11話
拠点を手に入れてからというもの、千春は鍛冶作業に没頭していた。
【修理】だけではなく普通に鍛冶もしている。
道具店で一つ100Gで購入可能な最安値の鉱石である青銅石を買い、剣を造り、鋳つぶし、再びインゴットに戻して剣を作る。
繰り返すたびに青銅石は小さくなり、十回も繰り返すころには剣はサイズダウンしてナイフの大きさになるほど繰り返しリサイクルしている。
そのおかげもあり現在、千春はレベル16にまで成長していた。
スキルも【武器鍛錬】【防具鍛錬】【火力調節】【目利き】【鎚の極意】【鍛冶職人】【簡易修理】などが増えている。
鍛冶関係のスキルばかりである。
前の五つはレベルで習得するスキルになり、後ろ二つは鍛冶実行時間、実行回数により習得したものになる。
「……ふう」
炉の炎を見る。
何となくの感覚的なものだが火力が強すぎるように千春は感じ、それを調整する。
調整とは言っても薪の量を増やしたり、薪の火を小さくしたりするわけではない。
全ては魔力による操作になる。
炉の炎から魔力を少しだけ吸い出せば、火の勢いは弱くなった。
火の勢いを強くしたい時は魔力を供給するだけでいい。
「温度調節にもだいぶ慣れてきたかも」
満足気に微笑んでステータスを開く。
青色のボードには千春の情報が記載されている。
そしてレベル2の頃から名前の横に表記されるようになっていた『+2』という数値。
それも今では『+40』にまで増加している。
そしてレベル10になるとステータスポイントとは別に10ポイントもらう事ができる。
これは名前の通りステータスに自由に振り分けられるポイントだ。
レベルが一つ上がる毎にステータスポイントは+2される。
短所を消すもよし、長所を伸ばすもよし。
自由に自分をカスタマイズすればいいのだ。
千春も最近まで知らなかったが、さすがに気になって調べた事で発覚した情報だった。
「何かのステータスに振った方がいいのかな?」
まともにゲームをするのは『エンドワールド』が初めての千春。
どのステータスに割り振ればいいのか悩んだ末、後回しになっている案件だった。
結構な頻度で悩みを口にするのだが、大抵の場合。
「……必要になった時でいいよね?」
何となくもったいなく思えて使う事に踏み切れないでいる千春だった。
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「久しぶりの外の空気……」
ぐぅっ、と背筋を伸ばす。
とはいえ現実世界では平日は毎日学校に通っているため「久しぶり」とも違うのだが。
さて、と千春は歩き始める。
向かう先はラグアを囲う護りの壁の外。
フィールドだ。
ただ、今回相手をするのは前までのような一角兎やオークではない。
『エンドワールド』の攻略組がパーティを組んで挑む最前線。
そこに千春は用があるのだ。
「ミスリル鉱石が採掘されたっていう話だったよね」
目的はミスリル鉱石。
未だ多く出回っていない希少金属の一つ。
その上位に有名な『ヒヒイロカネ』や『オリハルコン』などもあるのだが、今はまだ採掘できる場所は判明していない。
ミスリル鉱石にしても偶然、千春がステータスポイントについてインターネットの掲示板で調べている時に目についたにすぎない。
そして知ったからには鍛錬してみたいと思うのが鍛冶職人なのである。
「……はあ。本当は他のプレイヤーの人にお願いしたかったけれど、まだ依頼料がすっごい高いんだよね」
青銅石、鉄鉱石などは採掘場も多く、採掘量も多いため安い。
となれば自然、販売価格は安くなり、採掘場付近の危険も少ないとなれば依頼料も格安となる。
ミスリル鉱石の採掘できる場所は危険度が高いため、それに比例して依頼料が高くなるのは当然の措置であった。
