52話
事前に調べてきていた事もあり、千春は迷う事無くボス部屋まで到着できた。
暗い洞窟内にあって非常に明るい空間のちょうど中央に、変わらずボスである仇操花はいた。
頭頂部に咲いている赤い花も前回と同じだ。
「今度は負けないんだから!」
むんっ、と気合いを入れて身構える千春。
その意気にか、それともプレイヤーの戦意に反応したのかは定かではないが、仇操花が振り返り、そして千春を見た。
瞬間、戦闘が開幕。
千春の視界上部に仇操花のHPバーが表示される。
視界の端から端まで届くほど長いHPバーは、さすがはボスモンスターと納得させられる。
『ガアアアアッッ!!!!』
「きゃっ」
咆哮に込められた威圧スキルの衝撃破に千春は一歩、後退させられる。
そして一瞬、一秒強の時間だけ行動を阻害される硬直状態に。
その間に仇操花は巨躯を駆けさせる。
ズシンズシンッ、と地面を揺るがす振動が千春にまで伝わってくるようだった。
しかし、それだけの巨躯巨体である。
重量も超級であるため仇操花の駆ける速度は遅い。
攻撃範囲内に千春を捉える前に、千春の硬直状態は解除され、すぐさま千春はスキルを発動。
「【クイックアイテム】! 【ダブルスロー】!」
アイテム使用までの時間を大きく短縮するスキルと、通常であれば一個ずつしか使えないアイテムを二個同時に使うためのスキルを発動。
使うのはもちろん『ダイナマイト』である。
二つのダイナマイトが千春の前方、仇操花の進行方向に投げ込まれる。
そして地面に落ちた直後、二度続けての大爆発。
爆発のエフェクトで仇操花の姿は隠されるが、それはわかっていたので千春は視界上部に表示されているHPバーで効果のほどを確認する。
「……へ、減ってる減ってる!」
千春の言葉通り、確かに仇操花のHPバーは減少していた。
ほんの一ミリ程度ではあるが。
その現実を目の前に、少しだけ不安そうに千春は呟いた。
「…………足りるかな」
足りなければその時に考えようと切り替えて、千春はクールタイムを終えて再使用可能となった【クイックアイテム】を再使用。
「【トリプルスロー】!」
今度は三個同時にアイテムを使用できるスキルを発動し、三個のダイナマイトを前方に投げる。
【ダブルスロー】のクールタイムはまだ少し残っているための措置である。
ちなみに現在の千春が習得している複数個のアイテム同時使用系スキルはトリプルまで。
なのでクールタイムを考慮して、この二つのスキルを交互に使っていく予定だった。
「あ、いける。【クイックアイテム】【ダブルスロー】」
再び二個のダイナマイトを投げ込む千春。
仇操花の姿こそ目視できていないが、まだそこにいるのかはHPバーの減少の有無で確認できている。
そして今度は【トリプルスロー】を使用しようとして、
「うーん、やっぱり【トリプルスロー】はクールタイムが少し長いなあ」
ダブルよりも上位スキルであるトリプルのクールタイム」は、少しだけダブルよりも長く設定されている。
【クイックアイテム】はほぼクールタイムなしで連発できるので、そちらに問題はない。
そのため【ダブルスロー】を再使用した後すぐに【トリプルスロー】を再使用する、という嵌め技のような感じにはできない。
千春はダブルかトリプルが再使用可能となるまで仇操花の攻撃を回避し続ける、もしくは逃げ回る必要があった。
その時間で爆発のエフェクトも晴れ、仇操花の姿を再び視認できるようになる。
ダイナマイトの効果で岩の地面に小さく浅い穴が開き、仇操花はそこで動きにくそうにしていた。
普通のプレイヤーであれば、その好機を逃さず距離を詰めて通常攻撃もしくは直接攻撃スキルなどで追い打ちをする場面である。
千春も短剣を装備すれば【ダブルスラッシュ】などのスキルは使用可能なのだが、今回は使えない。
前回の『敗北時に装備武器を奪われる』という仕様がトラウマとなり、今回、千春は丸腰で仇操花に挑んでいるからだ。
それはともかくとして、現状について千春は首を傾げる。
