34話
千春のお仕事はドロップアイテム回収係となった。
さすがに躓き転ぶたびに、ざわっ、とされ、視線を浴びていては心がもたないと自己判断した結果だ。
それだけ転んでいるという意味でもあるのだけれど。
「ぶちかませ、ケイ!」
「おっけ~!」
スカイギルの水鉄砲をルシが受け、その間にスカイギルの背後をケイが強襲する。
命中率の低いケイの一撃だけれど不意打ちとなると命中率に補整が入る。
入る補整は微々たるものではあるけれど、その微々があながち馬鹿にできなかったりするものなのだ。
不意打ち補整入りのケイの大振りの一撃は見事スカイギルを両断し、その体を光に変えた。
宙空で消滅したスカイギルからキューブ状のアイテムがドロップする。
「銀コイン、ゲットです!」
すごく嬉しそうな笑顔で報告してくれる千春。
「ありがとうございます、千春さん」
完全に千春の虜となっているノエルは、すべてを忘れて千春の頭を撫でる。
千春としては子ども扱いされているようで微妙な気持ちになる。
けれどノエルの幸せそうな顔を見てしまうと、手を振り払う事も躊躇われる。
それに子供扱いには思う所はあるけれど、ノエルの撫でる手は気持ちいいのも強く抵抗できない一要因になっていたり。
「おらっ、ノエル。次が来るぞ」
「私の至福の時間を邪魔するとはいい度胸です」
ゆらりと、まるで幽鬼のように振り返り、視線を上空へと向ける。
空には無数の、それこそ数万匹にも至りそうな数のスカイギルが群れをなしている。
その群れから一匹のスカイギルが降下してきた。
何故かスカイギルは群れでいるのに、倒されると倒された分を補充するように一匹ずつしか降下してこない。
面倒だから、と一度ノエルが高空まで自在剣を飛ばして群れの中を掻きまわそうとしたのだが、それは群れ全体を包む防壁により阻まれ、成功しなかった。
他のプレイヤーも魔法を撃ち込んだり、狙撃してみたりと試してみたが、全て同じように群れ全体を包む防壁に阻まれ、失敗している。
物理も魔法も防ぐ防壁を突破する術は思いつかず、こうして一匹ずつ地道に地上に降下してきたスカイギルを狩るしかプレイヤーには方法がない。
「【サイコキネシス】」
いつものように自在剣を操り自身の周囲に展開する。
その本数は四本。
地味に増えていたりする。
戦闘では役に立てない千春が、自分のできる事を考えて日々頑張り続けている証でもある。
だからノエルにとってデータでしかないはずの自在剣は、けれど何にも代えられない宝物の一つになっていた。
本当であれば使わず、誰にも触れさせず、床の間にでも飾っておきたいくらいなのだが。
それをすると千春が悲しそうな目をするのだ。
その事をノエルは実体験として知っていた。
だからノエルは使う。
その武器で成果を上げる。
降下してきた直後の硬直の隙間に、スカイギルの上下左右の四方から自在剣を突き立てる。
そして突き刺さった自在剣を、スカイギルを貫いたまま回転させる。
ぶつ切りにされたスカイギルは攻撃すらさせてもらえないまま光となり消滅した。
えげつねえ……、と少しだけスカイギルに同情したルシだった。
▼ ▼ ▼
イベントも四日目に突入した。
現在、千春たちのコイン所持枚数は銀431枚、金0枚。
順位は現在8位。
首位は『イベント連合』というパーティ。
今回のイベントのためだけに組まれた彼らは、その物量に物を言わせて四日間で銀4118枚、金37枚を集めている。
2位が攻略組で銀1271枚、金7枚。
3位以降はほぼ団子状態。
ただ、ここまで差が開いてしまうと『イベント連合』の1位は確定とみていいだろう。
攻略組の2位も盤石といえるだろう。
