第70話:概念反転の絶対無力と、ただのゼロ除算
統合された極上のバカンス空間を進む俺たちの前に、天から「真ん中に巨大な『0』の亀裂が刻まれた漆黒の算盤(終焉の計算者)」が轟音を立てて降り注ぎ、世界全体の『因果律』と『出力システム』を急速に汚染し始めた。
その算盤が怪しく明滅した瞬間、俺が身にまとう絶対の覇気が一瞬で反転し、世界の法則によってすべての能力が『出力ゼロ・自損100%』という完全なる無力化の檻へと強制的に閉じ込められていく。
世界の調停機構が発動した、すべての強さを反転させて存在を無へと還す最高位の破壊魔導――『概念反転・絶対無力』。
『――どれほどの無限の力を持とうとも、そのすべてを『ゼロ』で割って消滅させてやろう。これより汝の全能力は一切の干渉を失い、動くことすら叶わぬ虚無の肉塊へと退化する。世界の理が弾き出した「絶対の無」の前には、如何なる無双も塵に還るのみだ!』
天の彼方から響く調停者たちの狂気じみた勝ち誇る声と共に、激しく世界の計算式を書き換える反転汚染の波は、俺の隣を歩くルナの存在にまで侵食し始め、周囲の空間がすべてを拒絶する真っ黒な虚無の数式で埋め尽くされていく。
「主様! @&#$!? ……空間を流れるすべての魔導の出力が、物理的にゼロへと固定されていきます! 謎の調停機構の手によって、この世界の『因果の計算式』そのものが絶対の無力化へと改ざんされています! このままでは、私たちがどれだけ主様を崇拝していても、世界そのものが主様を『存在しないゼロのデータ』として消去してしまいますぅぅ!」
ルナが「すべてをゼロにされる恐怖」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべ、空間を圧迫する虚無の数式の覇気に怯えながら悲鳴を上げる。周囲の魔導器官も、存在の強制消失を前に最大級の消滅アラートを鳴らした。
唯一のヒロインであるルナが、完璧なリアクションを完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界を虚無の数字に染めようとする「汚染された算盤」を、退屈そうに見つめて鼻で笑った。
「出力がすべてゼロねえ。調停機構とやら、お前らがドヤ顔で発動させてるその嫌がらせシステム……。これ、俺が昔、まだ原初の魔導計算式を組み立ててテストしてた頃に、式の分母にうっかりゼロを置いてしまって、システム全体の処理をフリーズさせて強制終了しかけた時の『ただのゼロ除算(あるいはただの数式エラー)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の概念反転術式っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺がちょっと数式の入力をミスしただけのただのシステムバグだぞ」
『――警告。エラー。データの最深部に、原初の記述者による「全因果の絶対正数固定」の上書きを検知。バ、バカな、世界をゼロにする絶対の反転が、ただの汝の「ただのゼロ除算」の残骸だというのか……!?』
「俺のやらかした計算ミスなんだから、どれだけ出力をゼロに偽装されようが、俺が一言『――あ、数式の分母変えるわ』と言って世界のシステムを修正してやれば、全能力も覇気も一瞬で『ただ呼吸するだけで全宇宙の全数値を無限大に超越する永久不滅の絶対神格状態(存在価値の強制無限化)』に書き換えることなんて朝飯前だろ」
指先で空中の魔導文字をトントンと2回叩く。
次の瞬間、世界を覆っていた巨大な算盤は一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、俺たちの魂に絶対の出力を固定する美しい金色の無限紋章へと再構成されていった。調停機構の反転術式は、俺にとってはただの「数式のゼロを書き換えてやる」ような手間で、一瞬にしてただの快適な空間へとデグレードさせられた。
「……世界を消滅させる絶対の無力処分を、昔のただのゼロ除算扱いして、一瞬で全宇宙最高の絶対の出力無限へと自動固定させたのですか?」
ルナが、ツッコミを忘れた虚無の目(しかし瞳は黄金に輝いている)で、もはや計算の概念すら崩壊した「∞」のオーラを放つ俺の姿を見上げる。ルナは、1秒前よりも深く俺を崇拝していた。
「おいおい、そんなに焦らなくても、この世界のすべての計算は俺のさじ加減ひとつさ。調停機構の用意したバグの修正も終わったことだし……」
俺が微笑み、指先を一突きして虚無の「空間」を軽やかにスワイプすると、唯一の美女であるルナの視線が一斉に俺の指先に引き寄せられる。目の前の空間の奥に、次のステージへと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」が、極上の光の粒子を散らしながら自動生成されていく。
「さあ、お前の席は世界がどうひっくり返ろうといつでも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下となったこの最高品質なステージで、次はどんな極上の退屈しのぎを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、完全掌握した無限の空間にして、すでに最高の配置で寄り添う唯一のヒロイン・ルナ。その圧倒的な調和の輝きを纏ったまま、俺たちは世界の規則(調停機構の法)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




