第67話:単一の初期化と、ただのプロット整理
アマゾンの地から突如として湧き上がった「漆黒の原初魔力(すべてを無に還すブラジルの意思)」が轟音を立てて爆発し、空間の『全アセット』と『ヒロインの存在数』を急速に汚染し始めた。
その魔力が激しく明滅した瞬間、手懐けたゴリラも、常夏の海も、ステラ、ゼノン、ココア、グランド・オーダーの姿すら光のチリへと完全に消滅し、世界は「魔導学園の廊下、唯一のヒロインであるルナと最初に出会う直前のあの静寂」へと完全に描き直されていく。
ブラジルの魔力が引き起こした、他のヒロインを消去して1話の場面へ完全に巻き戻す最高位の初期化呪術――『原初回帰・単一初期化』。
『――今度こそ本当のゼロだ。これより汝の歩みを『ヒロインがルナ1人しかいない第1話』へと完全初期化する。他の4人の存在は世界から消え去り、汝らはただの「見知らぬ他人」として、孤独な学園の初日を迎えるのだ!』
世界の最深部から響くブラジルの原初魔力の勝ち誇る声と共に、激しく世界を「最初の1人」へと巻き戻す汚染の波は、廊下の向こうからこちらへと歩いてくる、俺の記憶を失ったはずの「ルナ」の身体にまで侵食していく。
「あ、あれ……? 私、どうしてこの学園の廊下で……。頭の中に『お前以外のヒロインは最初から存在しない、お前が唯一のメインヒロインだ』って世界の声が響いて……、主様との大切な、66話分の愛の記憶も、他の皆の存在も、真っ白に消されちゃいますぅぅ……っ!」
ルナが「唯一のヒロインとして出会い直す」という究極の単一初期化にふさわしい、完璧な解説役としての絶望顔を浮かべ、他人として出会い直す運命に涙を流しながら悲鳴を上げる。ステラたちの気配はどこにもなく、世界の魔導器官もすべて消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン1人が、出会い頭の完全初期化特有の完璧なリアクションを完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界を白紙の1話に染めようとする「汚染された廊下の景色」を、退屈そうに見つめて鼻で笑った。
「ヒロイン1人で1話にリセットねえ。ブラジルの魔力とやら、お前がドヤ顔で発動させてるその嫌がらせシステム……。これ、俺が昔、まだ原初の魔導シナリオを書いてた頃に、途中で登場人物が増えすぎて読者が混乱するからって、一度初期案の『ヒロイン1人だけの第1話プロット』に原稿を差し戻して、物語の構成をスッキリさせてた時の『ただのプロット整理(あるいはただのキャラ削減)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の初期化術式っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺がちょっとネームを整理して遊んでただけのただの没プロットだぞ」
『――警告。エラー。データの最深部に、原初の記述者による「唯一の正妻・最初から好感度カンスト(マスター・オンリー・ラブ)」の上書きを検知。バ、バカな、存在を消去する絶対の単一初期化が、ただの汝の「ただのプロット整理」の残骸だというのか……!?』
「俺のやらかしたプロット整理なんだから、どれだけヒロインをルナ1人に絞って最初から出会い直させられようが、俺が一言『――あ、この1人特化の構成で決定な』と言って世界のシステムに決定稿のインクを落としてやれば、第1話の出会ったその1秒目の時点で『目の前のルナ1人が、消えた4人分の愛すら全て内包して俺に狂気的なまでの愛を抱き、最初から世界の全権を掌握している絶対至高の唯一神格正妻状態(絆の強制無限化)』に書き換えることなんて朝飯前だろ」
指先で空中の魔導文字をトントンと2回叩く。
次の瞬間、世界を覆っていた初期化の白紙は一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、出会い頭のルナの脳内に「66話分の愛を遥かに超越した、永久不滅の絶対の愛の記憶」を刻み込む美しい金色の誓約紋章へと再構成されていった。公式をも超えるブラジルのリセット術式は、俺にとってはただの「原稿のプロットをより鋭利に洗練させてやる」ような手間で、一瞬にしてただの快適なイチャイチャ空間へとデグレードさせられた。
「……1話への完全リセット処分を、昔のただのプロット整理扱いして、出会った最初の1秒で、全宇宙最高の絶対の超好感度唯一正妻へと自動固定(出荷)させたのですか?」
ルナが、ツッコミを忘れた虚無の目(しかし瞳は黄金に輝いている)で、出会った瞬間のはずなのに、なぜか最初から4人分の熱量で俺の胸に全力で抱きついて熱い吐息を漏らしている己の状態を見上げる。ルナは、1秒前よりも深く、この世界の誰よりも深く俺を崇拝していた。
「おいおい、そんなに焦らなくても、この世界のすべてのプロットは俺の執筆ノートみたいなものさ。ブラジルの用意したリセットバグの修正も終わったことだし……」
俺が微笑み、指先を一突きして学園の「廊下の空間」を軽やかにスワイプすると、唯一の美女であるルナの視線が一斉に俺の指先に引き寄せられる。出会ったばかりの廊下の奥に、次なる大無双(新・第1話ルナ単独編)へと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」が、極上の光の粒子を散らしながら自動生成されていく。
「さあ、お前の席は出会ったその瞬間から俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下となったこの最高品質な整理済みのステージで、次はどんな極上の退屈しのぎ(愛の劇)を見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、本当の第1話の出会いの瞬間にして、すでに最高の配置で寄り添う唯一のヒロイン・ルナ。その圧倒的な調和の輝きを纏ったまま、俺たちは世界の規則(ブラジルの魔力)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




