57話
「【クイックアイテム】! 【トリプルスロー】!」
千春は前方三方向へと発掘用ダイナマイトを投げる。
それは深い草の絨毯の中に落ち、炸裂。
バトルフィールド効果に軽くないダメージを刻み、同時に煙幕の役目も果たしていた。
千春は注意深く土煙の煙幕を観察し、
「今回はココッ!」
左前方の土煙が不自然に揺れ動いたのを瞬時に察知して回避行動に移る。
予測した通り左前方の土煙を突き破って、鋭い爪を袈裟に振り下ろすアクションを伴って古狼が飛び出してきた。
そこまで予測していたのだ。
「【ダブルスロー】!」
千春は敵の攻撃直後に発生する硬直時間に攻撃アクションを起こす事で確定で発生するスキル【カウンター】を発動させ、地属性爆弾を投げる。
それは地面に触れる事でその地面を隆起させる効果があり、隆起した地面はランスのような形状で敵を貫く攻撃用の爆弾である。
これまでの千春にはシビアな発動条件の【カウンター】ではあるが、ここ最近に限れば失敗する事の方が少ない。
(この後の古狼の行動パターンは三つ)
距離を取って戦闘を仕切りなおす。
魔法攻撃で千春を吹き飛ばすのと同時にダメージを狙う。
臆する事無く物理攻撃を続けるために肉薄。
正直、千春にとって一番致死率の高い行動パターンは物理攻撃継続である。
逆に、一番嬉しい行動パターンは仕切りなおしてくれる事。
だが、そのパターンはほとんど取ってくれない事を千春は経験で理解している。
『アオオォォオオンンッ!!!』
古狼の遠吠え。
この遠吠えには魔法効果があり、突風で敵を吹き飛ばす効果がある。
同時に、その突風には『風刃』という風魔法効果も付随しており、突風を受けると体まで旋風に刻まれるおまけつきだった。
「最悪じゃないだけましだよね!」
その行動パターンも知っている千春は、対策として『風精霊のアミュレット』というアクセサリーを制作して装備してきている。
風属性の魔法攻撃だけを軽減してくれる装飾品だ。
あくまで『軽減』であるため古狼とのステータス差もあって千春の受けるダメージは大きく、それだけで一気に半分ほども削られた。
これでも対策分だけかなりましにはなったのだ。
対策前など遠吠え一発でゲームオーバーに何度もされた程度には。
(あの爪の方に倒された回数の方が数えきれないくらい多いけどね!)
そう。
初めて古狼に挑戦してから毎日、千春は何度も挑戦を続けていた。
千春自身は百戦目を超えた辺りから数えるのを止めているが、ゲーム記録のゲームオーバー回数は順調に日々記録を更新し続けている。
何百回と繰り返し倒され続けることで、千春は古狼の攻撃パターンや弱点を覚え、何度も死にながら適切な立ち回りを覚え、こうして今では一撃死を回避して「戦闘」と呼べる程度の体裁を整えられる今に至っているのである。
これは『死に覚え』というゲームならではの攻略方法の一つだった。
カウンタースキルの確定発生タイミングでの攻撃アクションも、これにより覚えたものだ。
ただ古狼特化であるため、他のモンスターとの戦闘では同じタイミングでは使えないのだが。
それでも戦闘経験は活きるため、そのタイミングを覚えられるのも次回以降は今回の何倍も早いはずだ。
(今度は突進からの噛みつきが多かったよね確か)
千春が次の古狼の行動を予測し、そして古狼は千春の予測通りに突進してくる。
何回か前の戦闘では、このタイミングで回復アイテムを使用してしまた事で、アイテム使用後の硬直時間にがぶりといかれてゲームオーバーになった。
なので今回は回復したい気持ちを我慢して攻撃アイテムを用意している。
(属性爆弾の中で一番効果あったのは地属性爆弾だったからね)
なので今回も地属性爆弾を準備してある。
本当なら【トリプルスロー】か【ダブルスロー】でダメージも狙いたいが、クールタイム中で使えないため、今回は【クイックアイテム】だけ。
ちなみに【クイックアイテム】を使用せずに攻撃アイテムを投げた場合、古狼は確定ではないけれど高確率で回避してくる。
【クイックアイテム】を使っても低確率で回避される可能性は残るのだが。
ただ今回は千春の『運』が上回った。
『ギャンッ』
「やった!」
隆起した大地の槍が古狼の下顎を強かに打ち、大きなダメージエフェクトを発生させる。
今回の『運』はシステム的なステータスな『運』の事ではなく、リアルな『運』。
狙ったわけではないのに偶然のタイミングで【カウンター】スキルも発動してくれたのである。
少しだけダメージに上乗せがあった。
「……あと半分くらい、かな? あ、半分もHP削れたの初めてだ」




