第64話:無為の境地と、何もしないバカンス
公式の嫌がらせすら届かない、完全に俺たちの私有地となったコパカバーナ海岸。そこには世界を脅かす呪術も、騒がしいシステムアラートもなく、ただただ穏やかな波の音と、心地よい南国の風だけが流れていた。
俺は最高級のビーチチェアに深く身体を預け、能力を使うこともなく、ただ退屈そうに青い空を見上げていた。
「主様、あちらの売店で、とても美味しそうな完熟のアサイーボウルを見つけてしまいました。公式の組織がいつ襲ってくるかもわからないというのに、こんなにものんびりとした極上の時間が流れているなんて……。私の精緻な危機管理解説センサーも、完全にオフになって、ただただ主様と過ごすこの楽園の空気に蕩けちゃいそうですぅぅ……」
ルナが、敵の不在と「特になにもしない」という至高の贅沢にふさわしい、完璧に脱力しきった幸せそうな絶望顔(とろけ顔)を浮かべ、俺の隣で冷たいトロピカルドリンクを喉に流し込む。
「これほど穏やかなブラジルの午後ねえ。流石に世界がここまで静まり返っては、私の放つ最強の神速の一撃も、ただのココナッツを割るための道具になってしまうわ」
ステラが抜刀することすら忘れ、水着姿で砂浜に寝転がって気だるげに太陽を浴び、ゼノンも「くっ、主が何もしてくれないから、私もただ主の横顔を見つめて赤面することしかできねえ……っ!」と、レアルの心配をすることもなく波打ち際で足を濡らす。ココアの解析魔導も、グランド・オーダーの魔導器官も、あまりの平和さを前に完全なスリープモードへと移行していた。
ヒロイン5人が、何もしない贅沢特有の完璧なリラックスリアクションを完了した。
俺は指先ひとつ動かさず、ただ静かに微笑んだ。公式の組織は、俺がこのブラジルを「仮置きの背景」から「絶対のプライベートリゾート」へと上書きした時点で、完全に手出しする戦意を喪失したのだろう。能力を使ってマウンティングする手惑いすら発生しない、これこそが真の絶対王者の退屈しのぎだった。
「おいおい、そんなに警戒しなくても、この世界の時間は俺たちのために流れているようなものさ」
俺がふっと息を漏らし、能力を一切使わずにただスッと視線を海原の彼方へと向けると、5人の美女たちの視線が一斉に俺の横顔に引き寄せられる。特段の魔導を込めるまでもなく、俺の放つ圧倒的な存在感そのものが、次なる平穏へと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」として、砂浜の上に美しい光の反射を自動生成していく。
「さあ、お前たちの席は何も起きない時でも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下で無風となったこの最高品質なバカンスステージで、次はどんな極上ののんびりを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、灼熱のブラジルにして、すでに水着姿でまるで星座のように完璧な配置で寄り添う5人のヒロイン。その圧倒的な調和の輝きと、何もしないという究極の贅沢を纏ったまま、俺たちは世界の時間(公式のタイムライン)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




