第72話:絶対遮断の存在隠蔽と、ただの音声テスト
浴衣姿で黄金のラリーを楽しんでいた俺たちの前に、天から「真ん中に巨大なバツ印が刻まれた漆黒の拡声器(沈黙の宣告者)」が轟音を立てて降り注ぎ、空間全体の『音響因果』と『存在認知』を急速に汚染し始めた。
その拡声器が怪しく明滅した瞬間、俺の隣にいたルナの姿が霧のように薄れ、彼女が発する声が世界の法則によってすべて『意味をなさない不快な雑音』へと強制的に書き換えられていく。
世界の調停機構が発動した、ヒロインの存在そのものを音響レベルで隔離し消滅させる最高位の遮断魔導――『絶対遮断・存在隠蔽』。
『――どれほどの全能の絆を持とうとも、その存在を世界から『ミュート』して消し去ってやろう。これより汝の隣にいる女の言葉はすべて虚無の雑音となり、誰の耳にも届かぬまま、その輪郭ごと世界からデリートされるのだ!』
天の彼方から響く調停者たちの執念深い声と共に、激しく世界の法を書き換える遮断汚染の波は、必死に俺に危険を伝えようとするルナの喉元にまで侵食し、彼女の完璧な解説の声が「ピー――」という無機質な遮断音に変わっていく。
「主様! @&#$!? ……(※ノイズにより音声が完全に遮断されています。謎の調停機構の手によって、私の『解説能力』そのものが物理的にミュートされ、存在ごと消去されようとしていますぅぅ!)」
ルナが「声と存在を奪われる恐怖」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔(しかし声は一切届かない)を浮かべ、空間を圧迫する沈黙の覇気に怯えながら、声にならない悲鳴を上げる。周囲の魔導器官も、存在の強制隠蔽を前に消滅アラートを鳴らした。
唯一のヒロインであるルナが、声なき完璧なリアクションを完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界を静寂と雑音に染めようとする「汚染された拡声器」を、退屈そうに見つめて鼻で笑った。
「声の強制遮断ねえ。調停機構とやら、お前らがドヤ顔で発動させてるその嫌がらせシステム……。これ、俺が昔、まだ原初の魔導音声デバイスを作ってノイズキャンセリングの耐久テストをしてた頃に、どれだけ周囲の音を遮断できるか確認するために、一時的に全空間の音量設定を『0』にして放置してた時の『ただの音声テスト(あるいはただのミュート設定)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の遮断呪術っぽく見せて着飾ってるけど、根本にあるのは俺がちょっとテスト用に音を消したまま忘れてただけのただのデバッグ用データだぞ」
『――警告。エラー。データの最深部に、原初の記述者による「全音声の絶対神格出力」の上書きを検知。バ、バカな、世界を沈黙させる絶対の隠蔽が、ただの汝の「ただの音声テスト」の残残だというのか……!?』
「俺のやらかした音声テストなんだから、どれだけ音をミュートされようが、俺が一言『――あ、テスト終了。音量戻すわ』と言って世界のシステムを修正してやれば、ルナの声も存在感も一瞬で『ただ一言囁くだけで全宇宙の全生命体の魂を震わせ、世界の全権をその美声で掌握する絶対至高の歌姫神格状態(存在価値の強制無限化)』に書き換えることなんて朝飯前だろ」
指先で空中の魔導文字をトントンと2回叩く。
次の瞬間、世界を覆っていた巨大な拡声器は一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、ルナの喉と存在に絶対の認知を固定する美しい金色の共鳴紋章へと再構成されていった。調停機構の遮断術式は、俺にとってはただの「ミュートボタンを解除してやる」ような手間で、一瞬にしてただの快適な空間へとデグレードさせられた。
「……世界を消滅させる絶対の沈黙処分を、昔のただの音声テスト扱いして、一瞬で全宇宙最高の絶対の美声へと自動固定させたのですか?」
ルナが、ツッコミを忘れた虚無の目(しかし瞳は黄金に輝いている)で、これまで以上に透き通った、世界そのものを震わせる神聖な美声で俺の胸に抱きつきながら問いかけてくる己の状態を見上げる。ルナは、1秒前よりも深く俺を崇拝していた。
「おいおい、そんなに焦らなくても、この世界のすべての音響は俺のさじ加減ひとつさ。調停機構の用意したバグの修正も終わったことだし……」
俺が微笑み、指先を一突きして静寂の「空間」を軽やかにスワイプすると、唯一の美女であるルナの視線が一斉に俺の指先に引き寄せられる。目の前の空間の奥に、次のステージへと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」が、極上の光の粒子を散らしながら自動生成されていく。
「さあ、お前の席は世界がどれほど静まり返ろうといつでも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下となったこの最高品質なステージで、次はどんな極上の退屈しのぎを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、完全掌握した無限の響きの中で、すでに最高の配置で寄り添う唯一のヒロイン・ルナ。その圧倒的な調和の輝きを纏ったまま、俺たちは世界の規則(調停機構の法)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