そして千春にはミスリル鉱石を採掘してきてもらうための人を雇うほど懐に余裕がない。
財布に余裕がないなら諦めるか自分の足で採掘しに行くしかない。
「よっし! 頑張れ、わたし!」
自分を鼓舞して千春は歩き始めた。
▼ ▼ ▼
最前線で発見されたダンジョンは今の所、二つだけ。
ストーリー攻略に関わる最初から運営が公表しているダンジョンと、プレイヤーが足で見つけたミスリル鉱石採掘ダンジョンだ。
ミスリル鉱石採掘場は標高3000メートルを誇る山の山頂にある。
ゲームのため高山病もない登山は、千春のステータスであれば楽々登れる。
一時間ほどの登山で山頂に到着した。
山頂にはNPCの経営する道具店と宿がある。
宿は中間ポイントも兼ねているため、ここまでこればログアウトしてもまた登山から始めなくてもいい。
それ以外には崩落しないように木材を打ち込んで固められた山の内部に繋がる入口があるだけ。
あれがミスリル鉱石採掘場に通じているダンジョンの入口である。
「さっそく挑戦してみよう」
軽く装備を確認してから千春はダンジョンに潜った。
ソロで最前線にあるダンジョンに潜る千春に注目が集まるが、そんな視線には気付いてもいなかった。
拠点に引きこもっていて気配遮断を使うのを忘れている千春だった。
▼ ▼ ▼
ダンジョンは山に掘られたアリの巣のように入り組んでいる。
細狭く天井の低い通路。
幅広く天井の高い場所は部屋となる。
モンスターも多い。
ただ部屋となる場所には一室に最低でも一箇所以上の採掘ポイントが用意されていた。
そこを道具の『つるはし』を所持した状態で調べると採掘できる。
ただし採掘するためには【採掘】のスキルを店で買う必要がある。
なけなしのGで千春も山頂の道具店でNPCから購入している。
「先にモンスターを掃除しないと採掘できなさそうね」
はあ、と千春はため息を吐いた。
相変わらず戦闘は苦手だった。
「【気配遮断・Ⅲ】」
千春の存在感が一気に薄弱する。
同時に炎帝の短刀を鞘から抜き、全速力でもって一番手前にいたモンスターに肉薄。
真っ黒な体に触覚の生えた丸い頭部。
胴体部分はタイ米のように細長い。
足は八本あり、それとは別に前足が二本ある。
挟みのような口は開閉を繰り返しており、警戒時、威嚇時はギチギチガチガチと音を立てる。
仲間も多く、その仲間の中には背中に透明な羽の生えている種も見かけられる。
ソルジャーアント。
それがモンスターの名前。
最前線となる場所で今回初登場したモンスターの一体だ。
初登場モンスターなのだから当然、今までのモンスターよりも強い。
ギ酸などの攻撃により装備品を劣化されるため戦闘を避けるプレイヤーも多い。
「えいっ」
すぱっ。
炎帝の短刀はソルジャーアントの頭部と胴体を簡単に切り離し、光の粒子へと変えた。
ソルジャーアントの外殻は鋼鉄の鎧にも当たり負けしない強度を誇る。
実際、最前線で活動する攻略組の盾職の全身鎧を体当たりでベコベコに凹ませた実績もある。
その中の弱点部分が首。
頭部と胴体の繋ぎ目になるのだが、これほど簡単に切断できたりはしない。
「あ、ドロップアイテムだ」
キューブを拾って、中身の確認は後回しに、千春は部屋を占拠しているソルジャーアントの一団を殲滅するのを優先する。
高速で部屋を駆けまわりソルジャーアントを光の粒子に変えていく千春。
もし、この光景を他のプレイヤーが見ていたら情報掲示板に新たなスレが立った事だろう。
見ていたプレイヤーはいなかったため、そんなスレが立つ事はないのだけれど。
「うん、掃除終わり! お待ちかね採掘タイムだよ!」
さっそく採掘ポイントに向かい、装備を炎帝の短刀からつるはしに変える。
そして一振り、二振り、三振り。
「石、石、石」
