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28話 

 

 学校でたっぷり寝て、けれどそのせいで帰宅が遅くなった今日である。


 次に同じ事をしたら保護者の方に連絡しますからね、という担任教師の厳しいお言葉に戦慄を禁じ得ない千冬。


 母に今回の件がバレれば、やっぱりVRゲーム全て禁止の制限がダイブギアにかけられてしまう。


「徹夜はやり過ぎだったよね……」


 自分でも反省している。


 白峰千冬が通うのは、まがりなりにも進学校だ。


 教師も進学校に相応しい厳しくもお堅い方々ばかり揃っている。


 その中で午前中の授業を全て寝て過ごせば、その日に保護者へ連絡されなかっただけ彼女の担任教師は対応が優しかったと言える。


「今日はちゃんと三時には寝るようにしよう!」


 結局、隠れて夜中のログインは今日も敢行するのだけれど。


 それは別の話として、千冬は部屋で制服からラフな私服に着替える。


 ハーフパンツに半袖のシャツでベッドに腰かけ、ダイブギアを見る。


「どうしよう……」


 ログインしようか迷って、今は止めておいた。


 というのも本日は千冬だけ特別に課題が多く出されているからだ。


 寝ていた授業分のペナルティのようなものである。


 それを明日の朝一番で担当教科の教師に提出しなければいけない。


 つまり四教科分の課題だ。


 それとは別に普通に出された課題もある。


「どうしようも何もないよね。課題やらなきゃ。…………はあ」


 ため息を吐いて学習机に向かう。


 鞄から渡されたプリントの束を取り出し、教科書とノート、筆記具も取り出し、早々に課題へと取り掛かった。


 もう絶対に授業中に寝たりしない、と強く心に誓って。



  ▼  ▼  ▼



 課題が終わったのは夕食を挟み、お風呂も済ませた数時間後。


 日付が変わる直前だった。


「終わったあ……」


 シャープペンシルを持っていた指が痛い。


 それ以上に精神的な疲労が酷い。


 こんなにも勉強って疲れるものだったっけ? と学習机に突っ伏しながら千冬は思う。


 それはノエル、ケイ、ルシと一緒に遊ぶ楽しさを覚えたからである。


 それまでも友達と遊びに出かける事はあった。


 けれど人通りの多い場所、特に異性も多い場所が苦手な千冬は、あまり外で遊ぶ事を楽しいと感じられなかったのだ。


 そうなると必然的に外で遊ぶ回数は減り、暇を持て余す時間が増え、それならと惰性的に勉強をしていたという話だった。


 そんなある日、出会ったのだ。


 体感型ではない普通のディスプレイPCでの目的のないネットサーフィン中に。


 何かのセールだったらしく『ゲームソフト三本で5000円!』という文字。


 これまでゲームをした事がなかった千冬。


 それに外出も極端に少ない彼女は、お小遣いの使い道も『貯蓄』以外にはほとんどなかったため、金銭にも多少の余裕はある。


 買ってみた。


 その中の一本が『エンドワールド』だった。


「こんなに夢中になるなんてね……。あの時のわたしに教えても絶対に信じないんだろうなあ」


 くすっと、そんな自分を想像して笑い、ふと時計を見れば日付が変わっていた。


 母が用意してくれた紅茶のカップを下に持っていき、キッチンで洗い、耳をそばだてる。


 もう寝ているのだろう。


 居間に灯りはなく、テレビの音も聞こえてこない。


 さすがに夫婦の寝室のドアに貼りついて寝息が聞こえてこないかまで確認する気はない。


 そうしてから部屋に戻る千冬。


 電気を消して、ベッドに潜り、布団を頭までかぶる。


「ログイン」


 今夜も夜の作業が始まった。



  ▼  ▼  ▼



「あれ?」


 白峰千冬から千春になった彼女は、さっそく鍛冶工房に移動して小首を傾げる。


 掃除をして部屋を出た覚えはない。


 けれど部屋は綺麗に整理整頓されていた。


「あ。たぶんノエルさんが片付けてくれたんだ」


 散らかすだけ散らかして片付けは母に押し付ける小さな子供か、と自分の行いにツッコミを入れた。


「明日お礼を言わないと」


 言ってもいつもの笑顔で「気にしなくていいんですよ」と言われそうだと苦笑する。


 実際、ノエルは気にしていない。


 むしろ千春のお世話をしている自分、という実感を得られて歓喜すら覚えていそうである。


 ともかく。


 千春は鍛冶工房に造られた炉の前に移動する。


 金床に素材を置く。


 水の属性特化に造りかえたミスリルインゴット。


 一回分しか、言い換えれば一人分しか作れなかった最高ランクの水耐性値を得たインゴットを誰の装備に使うのか。


 それはもう決めてある。


「これはやっぱり盾職のルシさんだよね」


 千春たちのパーティで一番モンスターから攻撃を受けるのが盾役のルシだ。


 その巨躯で、膂力で、巨盾で、彼女はいつも千春たちを危険から護ってくれている。


 ルシのVIT値の上昇、属性耐性は最優先すべきだろうと千春は判断している。


「自分のはこれでいいや」


 選んだのは、かろうじて高ランクに位置する成功作の中でも一番耐性値の低いインゴット。


 ちなみに最高ランクは91%以上。


 高ランクは51%以上。


 普ランクは31%以上。


 低ランクは上記以下となる。


 ルシの装備に使うインゴットは驚異の水属性値99%。


 千春が自分用に用意したインゴットは水属性値51%のもの。


 あとの二つはそれぞれ水属性値72%と76%であった。


 最高ランク99%は最前線の攻略組でも喉から手が出るほど欲しがるほどの属性値を誇っている。


 というのも、この属性値は完全にランダム抽選となっている。


 もちろん精錬方法により上限下限はある。


 その中でのランダム抽選。


 つまり鍛冶スキルレベル、プレイヤーレベルが高いから、より高い属性値のインゴットが精錬できるわけではない。


 今回のように鍛冶初心者用装備しか持っていない千春が最高ランクの中でも極めて最大値に近い属性値のインゴットを作り出せたのは、ひとえに運が良かっただけと言える。


 さらにちなみに、現在60万人いると言われているエンドワールドプレイヤーで、特定属性値95%以上の武器防具を所有しているのは僅かに数人だけだった。


「ルシさんの防具は重鎧。20個全部使っちゃうよね。ケイちゃんの軽装鎧だったら10個もあれば十分なのに」


 だがそれは必要な消費。


 ここでケチれば装甲の薄い鎧になるだけ。


 そんな装備をルシに渡すわけにはいかない。


 それに千春を悩ませるのは、それだけではない。


 むしろ何よりも大切な事で彼女は悩んでいた。


「基本的に可愛いものの少ない重鎧シリーズを、どうやって可愛くするか(、、、、、、)。それが難題だね」


 何だかんだ、やっぱり千春もブレないのであった。


 

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