70話
第二大陸は自然の少ない大陸だ。
文明発展のために森を切り開き、資源を得るために山を潰し、機械文明を先進させるための研究による汚染水で川や周囲の海を殺した。
汚染水の中で海洋生物は死に絶え、その汚染水に順応した個体はモンスターなった。
住処を奪われた動物たちは大陸中央部を追われ、海域にまで追い込まれ、そこで汚染水に毒された魚などを食べて生を繋いだ結果、モンスターに変化。
今度は人間が住処を追われ、地中に身を隠す生活を余儀なくされている。
食べ物に関しても立場の変化と時を同じくして大きく変わっていた。
「大地も汚染されてるから作物も育たなくて、育っても毒に侵された野菜しか採れないんだ」
そういう話を千春はベルタスの街で食品を取り扱うNPCから聞いていた。
ラグアの街の20倍近い価格で売られていれば話も聞いてみたくなるというものだった。
それらの代わりにベルタスの住民が日々食べているのが、完全栄養食。
それ一本に一日に必要な栄養の三分の一が入っていて、ベルタスでは毎日三回、作業のようにソレを齧るのが普通の食事風景である。
それでも普通の食品も販売されているのは、富裕層向け(この場合はプレイヤー用を意味している)だ。
千春は買ってみた完全栄養食を齧りながら、ベルタスの外を歩いていた。
環境汚染も空気にまでは及んでいないのか、それとも空気の汚染だけは改善できたのか、息をしただけで毒に侵されたり病気になったりとバッドステータスになるような事はなさそうで一安心。
「それにしても、さっきからポチは忙しそうだね」
砂塵吹く荒野を一人と一匹で歩いているのだが、ポチは千春の隣に戻ってきて数秒もしない内に再び駆けだす、という行動をかれこれ20分ほどは続けていた。
ポチが駆けだすのはモンスターが警戒テリトリー内に入ってきたからで、それだけの数のモンスターに襲われているという事である。
ただ自然の一切ない荒野であるおかげで視野だけは簡単に確保できているので、ポチの奮闘は千春からもよく見えていた。
できる事なら千春もヘリオスで援護もしくは戦闘参加したい所なのだが。
「命中たらないんだよねー」
射撃の命中率はステータスのDEXに依存する。
細工や鍛冶の仕上げなどでも必要になるステータスなので、ある程度は割り振ってあるのだが、それでもヘリオスの要求DEX値には届かない。
装備できない、攻撃できない事はないのだが、その状態では命中率がグンと落ちる。
「あと3レベルも上がれば最低限には届くんだけどなー。それまではポチに依存する事になっちゃいそう」
ごめんね、という意味も込めて尻尾を振る回しながら隣に戻ってきたポチの頭を撫でる。
一瞬、飛びつこうと体勢を変えたポチだったが、ここが危険地帯だと思い出して踏みとどまった。
『キュ~ン……』
「あーもー可愛いなー」
わっしゃわっしゃ撫でながら「本当によくできたAIだなあ」と呟いてから移動を再開した。
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戦闘は完全にポチにお任せして移動する事一時間ほど。
「モンスター多すぎ!」
文句を言いながら千春は『嘆きの渓谷』に到着した。
モンスターと戦闘していたのは、ほぼポチだけなのだが。
千春の所にも数に圧されたポチの横を通り抜けたモンスターとの戦闘が数回あったのだが、それはヘリオスではなくダイナマイト三連打で倒している。
数的には尾王の森での連戦ほどではないのだが、あそことここでは一匹当たりのモンスターの質が違う。
そのためポチの横を抜けられる個体もいたのだ。
ともかく、それを抜けて無事に千春は嘆きの渓谷に到着した。
山のように高くそびえる崖は視界の届く限り横に長く続いており、その岩山の亀裂が道だった。
そういう亀裂が道となり、そして内部では亀裂の道が複雑に絡み合い、ひとつの迷路を作り上げていた。
迂回して先へ進むルートもあるという話(攻略サイト情報)だったが、それをすると移動時間の短縮にはなるがモンスターの襲撃は渓谷ルートの三倍強との事なので、千春は無難に渓谷ルートを選択した。
「迂回ルートには運が悪いと『デススコーピオン』が出るっていうしね」
デススコーピオンは大きなサソリのモンスターで、即死攻撃を有している。
即死を無効化するアクセサリーなどでもあればと思う事もあるが、そんなアクセサリーは所持していないし、それに何よりデススコーピオンは破格のレベル230。
現在の千春の二倍差もある超強敵。
第二大陸のボスよりも強い、という話である。
ポチがいてもさすがに勝てないと判断したため、素直に渓谷の迷路を進む事を決めていた。
「…………でも貴重な素材とかドロップする可能性も、ある、よね?」
後ろ髪を惹かれつつ、千春は迷路へと踏み込んだ。




