30話
イベント開催日。
イベント会場となるのは最初の町ラグアからほど近い場所にある無人島。
島とはいえラグアが丸々収まるほど広いフィールドである。
「ううっ、人がいっぱいです……」
この無人島にはイベント参加者が集まっている。
それこそ数万人規模のプレイヤーたちが。
その多くは千春にとっての異性、つまりは男性プレイヤーである。
目の前の異性ばかりの光景に千春は思わず近くにあったノエルの服の裾を摘まむ。
きゃああああっ!!! と内心で快哉を叫ぶノエルだが表情は必死にポーカーフェイスを取り繕っていた。
頬の筋肉が痙攣しているけれど。
エンドワールドが細部まで作り込まれている証拠であった。
状況に流されかけている自分にノエル自身も気付いて、千春に恥ずかしい所を見せないための話題を探して視線を彷徨わせる。
そして見つけた。
「あら。攻略組の皆さんもイベントには参加されるようですね」
「アン? おお、本当だ。しかもありゃ攻略組のエースパーティじゃねえか」
言われてノエルとルシの視線を千春は追いかける。
そこには男女混合五人組パーティがいた。
黒い全身鎧で身を固め、大きな盾を背負った盾職の巨漢。
フルフェイスマスクで完全に顔を隠しているため男性か女性かは不明だが、あの体格はきっと男性だろう。
ルシの場合もあるため確定は困難を極めるが。
その隣に白金の装飾過多と思われる豪奢な鎧を装備した金色の髪の美男子。
これで白馬に乗っていれば絵本の中の王子様である。
あいにくエンドワールドで乗馬は実装されていないけれど。
美男子の隣、盾職の巨漢の逆隣には青い軽装鎧を装備した長身痩躯の男性プレイヤーがいる。
彼は真紅の長槍を肩に担いで臨戦態勢でいる。
男性プレイヤー三人の後ろには二人の女性プレイヤーがいた。
とんがり帽子に露出度を極限まで減らしたローブ姿。
これぞ魔法使いという見た目の装備である。
手には『?』型の樫木の杖を持っているため、きっと狙っているのだろう。
もう一人は武器らしい武器は所持していなさそうだった。
けれど見る者が見ればわかる。
彼女のふくよかな胸元の谷間に埋もれるようにして隠れているロザリオ。
あれが職業『クレリック』である彼女の武器である。
「え?」
千春は気付いた。
彼らがステータスを非公開にしていない事に。
もちろん構成スキルまでは公開していないけれど、レベルやステータスは見えている。
否、見せているのだろう。
彼らのレベル41という数字に注目が集まり、そのステータスの高さにどよめく中で、千春は別の部分に注目していた。
「あのノエルさん。あの人たちの名前の下にある絵は何ですか?」
「絵?」
千春の言っているのは彼らの名前の欄の下。
千春のステータス欄では空欄になっている部分にあるものの事だ。
攻略組女性陣のステータスには『羊』『牡牛』『双児』のデフォルメされた絵が並んでいた。
攻略組男性陣のステータスにはリアルタッチな絵で描かれている。
「ああ、あれはストーリークリアの証ですね」
「ストーリークリアの……」
「はい」
それから続く解説を要約するとこうなる。
エンドワールドは全部で十三の大陸から成る。
十三の大陸は一つを除き円環状に並んでいる。
その十二大陸の円環の中心にあるのがラスボスの居城だと推測されている。
今は『魔王城』と呼ばれる白がある場所は、元は『女神の御座』と呼ばれていた場所である。
神の座を奪われた事で世界は魔王に支配され、各大陸には魔王により『宮』が置かれた。
その宮を拠点に魔王は各大陸を攻め、そうして十二の大陸を落とし、支配した。
「残るは私たちの拠点のある大陸のみ。そこには『白羊宮』があり、クリアすると証としてステータスに羊のスタンプが押されるんです」
「千春のレベルなら『白羊宮』は余裕だろ。次の『金牛宮』は適正レベルには一つ足りねえけど」
『白羊宮』は適正レベル10。
『金牛宮』は適正レベル20。
『双児宮』は適正レベル30。
今、攻略組が挑戦中の『巨蟹宮』は適正レベル40となる。
見ての通り適正レベルは次の大陸に移るごとに10ずつ上がっている。
この調子だと最後の『双魚宮』は適正レベル120となる。
しかし現在の最大レベルは100が上限である。
最後はPSが物を言うんだ、とはとある攻略掲示板で出た意見。
そこまで進むとレベルキャップが外れて上限120になるんだ、という意見もある。
「ちーちゃん、イベントが終わったら一緒に『白羊宮』いこ~ね~」
「え? でも皆さんはもうクリアしてるんですよね?」
「んな事気にすんじゃねえよ、千春!」
「そうですよ、千春さん。私たちはパーティなんですから」
「それに千春一人にすっと不安だからな……。簡単にリスポーンされて戻ってきそうでよお」
「そんな事…………ぅぅっ」
ないとは言い切れなくてルシの言葉を否定しきる事ができない千春だった。
そうしている間に時刻は午前10時になる。
『大変お待たせいたしました!』
「ぴいっ!?」
世界に男性の声が響き渡った。
異性が苦手な千春の短い悲鳴にも周囲の視線は集まっていたけれど、それに気付けるだけの余裕は千春にはなかった。
ちなみに攻略組の視線は千春たちの絡み合いに向けられていました。
美男子「なかなかいいものだな」
槍「もっと過激でもいいけどな」
盾「………………(凝視中)」
魔「男って馬鹿よね」
ク「でも馬鹿な方が扱いやすくて楽ですよ?」
魔「あんたって……、ううん、何でもない」
こんな会話があったりなかったり。




