68話
第二大陸は機械をメインテーマにしている。
中心都市は『機構都市ベルタス』。
ベルタスの街は地下1000メートルほどの地中にあり、街への出入りにはエレベーターを使う。
人工的な光に照らされたベルタスの街に、千春は降り立った。
「空で歯車が回ってる……」
大小百を超える鈍色の歯車がベルタスの街の空を席巻し、今にも降り注ごうとしているかのようで少しだけ怖いと千春は感じた。
ネタバレ覚悟で、攻略サイトで大陸の事は少し調べてある。
「とりあえず素材屋さんを見に行こうかな」
ゴウンゴウン……ッ、と低音を静かに響かせている空の歯車群を極力視界に入れないようにしながら、千春はベルタスの街の散策を始めた。
鉄と石で建てられたベルタスの街並みは、第一大陸のラグアの街とは大きく様変わりしている。
ラグアの街は平屋か二階建て、大きくても三階建て。
しかし、このベルタスの街は六階建て十階建ては当たり前。
街の中心に地上へのエレベーターがあるのだが、それは千メートル以上頭上にある天井を超えて地上まで続いている。
それだけの質量を支えているのは、天井から伸びる数十本の極太のワイヤー。
「……ちょっと息苦しく感じる気がする」
ここに拠点を構えてもいいかも、という気持ちは消えていた。
今の目的地は千春も口にしていたように素材屋。
マップで素材屋のマークを探して向かうだけなので初見の街でも目的地を探し回る必要はない。
特にトラブルに見舞われる事もなく、千春は素材屋の前まで着いた。
素材屋は八階建て鉄筋ビルの四階にあると看板に書かれているのを見つけた。
ビルに入り、素材屋のある四階までエレベーターで移動する。
「ファンタジー感ゼロ」
チンッ、と到着音が鳴ってドアが開く。
この音は現実世界と一緒なんだ、とどうでもいい感想を思い浮かべてエレベーターを降りた。
エレベーターを降りた先は、すぐに素材屋に繋がっており、いくつものショーケースが整然と設置されている。
客は千春一人だけしかいないようだった。
ショーケースの間を歩きながら、そこに飾られている素材を確認する。
見慣れた数種類の鉱石。
その鉱石から不純物を取り除いたインゴット。
モンスターのドロップする素材アイテム。
中にはボスモンスターの素材も陳列されていた。
興味の惹かれる素材もあるが、千春が欲しい素材はそれらとは別。
千春は第二大陸でしか入手不可能な素材を見に来たのだ。
とはいえ依頼を出せば普通に手に入るため、扱った事は何度もあるのだが。
そしていくつかのショーケースを素通りして、それを発見した。
「あった」
カーボンファイバー。
炭素繊維である。
特徴としては『軽くて強い』。
短所は加工難易度が他の鉱石よりも高く、値が張る事。
それでも軽装鎧でも重装備の鉄鎧と同等以上の性能を発揮するので、カーボンファイバー製の軽装備を求めるプレイヤーは多い。
ただ物理的にはアダマンタイト合金の鎧、魔法耐性ではミスリル装備に遠く及ばない。
あくまでも初心者、中級者よりの装備の中では抜群の性能を誇る、という意味だ。
それでも需要はある。
「ああ、やっぱり他のプレイヤーさんを通して買うよりも、自分の足で仕入れた方が安く買える」
仲介料金が発生しないので当然の事である。
それでも千春はほくほく顔でカーボンファイバーを買い付けた。
素材屋を出た後は、ベルタスの街の依頼板のある場所を確認し、それから宿を取って仮の拠点地として登録する。
千春が拠点を手に入れた後でアップデートがあり、プレイヤーは宿をリスポーン地点として仮登録できるように修正されていた。
登録しなくても何も問題はないが、登録した方が少しだけ便利になる。
戦闘に敗北するとHP0の状態でリスポーンするので、HP回復のために宿まで移動するひと手間が省けるという小さな効率アップだが。
そして何よりも。
「初期復活地点はエレベーター前だから、あいかわらず混雑してるんだよね、他のプレイヤーさんたちで」
その雑踏に巻き込まれないためであれば、登録すると発生する毎日の宿代という出費も千春にとっては必要経費に含まれる。
「早く第二大陸もクリアして第三大陸に行きたいなあ……」
第二大陸の先を夢見つつ、この日はログアウトした。




