Track.06
ソレシンのステージが終わっても、学園祭自体は終わらない。広場から流れる人が滞らないよう、事故にならないよう静止と進行を喚起する。その間にもソレシンの特典会会場の誘導、また学生のステージのために広場にやってくる人のための通路の確保、帰路につく人たちへの案内と誘導業務に邁進する。
トランシーバーからは企画課の、特典会会場の設営の進捗状況や流れてきた希望者の動線つくりの慌ただしい様子が聞こえてくるが、それを助けに行ける余裕はない。
「よかったねぇ」「かわいかったね」
と彼女たちを初めて見たであろう人々の声が聞こえると、ファンとしては誇らしい。
「おつかれ!」
ファングループのひとりに背中を叩かれる。
「ありがとうございます」
手を振る背中に大声でお礼を返す。ひとりひとりの笑顔が実行委員として嬉しかった。
ピークを過ぎたステージに少しの寂しさを覚えるが、どこか心地の良い余韻の様にすら思えた。
傾いた陽が校舎を赤く染める。閉場の時間の頃には学内に残るのは学生ばかりだ。どの模擬店も売れ残りはないらしく楽し気に調理器具を洗っている。
「まだガスボンベを返しに来てない団体があります。近くのスタッフ!声をかけてください!」
朝よりやや疲れの滲んだ運営管理課がトランシーバーにメッセージをのせる。それを聞いた実行委員が(またかよ)と顔を見合わせてはテントの方へと歩いて行った。
受付・誘導を担当した広報課はゴミの回収や受付テントのバラシをすすめる。パンフレットも残部は4包みと見込み通りの配布となり、その結果に満足している。
「ソレシンちゃんと会えませんでしたね」
1年生がぼやく。
「そんなものさ。企画課だって入りと出の挨拶くらいしかできなかったってさ」
伝え聞いた事実に幻滅してしまうだろうか。実際実行委員の仕事はそれくらい過密だし、全員が開催中に集まることなど不可能であるから、こういうことは往々にしてありうる。
「それでも企画課、やってみるか?チャンスはあるよ」
「いえ、あちらはあちらで大変そうなので」
自分は広報課が性に合ってます。と笑顔で誇示する1年生。この分なら来年も主力として残ってくれそうだと安堵する。
そうして実行委員が当日の業務を終えたのは午後7時であった。
翌日。
実行委員と出展学生が広場に集まる。時間は午前10時。学園祭は終わったが片づけ作業がまだあるため集合したのだ。実行委員は前日の疲れから、出展学生は打ち上げでもしたのかやや眠たげな顔をしている。
「ご協力ありがとうございます。本日もけが無く終えましょう」
運営管理課が注意喚起し、それぞれの残務処理にあたる。学生たちの動きを尻目に、業者の大人たちがステージをばらしていく。音響も装飾もなくなり素っ気ないボードを見せるステージ。耳をすませば、あのメロディに乗せて踊っていたメンバーが、その前で盛り上がっていたファンたちの姿が浮かび、そして氷の様に透けては消える。
「おーい、誰か手伝ってくれ」
ステージだったものに背を向け、助けを求める声の方へ早足で向かう。ただ静かに小槌の音が響いていた。
あれから1週間がたった。
学園祭自体は終わったが、実行委員の仕事はまだ続く。会計課はこれからが本番と言わんばかり、出展団体を呼び出しては補助金の会計監査や実行委員会内の伝票整理、捺印漏れのチェックを行い、各課を戦々恐々させている。
広報課は落ち着いているとはいえ、ポスター掲出先へのお礼や開催日に撮った写真の整理の他、今年度他校学園祭で配布されたパンフレットの確認や今年度のふりかえりと次年度に向けての動きも始まっている。
今日も講義の合間を縫って、ひとり実行委員会室で写真の整理を行う。実行委員の集合写真を撮ったステージだが、あの広場にはその痕跡すら残ってはいない。
学生生活に追われ記憶は薄れていくが、目の前の壁に飾られた色紙はまだ香りが残っていそうなほど瑞々しい。
-学園祭実行委員会のみなさまへ ソレイユ・シンフォニー
財布から以前のライブで撮ったチェキを取り出すと、余白に置いてスマホで撮る。
画面にサインとチェキが並んで映る。
「るるなにこれを見せたら、どんな反応をするかな?」
次の定期公演のことを思いながら、スマホをそっとしまった。
おしまい




