第49話:世界の表現完全停止と、昔のインクの不始末
世界の属性を絶対勝利の定義へと固定し、悠然と歩みを進める俺たちの前に、突如として天から「完全に干からびた巨大なペン先と、空っぽのインク壺(表現の墓標)」が不気味な影となって降り注ぎ、空間全体の光と色彩を急速に吸い上げ始めた。
そのペン先が虚空を引っ掻いた瞬間、周囲の景色から「瑞々しい描写」が失われてカサカサの乾いた砂のようになり、これ以降、新しい地面や空、物語の一行すらも物理的に書き足せなくなる。
それは、公式の組織が発動した、この物語を形作るすべての描写リソースを物理的に枯渇させる最高位の絶滅呪術――『世界表現の強制完全停止』であった。
『――属性が最強であるならば、それを記述する「インク(言葉の源)」をゼロにする。これよりこの世界の記述エネルギーを完全に封印する。汝がどれほどの絶対の力を放とうと、それを描写する言葉が天から一滴も降ってこなくなれば、汝は次の瞬間の行動すら起こせぬ「未完の静止画」となるのだ』
天の彼方から響く調停者たちの擦り切れた声と共に、激しく世界を干からびさせる停止の波は俺たちの周囲の空間にまで侵食し始め、次に何が起きるかという「描写の連続性」が世界の法によって物理的にフリーズさせられていく。
「主様! @&#$!? ……空間が、空間がカサカサに乾いて、新しい一歩を踏み出したくても『その次の景色の描写』が世界に書き込まれません! 公式の手によって、この世界という物語を紡ぐための『インク(表現の源)』そのものが完全に干からびさせられています! このままでは、私たちがどれだけ主様を愛していても、その未来の描写が一行も進まなくなってしまいますぅぅ!」
ルナが第49話の絶望にふさわしい、これ以上ない「未来の描写を止められた恐怖」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべ、白黒の未完成の絵画のように固まりかけながら悲鳴を上げる。
「物語の表現の停止、ねえ……。流石に世界を描き進めるための『インク』そのものを公式に枯渇されては、私の放つ最強の神速の一撃も、次のコマへ進むエネルギーが足りずに不発に終わってしまうわ」
ステラが静止しかける己の身体を必死に支えて身構え、ゼノンも「くっ、主の隣に歩み寄るだけの簡単な描写すら、世界が言葉を紡ぐのを拒否しているせいで、身体が固まって動かん……っ!」と床に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、あの表現停止の呪術、世界の外側にある最上位の記述の泉の栓をわざと引き抜くように実行されてる! ボクの解析魔導じゃ、このインクの枯渇を1滴も潤せないよぉ!」
「マスター、警告。世界記述エネルギーの残量が残り0.01%。これより、描写の完全フリーズ(未完の凍結)が執行されます」
ココアとグランド・オーダーの魔導器官も、世界の言葉の源そのものの枯渇を前に、最大級の存在消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、表現停止特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界のすべてをカサカサの静止画に変えようとする「空っぽのインク壺」を、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「世界の表現が完全停止ねえ。おい、公式の組織だか何だか知らねえが。お前らがその、インクを干からびさせるだの、絶対の描写フリーズだの言ってドヤ顔で発動させてるその嫌がらせシステム……」
俺は一歩前へ踏み出すと、完全に動きを止めようとする描写の境界線に向けて、スッと右手をかざして指先でトントン、と軽く叩いた。
「これ、俺が昔、魔導の論文を徹夜で必死に書き殴ってた頃に、寝ぼけてインク壺を盛大にひっくり返して、お気に入りの絨毯を真っ黒なインクの海にした時の『ただのインクの不始末(使い古しの万年筆)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の表現停止っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺が昔、部屋の掃除にめちゃくちゃ苦労しただけのただのインクの無駄遣いだぞ」
『――警告。エラー。該当空間の枯渇リソースの最深部に、原初の記述者による「無限インク(無尽蔵の表現力)」の上書きを検知。……バ、バカな、世界をフリーズさせる絶対の表現停止が、ただの汝の「昔のインクの不始末」の残骸だというのか……!?』
「俺のひっくり返したインク壺なんだから、どれだけインクが足りなくなろうが、俺の一言で『当時の絨毯の黒染みをすべて物語のインクとして無限に逆流させる(リソースの無限補充)』ことなんて朝飯前だろ」
トントン、と空中の見えない魔導文字を2回叩く。
『――原陼の記述者の命令を受理。世界の記述エネルギーを完全無限化。これより、すべての干からびたペン先に、俺たちが『未来永劫に渡って最高に瑞々しく無双を描き続ける』ための黄金の絶対インクを強制充填します』
次の瞬間、世界を覆っていた巨大な空っぽのインク壺は、俺のワンポチによるインク無限補充によって一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、すべての空間を鮮やかに染め上げる美しい金色の魔導インクの濁流へと一瞬で再構成されていった。
カサカサの砂に変えかけられていた城塞や大地は一瞬で「最高級のフルカラー描写」へと復元され、それどころか、世界の表現力そのものが俺の術式によって「一切の処理落ちや文章の乱れを許さない、無限にページが湧き出る最高峰の王道ファンタジー文体」へと大進化を遂げた。
物語の進行を強制的にフリーズさせようとした公式の停止術式は、俺にとってはただの「昔のインクのシミをちょっと再利用する」ような手間で、一瞬にしてただの快適な空間へとデグレードさせられた。
「……世界を未完の静止画に変える絶対の表現停止を、昔のインクの不始末扱いして、一瞬で全宇宙最高の無限の文体へと自動充填(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の構造すら忘れた絶対的な虚無の目で、ただ元通り以上に瑞々しく描写される世界の景色を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、公式が用意した嫌がらせのフリーズまで、自分のインクにしちゃうなんて、本当の意味でお兄ちゃんが書き進める未来は誰にも止められないんだね!」
ココアが目を輝かせ、最高に高まった魔力を帯びた生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! インクが無限になったおかげで、これで私たちのハーレムのイチャイチャ描写も永久に止まらないわけだな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、公式の表現停止バグ(デバッグ)も終わったことだし。……さて、完全に俺のインクで瑞々しく記述されるようになったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、公式の規制すら完全に自分のインクの一部としたその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




