55話
クエストは種類によってマップに目的地が表記されるタイプのものと、そうでないものの二種類に分類される。
今回、千春が受けたクエストは次の目的地がマップに表記されるタイプのもの。
「『尾王の森』かあ。しっぽのあるモンスターがいっぱいの楽園だったりするのかな」
期待に胸を膨らませつつ千春は森を進む。
彼女の脳内では木漏れ日の中、ウサギやキツネと追いかけっこをする妄想が展開されているのだが、もちろんそんなファンシーな場所ではない。
それについては森に入って一分も経たないうちに、千春に現実として突きつけられる。
『グルルルル……』
「あ、うん、そうだよね、オオカミさんにも立派なしっぽがあるものね……」
フォレストウルフ。
森のような障害物の多い場所にて、その機動性を活かして狩りをする猟狼。
第一大陸に生息するモンスターの中では高レベルモンスターとして名を連ねている。
あくまでも『第一大陸では』という限定条件付きであり、現時点で開放されている第五大陸に生息するモンスターと比較すれば最底辺に位置づけられる程度の脅威度でしかない。
ただ第一大陸でしか活動していない千春にとっては、この表記そのままの脅威度である。
フォレストウルフは表情を引きつらせている千春を獲物として認定したらしく、ゆらりと行動を開始した。
ゆったりとした横の動きを見せ、その体を森の木の陰に隠し、うまく千春の視界から一瞬だけ完全に姿を消した直後、タイミングをずらして疾駆。
「ッ!?」
驚愕を声に乗せる余裕もなかった。
稲妻を思わせるステップで接近してくるフォレストウルフ。
千春にとっては秒で接近された感覚だった。
そして防御態勢をとろうにも現在の装備は素手。
装備略奪の対象とされて奪われても痛くないように、と防具も千春が適当に造った初期装備に毛が生えた程度の性能の量産品。
だけれど、仇操花との戦闘で千春が得たのはトラウマだけではない。
「【ダブルスロー】【クイックアイテム】!」
何百回も行使したおかげで体に完全に染みついた動作は、この状況下で無意識に発揮された。
投げられたのは使い慣れたダイナマイト。
地に落ちる前に急接近していたフォレストウルフの鼻先に落下し、爆発。
尾王の森に爆破音が轟き、その爆破をまともにくらったフォレストウルフは大きなダメージエフェクトだけを残して消滅していた。
「……はあ、助かった」
危機を脱した安堵のため息。
しかし、それはいささか早急だった。
『グルル……』
「…………え?」
『グルルルル……』
「……………………え?」
周囲をフォレストウルフの群れに囲まれていた。
一匹、二匹ではない。
十匹以上は確実にいる。
それらが一斉に千春へと襲い掛かってきた。
「そ、それは卑怯じゃないかな!? 【トリプルスロー】【クイックアイテム】!!」
三方向にダイナマイトをばら撒き、その爆破攻撃と爆風でフォレストウルフの攻撃を挫く。
それは千春の想定通りに成功した。
しかし、同時に千春にとって想定外の事態をも招く。
「また増えてる!?」
四匹ほど倒したはずなのに、千春を囲むフォレストウルフの群れは十五匹ほどに増殖していた。
フォレストウルフは群れで行動するモンスターではない。
それなのに数が集まるのは、単純に千春の爆破音に引き寄せられているからだった。
戦闘音に呼び寄せられるという習性を設定されている結果。
対策は限りなく無音で倒すか、もしくは戦闘に突入させない事。
戦闘に突入した時点で連戦は確定し、そして同時に連戦後半になるにつれて一度に戦う頭数も増えていくのである。
結局この日、千春は四連戦目で倒されラグアにある彼女の拠点へと強制転送されたのだった。




