32話
降下途中のスカイギルをノエルの自在剣が強襲する。
本来STR依存武器であるはずの浮遊石のナイフは、初級魔法【サイコキネシス】で操作される事によりINT依存武器となっている。
そのためSTR値ワースト職業である魔法使いのノエルでも一撃必殺可能な武器となっていた。
ノエルの自在剣により倒されたスカイギルが光に溶け、けれど今回のドロップアイテムはなかった。
「おっしゃ! 次だ次ッ!!」
ドロップしなかったものは仕方ない。
次のスカイギルを求めてルシはフィールドを突き進む。
ここまでイベント開始から4時間ほどぶっ通しで戦闘を繰り返している。
集まったコインは銀64枚。
残念ながら今の所、金0枚。
イベント初日と言う事でプレイヤーが多すぎるけれど、それ以上に討伐対象モンスターのスカイギルの数は多かった。
同時にスカイギルの攻撃を完全に無効化できている事が千春たちの戦闘効率に、いい意味で響いている。
「おらっ! 【水絶の盾】!」
「【清流の加護・Ⅱ】」
使用者を中心に一定範囲全ての攻撃に効果のある【水絶の盾】スキル。
その効果をノエルの【清流の加護・Ⅱ】が補強する。
そうして完全ではないルシの水属性耐性値が100%を超える。
そうなれば完全水属性攻撃のスカイギルの水鉄砲はルシの装備スキルにより無効化。
「てりゃーっ!」
攻撃直後の硬直中を突いて飛び出したのはケイである。
両手剣を思いきり振り下ろす一撃は大地を砕いた。
今の一撃は【地砕覇斬】というスキル。
大地を砕いて陥没させたのは演出で、すぐに砕かれた大地は元に戻る。
そういう部分は強くゲームだと思わされる。
「あり?」
けれど地を砕いた演出が発生したという事は、このスキルの場合一つの結果を意味している。
ミスの表示がスカイギルの体部に表示されていた。
命中しなかったのだ。
そうして満を持して飛び出した攻撃部隊第二陣の出番である。
「わたしがっ! だ【ダブルスラッシュ】!」
自称攻撃部隊第二陣に所属している千春のスキル発動。
今回は転んでいない。
スキルも発動した。
けれど、
「あ、あれ?」
思い切り空ぶった。
スカイギルと千春の炎帝の短刀の剣先との間には1メートルほどの距離がある。
ちょっとで済まされる距離ではない。
「【サイコキネシス】」
千春のフォローはノエルの仕事。
そう言うかのように彼女の行動は迅速だった。
千春の攻撃が空ぶった直後、自在剣がすぐにスカイギルを倒したのだから。
「なあ、ノエル。お前さん千春の攻撃は当たらねえと予想してやがったな?」
「私は千春さんを信じていただけですよ。ええ、心から信じていただけです」
千春の何を信じていたのか。
それだけは絶対に口にしないノエルだった。
そして戦闘が終わった直後だというのに、すでに次のスカイギルが千春たちの前へと降下を開始している。
「わんこそばじゃねえんだから休憩くらい挟めよ」
文句を口にしてルシは装備スキル【水絶の盾】を『水絶の』まで口にした所、それより早く行動を開始したのはノエルであった。
「【サイコキネシス】」
ノエルの自在剣が縦横無尽に宙を舞う。
高速で飛翔し、未だ天高い位置にいて他のプレイヤーでは手が出せないスカイギルを一網打尽にしていく。
もちろんネチケットとして他パーティが狙っているスカイギルには極力、手は出さないように気を付けながら。
▼ ▼ ▼
こうして見敵必殺を繰り返し、今日は終わりにしようという声で千春たちは一息ついた。
現在時刻は午後4時。
周囲では今もまだスカイギル狩りをしているパーティが多い。
むしろイベント開始時より増えていた。
もっともイベント初日という事で、これから先はもっと人が増える時間帯に突入するはずだ。
だから彼女たちは戦闘を止めた。
主に人見知りで、極度の異性恐怖症で、あがり症である千春の精神的安寧のために。
「戦利品は銀コイン104枚か。上々の滑り出しじゃねえの?」
「だね~! これものんちゃんが最後の一時間で頑張ってくれたおかげだよ~!」
言ってケイは功労者であるノエルに抱き着いた。
ノエルも嬉しそうにケイの背中に腕を回している。
ケイの言葉通りである。
最後の一時間はノエル以外の三人は何もしていない。
防御も、攻撃も何も。
称賛と応援をしていただけだった。
「ぅぅっ、でもわたし、また何もできませんでした……」
「可愛い女の子アピールはできてたよ?」
「可愛い女の子?」
そんなアピールしてたかな? と小首を傾げる千春。
「うん。転んだり、躓いたり、攻撃が当たらなくてくるくる回ったり?」
「それ全部ただの恥だよね!?」
ケイが指折り繰り返した今日の千春の行動ダイジェスト。
千春自身にしてみれば、それは可愛くない、ただただ屈辱の恥部である。
ケイちゃんのばかぁ! とぽくぽく両手でケイの胸を叩く。
とても可愛らしい、ほのぼのとする光景だった。
ノエルも千春とケイの姿に、うふふっ、と子供たちを見守る眼差しを向けている。
今日も平常運転だった。
▼ ▼ ▼
「どうだった?」
ふぁっさーっ、と前髪をかき上げる男性プレイヤーが問いかける。
サラサラの金色の髪が夕日になる前の陽の光に照らされてキラキラしている。
装飾過多の白金の鎧も王子様キャラの彼が装備すると映える。
攻略組エースパーティのリーダー。
彼はユニーク職業である『勇者』を持つプレイヤーである。
「あの重鎧、お前の『勇者の鎧』の水特化版だな」
勇者の問いに応じるのは青い軽装鎧を装備した長身痩躯の男性プレイヤー。
「へえ! という事は属性耐性値99%?」
「ああ、そうだ」
「あまり期待してなかったんだけどね。うん、そっかそっか。それで? あれはやっぱりボスドロップ装備?」
「いや違う。俺の目には製作者の欄に名前が見えた。あれは間違いなくプレイヤーの作った装備だ」
「そうか!」
嬉しそうな勇者の声。
勇者の装備する『勇者の鎧』は光属性耐性値99%装備である。
ただ、これはプレイヤーに作ってもらった装備ではなく『EXイベント』という勇者の職業を選べた者だけが挑戦できるイベントのボス討伐報酬。
「まあ耐性値99%装備が作れたからって同じものが作れる保証にはならないけどさ、でも可能性は高いんじゃないかな? だからウチにスカウトできないかな? その…………誰だっけ?」
「製作者名は『千春』になってたな」
「千春……。女の子だよね? じゃあ、そのパーティの中にいた誰かかな?」
「ああ」
勇者と会話をしている彼は特殊スキルに分類される【魔眼(鑑定)】を持っている。
彼の目にはしっかりと『重鎧アクエリア』を錬成した千春の名前が見えていた。
それにパーティの中に製作者と同名の少女がいる事も同時に確認している。
「一応、誘ってみてよ」
「……わかった」
後日、千春宛にメールが届く。
運営経由で『勇者アーク』を名乗るプレイヤーから送られてきた攻略組に参加してほしいという内容のメール。
差出人の部分に任意ではあるがプロフィールを貼りつけられるタイプのメールだ。
そこにはキメ顔の金髪美男子が添付されていた。
条件反射的行動で千春はお断りメールを送信した。




