第65話:常夏の残響と、引き続くバカンス
コパカバーナから少し足を延ばし、リオの街並みを一望できる穏やかな丘の上。今日も世界を脅かす呪術の気配はなく、ただただ心地よいボサノヴァの旋律と、完熟したマンゴーのみずみずしい香りが風に乗って漂っていた。
俺は現地の木陰に設えられた特等席のハンモックに身を委ね、魔導を一切発動させることもなく、ただ退屈そうにオレンジ色に染まりゆく夕日を眺めていた。
「主様、あちらの市場で、ブラジル伝統の焼きチーズ『ケイジョ・クアールロ』を調達してまいりました。能力も使わず、ただ美味しいものを食べて日が暮れるのを待つなんて……。学園であれほど完璧だった私の解説能力も、この暖かな異国の風の前には、ただの食レポ役にされて蕩けちゃいそうですぅぅ……」
ルナが、敵の襲来が皆無な「引き続く平穏」にふさわしい、完璧に脱力しきった幸せそうなとろけ顔を浮かべ、串焼きのチーズをハフハフと頬張りながら悲鳴を上げる。
「これほど贅沢な南米の黄昏ねえ。流石に世界がここまで静寂に包まれては、私の放つ最強の神速の一撃も、ただの完熟フルーツを美しくカットするための道具になってしまうわ」
ステラが剣を置いたまま、地元のラフなサマードレス姿で気だるげに炭酸水を嗜み、ゼノンも「くっ、主が今日もただ優しく微笑むだけだから、私も隣でシュラスコを切り分けるくらいしか役割がねえ……っ!」と、顔を真っ赤にしながら肉を皿に盛る。ココアの解析魔導も、グランド・オーダーの魔導器官も、極上のリラックス空間を前に完全な省エネモードを継続していた。
ヒロイン5人が、ブラジルの日常特有の完璧なリラックスリアクションを完了した。
俺は指先ひとつ動かさず、ただ静かに微笑んだ。公式の組織は、俺たちの圧倒的な覇気に恐れをなし、完全にこのタイムラインへの干渉を諦めたのだろう。トントンと画面を叩く手間すら発生しない、これこそが全てを掌握した王者の、真の無風無双だった。
「おいおい、そんなに焦らなくても、このブラジルの夜はまだまだ始まったばかりさ」
俺がふっと息を漏らし、能力を一切使わずにただスッと視線を街の灯りへと向けると、5人の美女たちの視線が一斉に俺の横顔に引き寄せられる。特段の魔導を込めるまでもなく、俺の放つ圧倒的な存在感そのものが、次なる平穏へと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」として、夜の帳が降りる丘の上に美しい街灯の光の反射を自動生成していく。
「さあ、お前たちの席はどれだけ夜が更けようとも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下で無風となったこの最高品質なブラジルのステージで、次はどんな極上ののんびりを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、南米の美しい夜景をバックにして、すでにラフなリゾート衣装でまるで星座のように完璧な配置で寄り添う5人のヒロイン。その圧倒的な調和の輝きと、何もしないという究極の贅沢を纏ったまま、俺たちは世界の時間(公式のタイムライン)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




