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第9話:包囲された絶対領域と、決戦前夜の紅茶

地平線を埋め尽くすほどの、鉄の波。

帝国の精鋭、神聖法皇国の聖騎士団、そして周辺国家の連合軍――総勢10万の大軍勢が、俺の邸宅の周囲数キロメートルを完全に包囲したのは、翌日の夕暮れ時だった。


「ディアス! 完全に包囲したぞ! お前のチート魔術も、法皇国が誇る『対魔結界』の前には無力だ! おとなしく出てきて、エルフレデと10億ゴルドを差し出せ!」


拡声の魔導具を通した、新勇者レナードの傲慢な声が響き渡る。

屋敷を取り囲むように、空を覆い尽くすほどの巨大な魔法陣が展開されていた。発動すれば、あらゆる魔術の構築を強制的に霧散させるという、対魔術師用の絶対兵器だ。


「ハハハ! 見ろよ、あの引きこもりめ、怖気づいて一歩も出てきやしねえ!」

「10万の軍勢と対魔結界だぞ? いかに怪物と言えど、今頃中で震えて命乞いの準備でもしているのさ!」


兵士たちが武器を打ち鳴らし、勝鬨をあげる。

読者に「あいつら、自分たちが何に喧嘩を売ったのか分かっていないな」という極上のニヤニヤ感(優越感)を与えるための、完璧な前フリの完成だ。



その頃、包囲された邸宅のリビング。

外の喧騒など、厚いガラスの一枚向こうの羽虫の羽音ほどにも聞こえない防音魔術の中、俺は静かに読書を楽しんでいた。


「ディアス様、ダージリンの紅茶が入りました」


完璧な所作でカップを差し出すエルフレデ。その表情には、10万の軍勢に包囲されているという緊迫感は、微塵もなかった。

かつては国のために戦うことしか知らなかった聖女が、今や外の軍勢を「ただのノイズ」としか認識していない。主人公への絶対的な信頼が生んだ、完全なるチョロイン化・狂信者化の極致だ。


「外が騒がしいな、エルフレデ。お前をハメた無能どもが、ずいぶんと張り切っているようだ」


「ふふ、本当に滑稽ですね。ディアス様の絶対的な力の足元にも及ばないというのに、わざわざ10万も集まって、一瞬で消されるのを待っているなんて」


エルフレデは俺の肩にそっと手を置き、とろけるような笑みを浮かべた。

「ディアス様、あの無能な勇者レナードの首は、どうか私に跳ねさせてください。あ奴に、本当の聖女の力を見せつけてやりたいのです」


「いいだろう。レナードはお前にやる。だが、残りの10万の雑魚どもは、俺の新しい魔術の実験台になってもらう」


俺は紅茶を一口すすり、静かに立ち上がった。

そして、窓の外に広がる10万の軍勢と、空を覆う対魔結界を見上げる。


対魔結界?

そんな子供騙しの魔術、俺の『因果超越』の権能の前には、ただの落書きに過ぎない。


「10万か。ちょうどいい。俺を裏切り、追放したあの国へ送る、最高の『花火』にしてやろう」


俺の手のひらに、次元そのものを歪ませるほどの、禍々しくも美しい純黒の光球が収束していく。

明日、世界は本物の『神』の存在を知ることになる。


(第10話へ続く)

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