勝利の咆哮が地底湖に響き渡った。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 2人でつかんだ勝利、お見事です。 さあご褒美は何が出るかな?。
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