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27話 

 

 エルベ湖畔で水の魔石を採取して、ついでに観光も楽しんでから拠点に戻ってきた千春たち。


 そのまま解散し、千春も休憩を兼ねて夕食を取り、そしてまたすぐログインしていた。


 理由は単純で、さっそく水の魔石を使って三人の装備を作ろうと考えての行動だ。


 もちろん母には内緒のログインなのでバレたら大目玉では済まない事態になりかねないので注意が必要だ。


 母の接近を察知しようのない事が問題点ではあるのだけれど。


「とにかく試作してみよ」


 イベント開催まであと九日。


 今から急いで用意する必要はないが、そこは千春の気分という部分が大きい。


 今日が楽しくて、そんな時間を過ごせた事を感謝していて、その気持ちを装備に乗せたい。


 気持ちで装備品のパラメータに補整はかからないけれど、それでも普通に作るよりはいいものが出来そうな気がする。


「水耐性を大きく引き出したいんだからメインに使う金属はやっぱりミスリルだよね」


 蒼銀色に精錬してあるミスリルインゴットをストレージから取り出す。


 そしてエルベ湖畔で採取してきた水の魔石も取り出して並べて金床に置く。


「ん? そういえばどうやってインゴットに魔石を加えればいいんだろう?」


 高炉にくべて不純物を取り除いて精錬したのが蒼銀色に輝くミスリルインゴット。


 そのミスリルインゴットを再び高炉にくべて魔石と一緒に精錬し直せばいいのかな? とミスリルインゴットと水の魔石を両手に持って首を傾げた。


 悩んでいても始まらない。


 けれど、いつものようにとりあえずやってみようというわけにもいかない。


 きっと明日は今日以上にエルベ湖畔はプレイヤーで溢れるだろうから。


 今日の段階でも正直あっぷあっぷ状態だったのだ。


 明日以降の混雑するであろうエルベ湖畔には好んで近寄りたくはない。


 しかも採取のためには、また水着に、ビキニ姿にならなければいけないとなれば、なおさらだ。


 なので千春はネットの掲示板で調べてみる事にした。


 結果はすぐに出た。


 方法は二種類。


 ①精錬したインゴットと魔石を金床に乗せて思うべく形になるように金槌を振る。


 難易度は低く成功率も高いが、高ランクの耐性が付与される可能性は5%ほどで、最高ランクの耐性は絶対に付与されないという。


 ②精錬してあったインゴットを水の魔石と一緒に精錬し直す方法。


 難易度は高く成功率も低いが、最高ランクの耐性を付与したいのであればコチラ一択。


 それでも最高ランクの耐性が付与される可能性は1%以下だそうだが。


 失敗しなくない理由が千春にはある。


 それを考慮すれば千春が選択する方は自ずと決まる。


「ん、精錬し直そう。ダメにしちゃって素材が足りなくなったら、また採りに行けば…………行けばいいんだから」


 後半部分の千春の発言には力が感じられなかった。


 ビキニ姿を見られるのは恥ずかしいけれど、それはやりようだ。


 昼間に行くから人が多いのだ。


 であれば夜中に行けばいい。


 だけど行かなくてもいいのであれば行きたくないのが本音だ。 


「よろしくお願いしますっ!!」


 だから神様に祈ってから、千春はミスリルインゴット20個と水の魔石12個を高炉に放り込んだ。


 まとまった数を一度に入れるのは、そうしなければ一個一個に付与される耐性値が変化し、せっかく最高ランクの耐性値のインゴットが出来ても装備として打った時に使った耐性値の平均値に数値が変化してしまうからだ。


 しかし、こうしてまとめて一度に作れば、出来上がりの耐性値は全て同じになる。


 ただ必ず最高ランクのものが出来上がる保証もないため、一度に全て使って一気に作ったりしないのは当然のセオリーでもある。


 稀にそういう博打を好むプレイヤーもいるのだが。


「…………え!?」


 高炉を見ていた千春が驚愕の表情で立ち上がる。


 高炉の温度が急激に低下したのだ。


「何でいきなり……っ!?」


 突然の事態に混乱しそうになるも、そこは何度となく繰り返し鉱石を精錬してきた経験。


 頭は混乱しながらも体は勝手に高炉のトラブルに対応し始めた。


 一気に低下してゆく高炉にMPを流して温度を上昇させる。


 千春の総MPの三分の二を消費した所で高炉の温度低下は止まった。


 同時にトラブルの原因にも心当たった。


「水の魔石のせいかなあ、たぶん……」


 水の魔石のせいで高炉内の温度が低下したのではないかというもの。


 魔石は内部に名を冠す物質を宿している。


 水の魔石であれば水を、火の魔石であれば火を、風の魔石であれば風を、というようにだ。


 おそらくミスリルと一緒に入れた事で魔石の内部魔力が増幅され、すべて吐き出されたのだろうと千春は推測した。


 そしてもう一つ。


「魔石が溜め込んだ魔力を全て吐き出したのだとしたら……」


 案の定、一回目の精錬は水の魔石の魔力が抜けたせいで、ミスリルインゴットに水の魔力がほぼ定着しなかった。


 今回のミスリルインゴット20個と水の魔石12個は完全に同化してしまっていて分離もできそうにない。


 性能的にも落ちている。


 劣化した素材で仲間の装備は作りたくない。


 再利用不可素材の出来上がりだった。


 一応、千春も【目利き】で確認してみるも水属性耐性値は3%しかついていない。


 明らかな失敗だった。


「今度は水の魔石の魔力を制御しつつ……」


 水の魔石の制御に集中するあまり、今度は高炉の温度管理が上手くいかずに失敗した。


「次は」


 試行錯誤の精錬は朝まで続いた。



  ▼  ▼  ▼



 途中MP回復待ちの間には製作する装備のデザインを考えたりもしていたため、実質ほとんど休みなしで作業を続けていたに等しい。


 その甲斐あって四回分の成功品が確保されている。


 パーティメンバー分は揃った。


 というよりもパーティ分が揃うまで精錬し続けただけだが。


 その中の三回分は高ランクに分類される水耐性値のインゴット。


 最高ランクを誇るインゴットも奇跡的に一回分だけ確保できていた。


 千春としては自分以外の三人分を最高ランクで揃えたかったのだが、それには無理があったようだ。


「この流れのまま作り始めたいけれど……」


 今日も学校がある。


 現実世界に戻って学校に行かなければいけない。


「このまま寝たら気持ちいいだろうなあ……」


 誘惑に負けた瞬間、千春のエンドワールドは終焉を迎えるだろう。


 母の手によって。


 そうなれば絶対に後悔する。


「……頑張れ、わたし」


 力ない声音で自分を鼓舞して千春はログアウトする。


 この日、千春は午前中の授業を全て寝て過ごし、放課後に職員室へと呼び出されるのだった。


 

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