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29話 

 

 手のひらよりも少し大きいサイズのインゴット20個は、がっしりとした重鎧へとその造形を変えたのは、水特化インゴットの完成から四日後の事である。


 文句なく重厚な鎧。


 それに千春の脆弱なSTRではどうにか持ち上げる事はできても、それを持ったまま歩けない程度には重い。


 加工する前の状態のインゴットであれば手で持ち歩けたのにだ。


「ああ、でも20個のインゴットを一度に抱えては持ち歩けなかったかも」


 という事実に気付いた。


 完成し、性能的に問題がなく、何よりも可愛ければそれでいいかと千春は思い直す。


 何よりも千春のトリプルスコア以上のSTR値を誇るルシであれば問題なく装備できる。


 重鎧装備可能という職業的要素のおかげで、装備すると少しだけ重鎧の重量を軽減させられるからでもあった。


 そんな重鎧には千春の格闘の、もしくは努力の跡が散見して見つけられる。


 板と板とを重ね合わせる継ぎ目はフリルっぽく見えるように加工した。


 細部の多くに水をイメージした飾り彫金も施した。


 彫金は多くなりすぎると見苦しく、成金っぽく見えるため、控え目に、けれど部分的には目立つように調整してある。


 今回の仕事でそのバランスに一番苦心したかもしれない。


 けれど、その苦労のおかげで千春も納得する最低限の可愛さは表現できていると自負していた。


 ケイとノエル、そして千春自身の装備も完成している。


『アクエリア:水属性に99%の耐性 HP+150 VIT+20 AGI-10 耐久値:250』


『流水の軽装鎧:水属性に76%の耐性 VIT+15 AGI+5 耐久値:200』


『水雲の衣:水属性に72%の耐性 MP+100 VIT+10 INT+20 耐久値:150』


『水魔の軽装具:水属性に51%の耐性 VIT+5 AGI+20 耐久値:150』


 今回制作したのは以上の四点。


 VIT値的には高いとも低いとも言えない。


 それは【防具錬成・Ⅱ】当時の作品(、、、、、)のためだ。


 最後に自分の装備品を作り終えるのと同時に【防具錬成・Ⅲ】にレベルアップした。


 今ならもう少しだけVIT値の高い防具が作れるはずだ。


 本当に微々たるものだろうけれど。


 しかし鋳つぶして使い回すとなると属性値までリセットされるため今回はこのままいくしかない。


「思ったより耐久値が低いのは属性耐性値があるからかな?」


 考えつつ、けれど自分が一緒にいられるイベント中であれば戦闘終了後に【簡易修理】で耐久値を少しは回復させられると思い至り、今すぐには解決しそうにない問題点である耐久値に関しては後回しにする事に決めた。


 今後の千春の成長に期待だ。


 それよりも。


「鎧はいいんだけどね。うん。何で金属から布生地の服が出来上がるの?」


 ツッコまずにはいられなかった。


 ノエルに贈る『水雲の衣』の話である。


 衣というだけあり、これはローブに分類される装備品だ。


 それがミスリルという金属から作られる理不尽さ。


 しかも相変わらず千春は金槌を振っていただけだ。


 金属がローブになる要素は何処にもない。


 金属を繊維状にする道具を所持し使用したなら別として。


 そういう道具を千春は所持も使用もしていないけれど。


「そういうもの。そういうものなの、これは。きっと考えたらダメなんだよ」


 自分に言い聞かせていた。



▼  ▼  ▼



 こうしてイベントが始まる五日前にイベント対策装備を三人に手渡せた。


 けれどケイを除く二名ほど、その表情は浮かないものだった。


「……なあ千春」


「なんですか、ルシさん」


 浮かない表情1号のルシが渡された装備を見つめていた。


 お揃いの蒼銀色の防具。


 当然、各自のメイン武装をしたメイド兎がワンポイント的に刻印されている。


「いろいろ聞きたい事はあるんだけどな、とりあえず」


 コホン、と咳払い。


 ルシにしては珍しく言い淀んでいるようだった。


 それでも彼女は千春に問う。


「どうやって高ランク属性値の装備を4つも揃えたんだ?」


「え? どうやってって、普通に精錬してですけど」


 千春のきょとんとした答えを聞いてルシとノエルは頭を抱えたくなった。


 というか我慢できずに頭を抱えた。


(おい、ノエル。お前はどう思う?)


