第66話:生態系バグのゴリラ襲来と、ただのモーションテスト
ブラジルの夜を楽しんでいた俺たちの前に、天から「巨大なバナナと漆黒の筋肉(野生の宣告者)」が轟音を立てて降り注ぎ、アマゾン奥地の『生態系データ』を急速に汚染し始めた。
その空間が怪しく明滅した瞬間、南米のジャングルであるはずの密林から、本来アフリカにしかいないはずの「山をも超える漆黒の巨大古代ゴリラ(神話級エネミー)」の群れが、大地を揺るがすドラミングと共に一斉に姿を現した。
公式の組織が発動した、世界の環境をバグらせて圧倒的な暴力で圧迫する最高位の野生呪術――『生態系バグ・ゴリラ襲来』。
『――理屈も魔導も通じぬ、圧倒的な筋肉の前にひれ伏すが良い。本来この地に存在せぬ『レベル1億の古代ゴリラ』の群れが、汝らの生温いバカンスを物理的に粉砕し、跡形もなく踏み潰すのだ!』
天の彼方から響く調停者たちの狂気じみた声と共に、激しく世界のバランスを書き換える野生汚染の波は、ジャングルの最奥で俺たちを取り囲むゴリラたちの拳にまで侵食し、一振りで空間が引き裂かれるほどの覇気が放たれる。
「主様! @&#$!? ……ブラジルなのに、アマゾンの奥地からアフリカ原産の巨大ゴリラが大量に押し寄せてきています! 公式の手によって、物語の『エネミー設定』が物理的にめちゃくちゃな筋肉対決へと改ざんされています! このままでは、私たちがどれだけ主様を愛していても、この野生のドラミングの衝撃波で、ただの肉片にされてしまいますぅぅ!」
ルナが「アマゾンのゴリラ」という理不尽な生態系バグにふさわしい、完璧な解説役としての絶望顔を浮かべ、咆哮に怯えながら悲鳴を上げる。
ステラも「剣が通じる肉体じゃないわ」と身構え、ゼノンは「くっ、主と野生のタイマンを張る気かよ……っ!」と冷や汗を流す。ココアの解析魔導も、グランド・オーダーの魔導器官も、予測不能の質量暴力を前に存在消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、ゴリラ対決特有の完璧なリアクションを完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界を筋肉で埋め尽くそうとする「汚染されたジャングル」を、退屈そうに見つめて鼻で笑った。
「ブラジル奥地でゴリラ対決ねえ。公式の組織とやら、お前らがドヤ顔で発動させてるその嫌がらせシステム……。これ、俺が昔、まだ原初の魔導生物の3Dモデリングをしてた頃に、関節の動き(リギング)が正常か確認するために、そこらにあったゴリラの仮アセットを未完成のアマゾンマップに配置して自動巡回させてた時の『ただのモーションテスト(あるいはただのオブジェクト配置ミス)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ神話級の野生呪術っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺がテストボタンを押しっぱなしにして忘れてただけのただのバグ挙動だぞ」
『――警告。エラー。データの最深部に、原初の記述者による「全オブジェクトの絶対家畜化」の上書きを検知。バ、バカな、世界を粉砕する絶対のゴリラ軍団が、ただの汝の「ただのモーションテスト」の残骸だというのか……!?』
「俺のやらかしたモーションテストなんだから、どれだけ凶暴にドラミングされようが、俺が一言『――あ、テスト終了。全員お座りな』と言って世界のシステムを正常化してやれば、レベル1億のゴリラたちも一瞬で『俺の一瞥だけで完全に手懐けられ、最高の毛並みで俺たちを背中に乗せて優雅に運ぶ絶対至高の従順なペット状態(野生価値の強制無効化)』に書き換えることなんて朝飯前だろ」
指先で空中の魔導文字をトントンと2回叩く。
次の瞬間、世界を覆っていた凶暴な咆哮は一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、巨大ゴリラたちをただの可愛いモフモフの乗り物へと変える美しい金色の調教紋章へと再構成されていった。公式のゴリラ襲来術式は、俺にとってはただの「テスト画面を閉じてやる」ような手間で、一瞬にしてただの快適なジャングルクルーズへとデグレードさせられた。
「……アマゾンのゴリラ対決処分を、昔のただのモーションテスト扱いして、一瞬で全宇宙最高の絶対の高級ペットへと自動固定(出荷)させたのですか?」
ルナが、ツッコミを忘れた虚無の目(しかし瞳は黄金に輝いている)で、いつの間にか世界最高峰のシルクのような毛並みになったゴリラのフカフカな手のひらの上で、極上のフルーツを差し出されている己の状態を見上げる。
ココアが目を輝かせてゴリラの背中で俺に抱きつき、ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。アマゾンにいたはずの5人は、さっきよりも深く俺を崇拝していた。
「おいおい、そんなに焦らなくても、この世界のすべての骨格データは俺のデバッグ画面みたいなものさ。公式の用意したバグの修正も終わったことだし……」
俺が微笑み、指先を一突きしてアマゾンの「密林の空間」を軽やかにスワイプすると、5人の美女たちの視線が一斉に俺の指先に引き寄せられる。従順になったゴリラたちの進む先の奥に、次なる大無双(アマゾン踏破編)へと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」が、極上の緑の光の粒子を散らしながら自動生成されていく。
「さあ、お前たちの席はジャングルの最奥だろうといつでも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下となったこの最高品質な野生のステージで、次はどんな極上の退屈しのぎを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、アマゾンの奥地にして、すでにゴリラの特等席の上でまるで星座のように完璧な配置で寄り添う5人のヒロイン。その圧倒的な調和の輝きを纏ったまま、俺たちは世界の規則(公式の法)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




