33話
「あ、いたいた。あのコたちだろ?」
「ん? ああ、ぽいな。情報掲示板に載ってたパーティ構成だし」
鈍く青色の光沢を放つ鎧を装備したプレイヤーが指を向けた先には最近話題になっているパーティの姿がある。
女キャラだけのパーティは、絢爛な蒼銀色の装備で統一されていた。
彼は自分の装備と彼女たちの装備を見比べ、そして大きく肩を落とした。
見た目からして質が違い過ぎるから。
「お。ちょうど戦うみたいだぞ」
見れば彼女たちは戦闘態勢で上空に視線を向けていた。
その視線を追えば、そこにはスカイギルがいる。
パーティの蒼銀色の重鎧を装備した2メートル近い巨躯の盾役が無防備に先頭に立つ。
そしてスキルを発動したのだろう。
何もない空間に一瞬だけ波紋が広がるのが彼らにも見えた。
現実世界であれば確実に見落としていたであろう現象(そもそも現実にはあり得ない現象だけれど)もゲーム内視力補整のおかげで確認できた。
そしてスキルの盾完が完成するのとほぼ同時にスカイギルの水鉄砲が放たれた。
彼らは身をもって水鉄砲の威力を知っている。
水耐性値23%の防具を装備した上で盾を使って受け止めた結果、見事に吹っ飛んだ。
HPも防御状態で受けた水鉄砲で一気に半分まで削られた。
彼らがリスポーンを覚悟したほどの一撃は、けれど盾すら構えていない盾役の彼女のスキルの盾に阻まれ、触れた部分から水が消失していく。
ただ防がれているのではない。
本当に字句通りの意味で、この世界から消えて無くなっているのだ。
そしてスカイギルが全ての水を吐き切った所に小柄な少女が、身の丈を倍する毒々しい真紅の両手剣を担いで突撃。
振り下ろされた瞬間、これまた字句通りの意味でスカイギルが爆発四散。
まるで腹の中に手榴弾でも詰め込まれていたかのような爆発具合であった。
そしてコインがドロップしたらしく嬉しそうにスカイギルを爆発させたのとは別の小柄な少女が拾いに駆けだしていた。
「間違いないみたいだな」
「実際に自分の目で見ても信じられない光景だったけどな」
「え? あれチートじゃねえの?」
「「それだけはマジでない」」
「え?」
「ここの運営、頭おかしいレベルでセキュリティ、ガチガチに固めてるから。そのセキュリティを突破してチートしてんなら、むしろ俺は彼女らを尊敬して崇め奉るね。是非弟子にしてもらいたい。いやマジで」
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「多分あれがシンボルだよな」
彼らの視線は、彼女たちの装備の一部分に集中している。
「メイド服着たうさぎ、だな」
「攻撃する時に光ってるんだけど、あれ」
「何か特殊な効果とかありそう」
「あるだろ、当然」
「それにしても可愛らしいマークだよな。光ってっから余計に目立つし」
「ああ。可愛いけどな! 萌えるけどな! 目立ってるけどな!」
「ただ戦闘有利キャラメイクのせいでゴツムサ男キャラになってる俺が装備しても許されるものなのか否か」
「周りが許しても自分が許せるかは微妙。でも高性能なら使う」
「画像使って掲示板で検索かけてきた」
「行動早えな、おい」
「お仕事ご苦労様です! それでどうだった?」
「彼女らの装備に関係してるっぽい情報はなかった」
「なら直接聞くしかねえな」
決めて彼らは遠巻きに眺めていたパーティへと近付いていく。
「あのさ、ちょっといいかな?」
「ぴいっ!?」
声を掛けた瞬間、背丈の小さな小学生ほどの女の子に悲鳴を上げられた。
それだけで声を掛けた彼の心はダンプと正面衝突したかのような衝撃に曝される。
簡単に言えば心が折れそうだった。
「おう、いいぜ」
盾職の巨躯な女性プレイヤーの応に心を救われる思いだった。
「その装備を作ってくれた人、よかったら俺たちにも紹介してくれないかな?」
あん? と言って彼女は背後に視線を向ける。
教えるかどうか仲間と相談しているのかもしれない、と彼は考える。
腕利きの鍛冶職人プレイヤーは貴重だ。
客が増えれば自分たちの相手をしてもらえなくなるかもしれないほど忙しくなる場合だってある。
故にプレイヤーの中には、そういう情報を秘匿する者も少なくない数いる。
彼女たちの場合、全然そういう意味ではないのだけれど。
ひょっこりと。
大柄な彼女の腰の辺りから小学生くらいの小柄な少女が顔を覗かせる。
けれど彼らと目があった瞬間に隠れてしまった。
そのせいで彼らの心に小さくない傷が刻まれていく。
「売ってるとしたらラグアの裏通りにある白い小さな拠点だな。そこで買えるかはあたしらも保証はできねえけど。あたしが教えられんのはそれくらいだな」
「十分だ! ありがとう! 情報料はこれで足りるか?」
「ん、さんきゅ。あー、あと行くならイベント後にしときなよ。まだ開店してねえから」
情報料として彼らが送ったのは3万G。
少なくもなく多すぎもしない。
しかし丁度いいのかと問われれば微妙と答える金額。
まだ誰も知らない初出の情報と考えれば、それは安すぎる金額だったかもしれない。
けれど彼女たちはそれでよかったのだ。
一人、驚愕の表情で固まる少女以外は。
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彼らが急ぎ足で立ち去った後、その場に残った彼女たちは雑談を続けていた。
「さあ、これで逃げ場はなくなったな、千春?」
「今頃あの人たち、これからオープンする予定のちーちゃんのお店を宣伝してくれてるかもしれないね~」
言われた千春は釣り上げられ酸欠状態の魚の様に必死に空気を食べていた。
これが現実世界であればスカイギル顔負けの青白い顔色をしていた事だろう。
この情報、張本人であるはずの千春にとっても初耳なのだからそれも当然の反応だった。
「まあ安心しろって。あたしらも少しは店を手伝ってやるからよ」
「うん! 素材集めは任せて~!」
とは言え基本的には店関連は全て千春にやらせるつもりではある。
これは対人恐怖症やら何やら複数の持病(?)を持つ千春に対する愛の鞭という名の荒療治である。
それに今回のイベントで『メイド兎装備』は随分と有名になった。
作りっぱなしで放置、もしくはストレージの肥やしとなるだけの装備品たち。
ならば作り手である千春の将来のために最大限、役立ててやろうという腹積もりだ。
「これも千春のためだ。文句ねえよな、ノエル?」
渋々と。
苦々と。
本当に苦渋の選択をさせられたかのように重々しく首肯するノエル。
これが千春のためになるかどうかはともかく。
ケイとルシは純粋に千春のためを思って行動している事をノエルも理解しているから。
彼女としても全てを否定する事はできなかった。
「けれど、それもこれも全てはイベントが終わってからの話です。今は全力で目の前のイベントで入賞を目指しますよ」
「おう!」
「お~!」
「……おー」
千春は半ば本気で「イベント1年くらい続いてくれないかなあ」と遠い目で願っていた。