「昨日まではあたしらが4位だったのに一晩で4つも落ちてやがる……」
しかめ面でルシは吐き捨てるように言った。
順位の変動、特に落とされる側になるというのは、やはり面白いものではない。
夏休みでもない限り朝から晩までエンドワールドにログインしてはいられない。
「でしたら私たちが抜き返せばいいだけの話でしょう、ルシ?」
「狩って狩って狩りまくるよ~!」
「わたしも頑張ります! ドロップアイテム拾いですけど……」
自分で言って少し落ち込む千春。
「千春がドロップアイテム拾ってくれてるから、あたしたちはすぐに次のスカイギルと戦えるんだ。十分に千春も貢献してくれてる」
大きな手でガシガシと撫でられる。
やっぱり子供扱いされてる……? と唇を尖らせて小首を傾げる千春だった。
▼ ▼ ▼
イベント用に作り変えられたラグア近郊の無人島に、テレポーターNPCに移動させてもらう。
相変わらずの混雑具合。
上空も相変わらず、地上以上に混雑していた。
千春たちがフィールドに入ると早々に高空からスカイギルが降下してきた。
「ん?」
「あれは……」
ルシとノエルが降下してくるスカイギルを見て違和感を覚えたようだ。
けれど千春とケイは何も感じない。
二人で顔を見合わせて首を傾げていた。
「幸先いいじゃねえか」
「ええ。レア種ですね」
「「え!?」」
降下途中のスカイギルを注視する。
けれど二人にはいつもと同じに見えた。
「…………どこが違うのさ~?」
焦れたケイが、違いの分かる二人に聞く。
声が少し拗ねていて千春は笑ってしまった。
笑わないでよ~、と怒ってみせるケイも声が楽しそうだったため本気で怒っているわけではない。
「水色の体にはしる白いストライプ……。いいえ、あの白は、たぶん銀だったんでしょうね。そこが金色になってるんですよ、あの個体は」
言われて注目する。
確かに金色に見えなくもなかった。
ただ太陽の光の反射でそう見えただけだろ、と言われてしまえば、そうかもと思えてしまう。
そして地上に降下(それでも宙には浮いているけれど)した所でまじまじと見れば、そこでようやく二人も納得した。
確かに柄は金色だった。
「【絶水の盾】!」
「【清流の加護・Ⅱ】」
ここ数日の定番となる戦闘態勢を取る。
ルシの防御効果を広範囲に広げる装備スキル。
そこにノエルのスキルで水属性耐性20%を上乗せする。
これで水属性攻撃に関しては完璧な対策を施せた。
後は殴り倒すだけである。
「おっし! ケイ! いつも通りだ!」
「あいつが攻撃してきたら回り込んでどっかーんっ、だね~! 任せて~!」
これが一番楽だった。
情に脆いルシの心の安定にも繋がる。
ノエルの戦術はルシの心的にいけない。
そして待っていたスカイギルレアの攻撃。
けれどそれは彼女たちが想定していないものだった。
普通のスカイギルよりも一回り大きなスカイギルレア。
その口が酸素を求めるようにパクパクと動く。
そして口の前には複雑な模様の重なる青の魔法陣。
嫌な予感がして、けれどこれまで水系の攻撃はルシのおかげで完全に防げてきている。
果たしてそれは慢心であり、そして油断だったのだろう。
「ッ!? 下です!!」
ノエルの声に全員がほぼ同時に足元を見る。
そこにはスカイギルレアの口前で煌々と青く輝いている魔法陣と同じものがあった。
直後、魔法陣から水が噴き出した。
間欠泉のような、それを数倍強力にした水の一撃。
「きゃああああっ!!?」
ごっそりと千春のHPが減少する。
ノエルとケイのHPバーも黄色に変わり危険信号を発している。
特に直下だったルシのHPバーは赤一歩手前という所。
VIT値をガチガチに固めているルシで、これだ。
