53話
千春は最初の街であるラグアを歩いていた。
彼女の拠点があるのもラグアなので、この街を千春が歩いていても不思議ではない。
不思議なのは千春の歩き方。
普段であれば他プレイヤーの目に触れないよう、こそこそと歩いているはずだから。
それなのに今日の千春は堂々と往来の真ん中、ではないが、それでも往来の隅を周囲を警戒する小動物のように歩いていた。
千春がラグアを歩けているのは、いま、ここには限りなくプレイヤーが少ないからである。
普段と変わらない人出に見えるが、その九割以上がNPCだった。
プレイヤーがいない分NPCを投入する事で賑やかさの演出をしているのだ。
NPCなら平気と胸を張って言えるほどコミュ力は上昇していない千春だが、それでも唐突に話しかけられる事はないため、普段よりは比較的に安心して穏やかに街を歩けている。
さて。
今回、千春がラグアを散策しているのは、なにも目的のない散歩のためではない。
露店に関してもしばらくは休むつもりである。
「開店しても今はお客さんも来ないだろうし」
確信している口ぶりで言う。
実際に営業してみれば客数ゼロという事態にはならないだろうが、それでも普段よりも確実に客入りは減少すると簡単に予想できる。
理由は簡単で、新しく開放された新規エリアの街にあるカジノに、その新規エリアのモンスター狩りに、新素材収集に夢中だからである。
とはいえ千春としてもカジノに行きたい気持ちはある。
ギャンブルに興味があるのではなく、いや少し興味はあるのだが、カジノの景品に鍛冶の際に品質をアップさせられるハンマーがあるのだ。
しかし新規エリアに行くには、それまでに開放されたエリアのメインシナリオを全てクリアする必要があり、千春はメインシナリオを全くと言って過言とならないほどにプレイしていないシナリオライター泣かせの子。
それならばシナリオを進めればいいのだが、今も少数ながら毎日、誰かが序盤シナリオをプレイしている。
千春もメインシナリオを進めてみようと挑戦したのだが、先客がいたので早々に諦めた口だった。
では今回の千春の目的は何なのかといえば、前回手に入れたレア素材『太陽石』を使ったレシピをゲットする事にある。
通常の鍛冶レシピは鍛冶職のレベルを上げたり、レシピを購入したり、現実的ではないが適当に素材を用意してという事も可能だ。
ただ『太陽石』を使ったレシピに関しては千春も習得していないし、購入したレシピにもなかった。
なので攻略情報サイトで調べた結果、今回の散策となったのである。
「ゲートの前にいるんだったよね、確か」
千春はラグアの街の中央にあるゲートまでやってきた。
拠点を手に入れてからはゲーム開始場所は拠点に設定しているが、その前まではこのゲートが開始位置だった。
そして千春の探し物、というか探し人はすぐに見つかった。
「お願いします! どうか仇を! ばーちゃんの仇を討ってください!」
ゲートで声を上げているのは少年。
道行く人に声をかけている。
しかしNPCはもちろん、その中に混ざっているプレイヤーも少年を無視して談笑して歩き去っている。
幽霊、という文字が脳内に踊って表情が引きつりそうになる千春だった。
ただ単に少年NPCの頭上に『talk』アイコンがないので他プレイヤーは話しかけないだけで、その少年が何かしらのクエストである事は理解しているので『クエスト発生条件あとで調べてみるか』というような会話をしつつ他プレイヤーたちは離れていく。
目立ちそうだし話しかけるのちょっとヤダナー、と思いつつ、再び今度は違う理由から表情を引きつらせて少年へと歩み寄る。
(話しかける前に深呼吸しよう)
相手がNPCだとわかっていても、自分から声をかけるのはいつでも緊張する千春。
そして千春がすーはーしている最中に、
「お願いします! ばーちゃんの仇をとってください!」
「ひゃわああっ!?!!?」
ラグアの街に少年NPCの声よりも一段と大きな奇声が上がった。