(少なくとも千春さんは嘘も冗談も言っていないと思います)


(じゃあ何か? マジで千春は普通に精錬しただけで高ランク属性値のインゴットを4つも作ったってのか?)


(そういう事でしょうね。私たちの目の前にある現物がそれをしっかりと物語ってしまっていますし)


 ノエルの言うように、現実にルシの目にも高ランク(その中の一つは最高ランク)の属性値装備品が入ってしまっている。


(これ、他のプレイヤーが知ったらガチで泣くんじゃねえか?)


(泣く程度で済めば御の字ですね)


 二人の内緒話の終わりは大きなため息だった。


「あの、大丈夫ですか? 体調が悪いなら無理してログインしない方がいいですよ?」


 体調が悪い時にフルダイブ機能を使うと体調が悪化する事もある。


 場合によっては意識の混濁により倒れ、打ち所が悪く死亡する例も少ないが報告されている。


 今回の原因は全く違う別のものだけれど。


「いや、大丈夫だ。心配させて悪かった。ありがとな。ただな、あたしらの装備の性能がおかしい気がしただけなんだ」


「え!?」


 ルシは何でもない事のように言うが、それは千春にとってかなり深刻な話題である。


 千春は慌てて装備に対し【目利き】を使用。


 渡した三つの装備の詳細を確認する。


 制作時と特に変わりはない。


「??? 特におかしくはないと思いますけど……?」


「おかしいだろ!? 耐性値99%があるんだぞ!?」


 思わず声を荒げたルシ。


「本当は皆さん同じ最高ランクの装備で揃えたかったんですけど、ごめんなさい」


 そうじゃねええぇぇーーっ!! と荒い声が出そうになるのを頭を掻き毟る事で抑えた。


 むしろ一つだけある最高ランク装備が問題ではない。


 鍛冶でしか入手できない装備で四つも(、、、)高ランク属性値装備を揃えてしまっている事が異常なのだ。


 けれどルシはその言葉をグッと飲みこむ。


 千春は知らないだけで、むしろ最高の結果を求めるのは誰であれ当然の事だろう。


 それは全てルシたちのためなのだ。


 だから、その献身に対し感謝こそすれ怒るのは違うとルシも分かる。


 ただ悩むのは彼女自身に自分の異常性を伝えた方がいいのか、それとも自分で気が付くまで沈黙を守り続ける方がいいのか、という部分である。


「いや、悪い。千春は十分以上にやらかして、じゃねえ、やってくれてるさ。あたしが勝手に混乱して、ちっとばかし舞い上がっちまっただけだ。許してくれ」


 ルシは結局、伝えない事を選んだ。


 それにだ。


 よくよく考えれば最高ランクが出来上がるか否かは運次第。


 否、最高のものをとは考えていただろうけれど、それは気構えの話。


 運よく四つも高ランク以上のインゴットが精錬できる可能性もあるかもしれない。


 聞いた事ねえけどな、と囁く自分の内心をルシは黙殺する。


 それに、そのために千春は違法行為に手を染めたりしたわけではない。


「………………してねえよな?」


 ちょっと不安になったルシだった。



  ▼  ▼  ▼



「あ、終わった? じゃあさ、めんどくさい話も終わった所で、さっそくこの装備で戦いに行ってみようよ!」


「そうですね。使い心地を確認しておく事も大切ですから。千春さんの作ってくださった装備に不備などありえませんけど」


「あの、その信用のされ方はあまり……」


 言われて自分の失言に気付いたノエル。


 彼女が千春に何度も何度も謝罪している姿を横目にルシは話を進める。


「ディスプレイゲームの時代と違ってVRは実際に肉体を動かすからな。装備変更して今まで通り変わらず動けるプレイヤーは多くねえ。新しい装備に変えたら体の動かし方を確認するのは基本だ」


 真面目にルシが語る横で、ノエルと千春は謝罪に対して謝罪を繰り返すという不毛な応酬に移行していた。


「聞いちゃいねえな、こいつら」


「にししっ、いつもの事でしょ~。楽しいよね~。私この空気、大好き!」


「ああ、まあ、あたしも悪くねえと思ってるよ」


 結局、四人が装備変更の違和感をなくすために出かけたのは、それから三十分も後の話だった。


 そうして日々は過ぎ、すぐにイベント開催日はやってきた。


 

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