紙装甲の千春は耐えられたか不安になる中、彼女はどうにか動いていた。
千春のHPバーは真っ赤に染まり、残量も本当にギリギリ。
次の攻撃が掠るだけで墜ちる事は確定している。
「わりい! 驕った!」
簡潔なルシの謝罪。
ルシの装備スキルである【絶水の盾】は前面の攻撃にしか効果の得られないスキルだ。
足元からの攻撃、背後からの奇襲などには対応していない。
少なくともルシはそう思っていた。
「ごめんなさい。私ももっと注意を払っておくべきでした」
続いてノエルも謝罪する。
「それなら、わたしなんて製作者なのに……!」
千春まで加わっての謝罪合戦になりそうな勢いだった。
それは不毛だ。
誰一人として自分以外を責めていないのだから。
「そんなの後! 今は敵を倒すよ!」
体力回復ポーションを取り出しで飲みながらのケイの言葉。
ケイに言われて戦闘を終わらせる事を優先する。
全員がまずはストレージから体力回復ポーションを取り出して一気に飲み干す。
激減していた体力を半分ほどまで取り戻す。
千春の場合は減り過ぎていて三割ほどまでしか回復していない。
けれど完全に回復している時間的余裕はなさそうだった。
それからルシは、何よりもまず最初に【絶水の盾】が可動させられないかを試してみる。
ルシがその場で回ると、彼女の正面に【絶水の盾】は付いてくる。
手を伸ばし、手の動きに連動するように意識して動かしてみれば【絶水の盾】は側面にも、その気になれば後方にも移動は可能だった。
であれば話は簡単だ。
再びスカイギルレアの口の前に魔法陣が煌々と輝き始める。
ルシは周囲に意識を巡らせる。
何一つ細かな違和感すら見逃さないために。
「そっちか!」
先に手を動かし、左側面に手の動きと連動させた【水絶の盾】を移動させる。
直後、宙空に魔法陣が描かれ、間髪入れずに高威力の水鉄砲が放たれる。
スカイギルレアの水鉄砲はルシに分解され、霧散し、消散した。
「えーいっ!」
相変わらずの、裂帛とは対極にあるようなゆるーい声。
しかしそんな声とは裏腹に振り落とされるのは致死の一撃。
当たれば、だが。
「あ」
そんなケイの声が結果を物語っていた。
ミスった。
しかし完全に無駄な攻撃だったわけではない。
ケイの全力攻撃により生まれた爆風に煽られ、バランスを崩したそこにノエルの自在剣が殺到する。
ザザザザンッ、とスカイギルレアを大地に縫い付けた。
身動きの取れないスカイギルレアにルシが歩み寄り、めったに使わない手斧を振り下ろした。
光となり消えたスカイギルレアのドロップアイテムは千春が拾う。
「とりあえず次が来る前にHPを最大まで回復しておきましょう」
「はい。ポーションです」
ノエルの提案で千春はストレージから水色の液体の入ったポーションを取り出して配った。
自分も飲む。
さらりとした液体は無味無臭。
不味くはないけれど美味しくもない。
「もう油断しねえ!」
ポーション瓶を握り潰してルシが言った。
「千春さんは大丈夫ですか? 痛い所はないですか? 私がついていながら怪我をさせてしまって……」
「い、いえ、大丈夫ですよ! それよりも、もっとわたしが装備スキルとかに熟知していればとは思いました。鍛冶職って武器とか防具を作ればいいだけじゃないんですね……。勉強になりました」
意外と前向きな千春の言葉が意外だったのか、ノエルとルシはきょとんとしてから笑う。
驕らない。
油断しない。
それは大切な事なのだろう。
けれど気負い過ぎて失敗を繰り返しても意味はない。
所々で力を抜く事も必要なのだから。
その後も気を取り直した四人は順調にスカイギルを狩り続け、イベントが始まってから最高順位である3位で四日目を終えた。




