47話
リシュティナ大森林。
自然が鬱蒼と生い茂り、場所では昼でも夜のように頭上を錯綜する木々の葉が日光を遮り、夜のように暗い場所。
位置的には広大過ぎる大森林の丁度中央付近に、その洞穴はある。
生い茂る草で巧妙に隠された地下への入口。
「ここに光の魔石があるの? 本当に?」
千春が疑わしく思うのも無理はない。
水の魔石はエルベ湖畔の湖の中にあった。
火の魔石はアラロワナ火山に。
であれば光の魔石は光り輝く何処かにあると千春は勝手に推測していた。
例えばダンジョンであれば、そのダンジョン全体が水晶で構築されているなどだ。
少なくとも一切の光を遮るような場所にあるとは想像もしていなかった。
「こんな所に光の魔石探しで来ないよ……」
三桁を突破した攻略情報掲示板を根気よく最初の方から確認した甲斐もあったというものである。
発掘した達成感に浸っている時に『情報まとめスレ』というものを発見した気がしたけれど、2時間以上もの苦労を水疱と化す存在を、賢明な千春は見なかった事にした。
とにかく。
掲示板で根気良く調べた情報では確かに光の魔石は『リシュティナ大森林地下洞にある』と書き込まれていた。
地下洞穴付近まではNPCテレポーターが送ってくれた。
だからこそ他のプレイヤーも、この付近に何かあるんじゃね? と人海戦術による大捜索を敢行したのだけれど。
「まあとりあえず行ってみようかな」
千春は呑まれそうなほどの深い闇の中へと続いているリシュティナ大森林地下洞へと足を踏み入れた。
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そこは文字通り一筋の光もない純粋な闇の中だった。
目の前に翳してみた自分の手の輪郭さえ千春は見る事が叶わない。
それほどの暗闇に支配されたダンジョンだ。
当然、千春は足元を確認して歩く事さえできないでいた。
「なるほど。だから魔法が必要なんだ」
実は今、初期から所持している洞窟ダンジョン攻略の相棒でもある『たいまつ』を使用している状態だったりする。
どんな原理なのか、たいまつに灯した火の光は周囲を照らす事はなく、闇に呑まれて本来の自然効果をまったく発揮していない。
それは情報掲示板で書かれていた事。
読んできた千春ももちろん知っている。
それでも千春は自分でも試してみたかった。
そして、その解決策も情報掲示板にあったため、準備は万全である。
「【ライト】!」
ラグアの魔法屋で100Gで販売されている初級魔法である。
消費MP1で使用できる魔法は、アイテムの『たいまつ』と違い手が塞がらないためプレイヤー必須魔法の一つとされている。
今日まで千春は持っていなかったのだけれど。
ライトの魔法の灯りが暗闇を晴らす。
それでも視野は普段より圧倒的に狭い。
せいぜい3メートル先が見える程度だった。
「黒い、壁……?」
千春の現在地は狭い通路。
両隣から圧迫する土壁は黒土だった。
初めて見る光景に千春は少しだけ恐怖する。
「進んだ先で土砂崩れトラップとか、ない、よね……?」
それがフラグとなったのかは神のみぞ知る所である。
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黒土の道は意外にも不安定な足場ではないかった。
千春の想像では砂場の上を歩くような気持ちでいただけに、少しだけ拍子抜け。
苦労するよりは楽な方が千春個人としても好ましいので文句はない。
ただ別の苦労が付いて回っている。
周囲の暗闇を照らす光の球体は15センチほど。
照光範囲は3メートルほどの円形。
狭いとしか言いようがなかった。
それでもと足を踏み出した瞬間、
「ぴいっ!?」
キーッキーッ、という鳴声が響いた。
次いでバタバタバタッという強い羽音。
闇の中から光の中へと入り込んできたのは、ただ大きいだけのコウモリ。
スティールバット。
噛まれると血を吸われ、その吸血行為により自身のHPを回復するモンスター。
千春は炎帝の短刀は腰後の鞘に納めたままストレージから千春の自在剣を取り出して構える。
「【サイコキネシス】」
魔法を使う。
自在剣は千春の意識した通りに動いてはくれるけれど、かなり大雑把。
ノエルほど精密に動かせそうもない。
千春を小馬鹿にするようにスティールバットは小円を空中に描く。
警戒してかもしれないけれど、けれどその動きが千春には自分を小馬鹿にしているように見えたのだ。
行って! と自在剣に念じれば、命令を受信した自在剣は空中を滑るようにスティールバットへと放たれる。
しかし、放たれた自在剣はスティールバットが旋回運動のタイミングを少しずらしただけで簡単に回避された。
「ぅぅ……っ」
回避され、千春は自在剣に反転を指示し、再びスティールバットを襲わせる。
戻ってくる事はスティールバットのAIも完全に予想外だったのか、今度はしっかりと命中させられた。
ただし。
ばしっ、と擬音が聞こえそうな威力と速度で。
スティールバットの薄皮を斬る程度の攻撃は、1ダメージしか入れられない。
だがこれは当然の結果とも言えた。
【サイコキネシス】で操作している時、自在剣は魔法攻撃と判定される。
千春のステータスの最低値はVIT。
その次に低いステータスがINTだった。
「………………」
無言で何度も攻撃する。
結果1ダメージが積み重なっていく。
鬱陶しいのだろう。
スティールバットは足、否、羽を止めて自在剣を叩き落とそうと躍起になっていた。
見ようによっては猫じゃらしにじゃれつく猫と同じように見える。
猫ほど可愛くない事こそが千春にとっては救いであり同時に問題なのだが。
ともかく1ダメージを積み重ねるだけでは、いつかは倒せるだろうが時間がかかりすぎる。
かといって自在剣では致命傷を与えられそうもない。
千春は物悲し気に自在剣を呼び戻し、宙に浮いている自在剣を回収。
邪魔するものがなくなればスティールバットのターゲットは千春に移る。
迫るスティールバット。
口を大きく開けて噛み付き攻撃のモーションに入るが、そこは腐ってもメイン職『暗殺者』の千春である。
スローモーションのように動きが細部まで見切れるため、その攻撃に合わせて腰後から炎帝の短刀を抜き、攻撃。
バシュッ! と音がして大きく斬撃の弧を描くエフェクトが発生する。
その一撃でスティールバットは撃沈。
地面に落ちる前に光の粒子と化して消滅した。
今の千春であれば普通に攻撃した方が強いのはステータスがすでに証明している。
その後、何度も襲ってくるスティールバットをカウンターで撃沈して地下洞を先へと下って行く。
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地下洞に入って10分弱で14回のエンカウントは確率的におかしい。
全て難なくカウンターで一撃必殺してきたけれど。
人の目さえなければ結構強い千春なのだった。
それはともかく。
これだけ襲われる理由が何かあるとしか思えなかった。
「何か……。モンスターを引き寄せてる何か……?」
腕を組んで考える千春。
瞼を開ければ、そこには光り輝く魔法の玉。
経過時間毎に維持のためのMP消費もある魔法。
「目指すべき、め、じる、し…………」
暗闇の中にあればきっとこの上なく目立つ事だろう発光体。
視覚が退化しているスティールバットは魔力を感知する感覚に優れているため、この【ライト】の魔法はいい目標でもある。
それに【ライト】の魔法の付近を超音波で探るようプログラムされている。
「確実にこれのせいだよねっ!!?」
元凶が発覚した瞬間、頭を抱え全身を捩じって叫んでいた。
消したいのに消せないジレンマに襲われた千春だった。