「何でわざわざ穴の開いた所を通って前進してくるんだろう? 穴を避けるように回り込んでくればいいのに」
穴ぼこに足を取られて歩きにくそうに前進している仇操花は、しかし獲物である千春を目指して愚直な前進を続けている。
おかげで、とでも言えばいいのだろうか。
仇操花が千春にたどり着く前に、千春の【トリプルスロー】のクールタイムが終了。
即座に千春は三個のダイナマイトを仇操花に向けて投げた。
三連続する爆発。
そこに連携ボーナスも加算され仇操花のHPバーの減少が心なしか多かった気がした。
直後にクールタイムを終えた【ダブルスロー】によるダイナマイト攻撃を行い、再びできた待ち時間で仇操花から距離を取る。
そして油断なく爆発エフェクトの中にいる仇操花を警戒していると、その文字が視界内に出てきた。
赤背景の文字はモンスター側がスキルや魔法を使うときに表示されるものだ。
「【養分吸収】? …………あ、回復だこれ!?」
千春の行動を無に帰すように、仇操花の減少していたHPバーは満タンに。
「そうだった……。地面から養分を吸い上げて回復してくるって攻略サイトにも書いてあったっけ」
振り出しに戻された感が強いが、それでもまだ心が折れるほどではない。
減らせていたのも四ミリ五ミリ程度のもの。
そう言い聞かせてから泥仕合が再開された。
▼ ▼ ▼
戦闘開始から一時間半ほどが経過した。
千春も精神的に戦闘継続が厳しくなり始めた頃だ。
ダイナマイトや属性付きダイナマイトで攻撃を続け、適当な所で回復される。
それを何度となく繰り返していた。
その証拠にボス部屋の地面は、ダイナマイトによる破壊痕のない箇所を探す方が困難であるほどの荒れ具合に変貌を遂げている。
「【クイックアイテム】【トリプルスロー】」
仇操花のHPバーを一気に一センチほども削る。
属性爆弾を使用したからではない。
使ったのは普通の発掘用ダイナマイトだ。
「そういえば回復も全然してないよね」
おかげで仇操花のHPバーも残すところ三割程度。
「理由はわからないけどチャンスはチャンスだよ! ここで畳みかける! 早く終わらせて帰って寝たいもん!」
精神的な疲労は困憊しきっている。
虎の子の属性爆弾も全放出して倒しに行く事を千春は決め、それから三十分ほども爆弾を投げてはたまに逃げるという行動を繰り返し、とうとう仇操花のHPバーが砕け散る。
作ってきた爆弾系アイテムの残弾は非常に少ない。
最初の頃の硬さのままならば、確実に間に合わなかっただろう。
「よくわからないけれど途中から柔らかくなってくれたから助かったよ……」
それには理由がある。
千春の使っていた爆弾はダイナマイト。
元は発掘用のアイテム。
それを武器として使用すると仇操花へのダメージはもちろん、それ以外にフィールド効果へもダメージを与えていたのである。
ただし、これが草原や水辺などであれば効果は得られなかったのだが、今回のフィールドは岩場。
ダイナマイトの効果は『岩を破壊する』という部分に集約している。
その効果によりボス部屋のフィールド効果は破壊され、荒れ地と変化された事で回復もできなくなり、加えて大地の加護という物理防御補正効果も打ち消されたのである。
頭頂部に咲く花が本体だったからこその勝利であり、これがもし熊の方が本体であれば千春は絶対に勝てなかったと断言できる。
「あ、そうだ」
疲れているので早く帰ろうとしていた千春は、ボスのドロップアイテムの事を思い出して周囲を見回す。
爆発痕の中に小さな宝箱が転がっていた。
ててて、と駆け寄って宝箱を開ける。
罠が仕掛けられてるかも、とか開ける前に警戒しろと教えられた事も今は思い出せない程度には疲れていた。
幸いにも罠は仕掛けられておらず、宝箱の中には強く白光する鉱石が収められていた。
プレイヤーから奪った装備品はないようだ。
千春は鉱石を手に取り、
「太陽石……あ、これレア素材だ」
苦労が少しは報われたように感じられて、少しだけ口元を綻ばせた。




