56話
尾王の森の攻略法は決められたルートを巡回しているモンスターを避けて進む事である。
攻略法については千春も攻略情報サイトで調べ、すぐに知る所となった。
ただ、攻略法を知ったからと、それだけでクリアできる場所ではない。
森というだけあり、風景はどこもかしこも似通った作りになっているのもあり、正解ルートを覚えるのに千春はだいぶ苦労した。
何度もフォレストウルフの群れと戦闘になり、レベルも上げたり下がったりしながら、ようやく千春は尾王の森最奥部へとたどり着く。
入り口付近以上に草木が鬱蒼と茂り、頭上を錯綜する木々の枝葉も随分と密度が高かった。
若干の薄暗ささえ感じられる最奥部には、尾王の森の由来となるモンスターが泰然と寝そべって千春を胡乱な眼で観察している。
尾王の森の主は道中でエンカウントしていたフォレストウルフを三周りほど巨躯にした、三尾の古狼。
眼前の古狼が今回のクエストのターゲットだと判断し、千春は両手に一個ずつダイナマイトを構える。
「あの男の子の仇!」
直後、古狼が笑ったように千春は見えた。
ゆっくりとした動作で立ち上がる古狼。
四足で立つと、その巨躯が一層際立つ。
古狼の戦意を汲み取る形でバトルフィールドが構築され、千春の視界上部に古狼のHPバーが表示された。
まずは牽制をかねて千春は両手に構えたダイナマイトを投げ、そしてすぐに場所を移動。
反撃を予想しての動きだったのだが、しかし、その予想に反して古狼からの反撃はなかった。
「……ん?」
駆けてすぐ、足元に覚えた違和感。
千春の足首ほどの長さの草が行動を阻害する。
実際、その草があるせいで千春の敏捷性が低下していた。
数字的には一割程度だが、それは千春のステータスが敏捷特化であるためフィールド効果を弱化してのそれ。
重鈍な重戦士などだと敏捷性半減という恐ろしい威力を発揮する場合もある。
『アオオオオオオオンッ!!!』
そのフィールド効果も尾王の森の主である古狼には効果がない。
むしろ己の庭とも言える場。
敏捷性は向上しているほどだった。
「は、速い……」
跳ねるように駆ける古狼を目で必死に追いかける千春。
視線を必死に泳がせて古狼を追いかけるが、元来の千春の動体視力では限界があり、すぐに視線の動きを古狼は追い抜いてしまった。
そして古狼を見失った直後、
「あ……」
背後からの強襲。
気付けば千春の正面に、口からダメージエフェクトを散らす古狼の姿を見た。
そのダメージエフェクトは千春の体から尾を引いている。
そして千春の意識はラグアの街にある拠点へと強制転送された。
「…………どうやって倒すの?」
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現実世界に戻った千冬は、さっそく古狼を倒す方法を調べ始める。
いろいろな人の投稿情報を眺めていると『思った以上に簡単だったわ』という感想が多い。
道中のフォレストウルフが少し強くなった程度だった、との書き込みもある。
「いやいやいや、えー?」
あれが少し強い? と千冬は古狼との戦闘を思い出す。
何もできない内に背後からの一撃で瞬殺である。
「ゲームに慣れてるプレイヤーさんたちにしてみれば、あれでも簡単に倒せるレベルなんだ……」
一瞬、クエストクリアを諦めようかなという思考が生まれる。
でも千春として約束した少年の顔を思い浮かべ、首を横に何度も振った。
「絶対に諦めないから!」
意気込み、書き込みを読み漁る。
そこでバトルフィールドの効果に関しての記述を見つけた。
けれど千冬としては行動を阻害されている感覚こそあるが、そこまで大きな枷ではないとも感じていた。
なのでバトルフィールド効果に関しては一旦は放置。
「それよりも問題は攻撃力の方なんだよね。一撃必殺を回避したいけど今よりも少しくらいスピードをあげられても意味がないような気がするし、それなら防御力を上げたいよね。でもステータスはポイントも多く残ってないし、それなら装備品で防御を固める方向で……」
千冬の夜はこうして更けていった。




