Track.05-3
ステージとファンで織り成す2曲目が終わると、4人が横一列に並ぶ。
-さなです、あかりです、るるなです、うたこです―
『私たち、ソレイユ・シンフォニーです。よろしくお願いします』
流れるような自己紹介から始まるMC。学園祭のステージ、普段ライブではみない顔ぶれに高揚していることが語られる。
「後ろが少し詰まってますね。気持ち、前に来てください」
るるながスタッフの気持ちを代弁するかのように呼びかけてくれる。そういう点に気が回るところも、るるなを推すポイントである。
観客の動きが落ち着いたのを見計らって立ち位置へ着く4人。タタ、タン……タタ、タンと小さなピアノ音色に鼓動の様な音が重なり、等間隔に並んだ彼女たちが腕を羽ばたかせる。
「この曲は……」
と、胸を押さえる。ピアノからエレキギターへバトンが渡される伴奏。静から動へ腕の振りも激しくなり3曲目の歌いだしへ。
-小さなことでも 足が止まってしまう時
-ひとりで抱えないで 話してみてよね
あの日モールで、彼女たちと出会った曲。思い悩む心に、彼女が優しく語りかけてくる。
-言葉にできない? なら手を握って
感情を押し殺す、言葉を選び、また口が重くなる。人との関わりに煩わしさを感じていた頃の自分には深くささる歌詞だった。もちろん、手を握ってくれる彼女などいない。でもこの曲が自分を理解してくれる、慰めてくれるような気がしていた。
現実は都合よくはできていない。変わろうとしなければその状況は続く。それに流されるか、きっかけをつかむかは運であり、意志であると思う。
-怖くはないよ 下は見ないで 星を見て
きっかけは与えられた。この曲との出会い。もっとこの曲を聴きたい、ステージを見たいという欲求がアイドルファンとしての一歩を踏み出させてくれた。
ライブハウスという空間に足を運ぶようになった。繁華街の路地裏、狭い入口と汚く貼られたポスターやステッカーに怪訝な目を向けることはもうない。
アイドルのステージを知った。マスメディアが取り上げられないほど多様な楽曲がこの世には溢れていて、自分にも響く歌詞、目を見張るパフォーマンスで輝く世界があることを教えてくれた。
るるなと出会った。ステージに立つ彼女たちは大人びて見えるが、話してみると、るるなは自分と同じ大学生だった。講義や学生生活の話ができる同年代の友人のようなやりとりが楽しかった。それでいてステージに立つ強さ、そこに至るまでにレッスンに時間を費やすハードなスケジュールに耐える強さを尊敬せずにはいられなかった。だからこそ彼女が何かをするのであれば支えたいと思うし、共に歩んでみたいとも思うようになっていた。ガラス一枚の背中に並んでみたかった。
学園祭の実行委員はそれを叶えてくれるような気がした。自分の思うパンフレットやポスターを形にして公表する。彼女たちほど公ではないにせよ、自分を外に出す手段には変わりないと考えていた。ステージのこともそうだ。ソレシンじゃなくてもいい。自分たちが納得できる、胸を張って自慢できるゲストのステージをつくること。それができれば……
-ほらね 飛べたよ
-広げた翼は風をつかまえてる
-大丈夫 この手ははなさないから
差し出した手を胸の前に引き寄せて、にっこりと微笑むるるな。4人は手を高くあげると仰ぐように大きく手をふる。
-Wow Wowow Wow Wowow……
同じように手をふるステージ前。
「もう一回!」
の声で繰り返されるパート。
-Wow Wowow Wow Wowow……
リピートされるパフォーマンスを後方の観客までがなぞると、この半年間がフラッシュバックする。
推しがステージに立つ可能性から確定へ、推しを自身のポスターに掲載すること、そして今この瞬間。やり遂げたと高揚と満足感に膝の力が抜けそうになる。
(でも、まだ……)
ファンではなく、実行委員として自信を引き締める。ステージはまだ1曲残っているのだから。
さながステージ中央に立ち、すっと息をのむ。
-あなたと綴るこの1ページ キセキと書いても笑わないよね
アルトボイスの独唱を歌いきると軽快な前奏にあわせて手拍子がリズムを刻む。スカートを翻しながらくるくると舞い踊る4人はみな晴れやかな笑顔を浮かべている。
前奏が終わり転調すると手拍子が拍手の様に鳴り響く。アップテンポなビートにエレキギターのサウンドが爽やかに疾走する。
-すれ違うはずだった 重なる偶然
-同じ場所 同じ時間 あなたの隣を歩いている
るるなとうたこが向かい合い、てのひらを重ねて微笑みあう。山なりのまつ毛と視線をかわせたら……という思いと、笑顔の独占への羨望。奪いたいではなく、だったらいいな。というまどろみの様な願い。
(次に会ったら、チェキにしよう)
そう思ううちに曲は落ちサビへと進んでいく。
-時計の針は止まらない だからこの瞬間が愛おしくて
-全部抱きしめたい いつまでも
再びのソロパートをさなが高らかに歌い上げる。メンバーの中で一番の落ち着きを見せる彼女の、歌詞に込める想いが響く。その背中に寄り添う3人が縁側の猫の様に頬を寄せる。
-切り抜かせてよ このフレームに
-思い出は全部 たからもの
最後のパートに入る。4人が指で作ったLで四角をつくりながら、スキップする様に跳ねると黒髪が揺れ、スカートがふわりと膨らむ。
「今日は見ていただきありがとうございました!この瞬間を忘れません。またお会いしましょう!」
後奏にのせた、さなのメッセージ。4人はふんわりとポーズを決めて楽曲が閉じる。ゆっくりと上下する肩がここまでの運動量を物語るが、その上ではやりきったと満足げに頬が緩んでいる
「以上、私たちソレイユ・シンフォニーでした」
大きな拍手、喝采を浴びながら4曲目のオケにあわせて手をふりながらメンバーが退場していく。
こうしてメインプログラムは幕を閉じた。