続けてつるはしを振る。
「石、石、青銅石、石、鉄鉱石、銅鉱石、石、石……」
そこで採掘限界となり、これ以上はこの採掘ポイントで採掘する事が不可能になった。
時間経過で採掘可能に戻るが、そのためには六時間の経過が必要になる。
「そう簡単に手に入らないか……。仕方ない。次の部屋に行こう」
そうして部屋を後にし、次の部屋でもモンスターを殲滅して採掘する。
時には採掘されていて徒労に終わる部屋もある。
採掘に来ているのは千春だけではないのだから、そういう事もあって当然。
十部屋も繰り返すと何となく採掘されてない部屋と採掘されている部屋の違いにも気付き始めた。
「アリのモンスターがいる部屋は採掘されてない場合が多いかも」
今見つけた部屋にはソルジャーアントがぎっしりといる。
けれど採掘ポイントは四つもある。
期待できそうだった。
気配遮断・Ⅲを使い、装備が炎帝の短刀であることを確認してから部屋に飛び込んだ。
一番近いソルジャーアントを一刀で斬り伏せ、光へと変える。
仲間が倒された事で警戒したソルジャーアントの大合唱。
ギチギチガチガチと顎を鳴らす大合唱はお世辞でも聞き心地が良いとはいえない。
続け様、二匹目、三匹目のソルジャーアントを倒す。
四匹目のソルジャーアントを光に変えた所にギ酸が降り注いだ。
「ッ!?」
ソルジャーアントたちは種の固有スキル【テレパス】を持っている。
一定範囲内の【テレパス】所有者同士を繋いで意思共有を可能とするスキルである。
それにより倒されたソルジャーアントは消える間際の一瞬で危険信号を発信。
受信したソルジャーアントたちが一斉にそこを攻撃したのだ。
仲間のソルジャーアントごと。
千春は顔を庇う様に腕を交差し、バックステップでの回避行動を実行する。
ギ酸の直撃は避けられた。
しかし、地面に当たり跳ね返ったギ酸が炎帝の短刀の表面を焼いた。
シューシュー、と音を立て、白煙が上がる。
念のためにと武器ステータスを確認して千春は驚愕の声を上げた。
「武器効果が下がってる!?」
炎帝の短刀にはSTR+の効果はない。
代わりにAGI+の効果があるのだが、それが10下がっていた。
「か、【簡易修理】!」
拠点の鍛冶場で修理するほどの効果は得られないが、耐久値、能力低下の武器効果異常の修復はできる。
これによりマイナス効果は5になった。
耐久値も少しだけ回復している。
拠点に戻ってしっかりと修理すれば元に戻りそうだとわかり千春は安堵した。
安堵した後に湧いてきた感情は怒り。
「絶対に許さないんだから!」
その後、お気に入り装備を汚された事に怒った千春の優勢が傾く事はなく、わずか七分後には十二匹残っていたソルジャーアントの最後の一匹が光の粒子に変化した。
「ごめんね」
炎帝の短刀の表面を手で撫でて、千春は装備をつるはしに変更する。
一箇所目はダメだった。
二箇所目もダメだった。
三箇所目の一振り目。
「あ。で、でたああーーっ!!」
ミスリル鉱石。
それは碧色をした不思議な石だった。
これを精錬しインゴットにすると蒼銀色に変色する。
「あれ。これもミスリル鉱石だ。え? 次も!? こ、こここのポイント、ミスリル鉱石ザックザク!」
キャーキャーッ!! と夢中になって掘りまくる千春。
このポイントは本日の当たり採掘ポイントで、採掘可能回数も多く、採れる鉱石も九割がミスリル鉱石になるように設定されている。
明日になると当たりの採掘ポイントは百箇所以上ある採掘ポイントの中からランダムで選ばれ、変更される。
他の場所でも満足するまで採掘を繰り返した千春。
ミスリルも黒鋼も鉄鉱石も、ついでに銅も青銅も大量に手に入れて千春は拠点に帰った。
これ以降またしばらくの間、千春が拠点から出てくる事はなかった。




