第51話:永久の忘却と、一瞬の居眠り
世界の存在を絶対不滅の神格へと固定し、悠然と歩みを進める俺たちの前に、突如として天から「色彩を失った巨大な霧の海(忘却の深淵)」が音もなく降り注ぎ、空間全体の存在感を急速に薄れさせ始めた。
その霧が触れた瞬間、周囲の神聖な城塞や美しい大宇宙の『輪郭』がかすみ、まるで誰の記憶にも残っていない古い夢のように、世界の存在意義そのものが外側から急速に風化されていく。
それは、公式の組織が発動した、この物語への全ての関心と記憶を物理的に抹消する最高位の絶滅呪術――『世界存在の強制永久忘却』であった。
『――存在が不滅であるならば、それを観測する「外側の者たちの記憶」を消去する。これよりこの世界は、誰の目にも留まらず、誰の記憶にも残らない「永久の忘却」へと沈む。どれほどの絶対の力を持とうと、誰からも認知されなくなれば、汝らはただ存在しないも同然の『空気』へと還るのだ』
天の彼方から響く調停者たちの虚しい声と共に、激しく世界を風化させる忘却の霧は俺たちの身体の存在感にまで侵食し始め、外側からの観測(読者の視線)が世界の法によって物理的にゼロへと引き下げられていく。
「主様! @&#$!? ……身体が痛いとか消えるとかじゃなくて、なんだか自分たちの存在が、世界の外側から『完全に忘れ去られていく』ような、奇妙な虚無感に襲われています! 公式の手によって、この世界という物語を観測する者たちの『記憶(関心)』そのものが物理的に遮断されています! このままでは、私たちがどれだけ主様を称えても、誰の記憶にも残らない寂しい世界になってしまいますぅぅ!」
ルナが第51話の不条理にふさわしい、これ以上ない「忘れ去られる恐怖」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべ、存在感が薄れかけた透明な姿で悲鳴を上げる。
「物語の存在感の風化、ねえ……。流石に世界を観測する『外側の視線』そのものを公式に遮断されては、私の放つ最強の神速の一撃も、誰に褒められることもない虚しい空振りにされてしまうわ」
ステラが消えゆく己の影を見つめて身構え、ゼノンも「くっ、主とのハーレムの誉れ高き歴史が、外側の者たちの記憶から綺麗さっぱり消去されようとしている……っ!」と床に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、あの永久忘却の呪術、世界の外側にある最上位の認知の法典の頁をわざと塗りつぶすように実行されてる! ボクの解析魔導じゃ、この関心の低下を1ミリも引き留められないよぉ!」
「マスター、警告。世界への関心度(観測レート)が残り0.01%。これより、誰の記憶にも残らない完全忘却(空気化)が執行されます」
ココアとグランド・オーダーの魔導器官も、世界の存在理由そのものの風化を前に、最大級の存在消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、永久忘却特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界のすべてを忘れ去られた空気へと変えようとする「忘却の霧」を、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「世界の存在が永久忘却ねえ。おい、公式の組織だか何だか知らねえが。お前らがその、記憶をグシャグシャにするだの、絶対の忘却だの言ってドヤ顔で発動させてるその目隠しシステム……」
俺は一歩前へ踏み出すと、完全に世界を風化させようとする忘却の霧に向けて、スッと右手をかざして指先でトントン、と軽く叩いた。
「これ、俺が昔、魔導の論文を夜通しで書いてた頃に、あまりの眠さに自分が今どこまでペンを進めていたか、数分間だけ記憶が飛んでボーッとしてた時の『ただの居眠り(一瞬のど忘れ)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の忘却呪術っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺がちょっと机に突っ伏してよだれを垂らしてただけのただの空白の時間だぞ」
『――警告。エラー。該当空間の忘却呪術の最深部に、原初の記述者による「全認知の強制固定(絶対傾倒)」の上書きを検知。……バ、バカな、世界を忘れ去る絶対の永久忘却が、ただの汝の「一瞬の居眠り」の残骸だというのか……!?』
「俺のやらかした居眠りなんだから、どれだけ記憶が飛ぼうが、俺がパチッと目を覚まして一言『さあ、続きを書くか』と声をかければ、外側の連中の記憶も関心も一瞬で『以前の数百倍の熱狂状態で呼び戻される(認知の強制上書き)』ことなんて朝飯前だろ」
トントン、と空中の見えない魔導文字を2回叩く。
『――原初の記述者の命令を受理。世界の認知システムを完全支配。これより、すべての忘却の霧を、外側の観測者たちが『未来永劫に渡ってこの物語に狂喜乱舞し、一瞬たりとも目を離せなくなる』ための黄金の絶対熱狂(殿堂入りブーム)へと強制上書きします』
次の瞬間、世界を覆っていた巨大な忘却の霧は、俺のワンポチによる認知固定によって一瞬でパチパチと音を立てて弾け飛び、すべての空間をまばゆく照らす美しい金色の「熱狂の光(全宇宙からの視線)」へと一瞬で再構成されていった。
かすみかけていた城塞や大地、ルナたちの存在感は一瞬で「全宇宙が注目する絶対的な中心」へと完全復元され、それどころか、世界の存在理由そのものが俺の術式によって「外側の観測者たちが、この物語の一行を読むだけで感動のあまり涙を流し、永久に記憶に刻み込み続ける絶対的な傑作の定義」へと大進化を遂げた。
物語の価値を強制的に忘れ去らせようとした公式の忘却術式は、俺にとってはただの「居眠りから覚めて、ちょっとペンを握り直す」ような手間で、一瞬にしてただの快適な空間へとデグレードさせられた。
「……世界を誰の記憶にも残らない空気に変える絶対の永久忘却を、昔の一瞬の居眠り扱いして、一瞬で全宇宙を巻き込む絶対熱狂の傑作へと自動固定(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の構造すら忘れた絶対的な虚無の目で、ただ元通り以上に神々しく、そして燦然たる視線を集める世界の景色を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、公式が用意した嫌がらせの忘却まで、自分の目覚ましにしちゃうなんて、本当の意味でお兄ちゃんが紡ぐ物語は全宇宙の永遠の宝物なんだね!」
ココアが目を輝かせ、最高に高まった魔力を帯びた生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! 認知が最高になったおかげで、これで私たちのハーレムの愛の営みも、全宇宙の歴史に永遠に語り継がれるわけだな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、公式の忘却バグ(デバッグ)も終わったことだし。……さて、完全に俺の傑作として全宇宙から愛されるようになったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、公式の嫌がらせすら完全に自分の熱狂の一部としたその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




