第44話:世界記述の限界と、端切れのメモ用紙
スローライフの法則を吸収し、さらなる超魔力を手に入れた俺たちの前に、突如として天から巨大な「漆黒の境界線(ページの終わり)」が文字通り物理的な壁となって降りてきた。
その線の向こう側は完全に何も存在しない文字通りの虚無であり、境界線は凄まじい速度でこちら側へ向かって迫り、世界を狭めていく。
それは、公式の組織が発動した、この物語の器そのものを物理的に使い切らせる最高位の終絶呪術――『世界記述の限界(ページアウト・制限)』であった。
『――法則が通じぬならば、器そのものを終わらせる。これよりこの世界は、許容された「文字数」の限界を迎える。どれほどの城塞を築こうと、どれほどの魔力を持とうと、物語の頁が底をつけば、世界は強制的に「完結(打ち切り)」となり、汝らの時間は永久に停止するのだ』
天の彼方から響く調停者たちの狂気的な笑い声と共に、迫り来る境界線が魔導城塞の端から次々と空間を消滅させていき、残された生存領域がみるみるうちに狭まっていく。
「主様! こ、これは世界の底が抜けるどころの話じゃありません! この世界という物語に許された『記述の容量』そのものが限界を迎えています! 公式の手によって無理やり終わりの頁(最後の行)に到達させられようとしています! 線に触れたら、私たちの未来ごと物語が強制終了しちゃいますよぉ!」
ルナが第44話の絶望にふさわしい、これ以上ない「強制完結の恐怖」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべて悲鳴を上げる。
「物語の記述の限界、ねえ……。流石に世界が描かれるキャンバスの『幅』そのものがなくなってしまっては、私たちのどんな最強の技も振るう空間すら残らないわ」
ステラが迫り来る漆黒の境界線を見つめて身構え、ゼノンも「くっ、背後の空間がもう消えかかっている……! 私たちのこれまでの思い出が、物理的な限界で強制的に閉じられようとしているぞ……っ!」と床に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、あの強制終了の呪術、この宇宙の外側にある最上位の法典から直接ページを引きちぎるように実行されてる! ボクの解析魔導じゃ、この境界線の前進を1ミリも止められないよぉ!」
「マスター、警告。世界記述の許容量が残り1%。これより、物語の完全停止(強制打ち切り)が執行されます」
ココアとグランド・オーダーの魔導器官も、世界の器そのものの限界を前に、最大級の存在消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、強制完結特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界のすべてを押し潰そうとする「漆黒の境界線」を、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「世界記述の限界ねえ。おい、公式の組織だか何だか知らねえが。お前らがその、物語のページが底を突くだの、絶対の強制終了だの言ってドヤ顔で発動させてるその記述システム……」
俺は一歩前へ踏み出すと、目の前まで迫った漆黒の境界線の壁に向けて、スッと右手をかざして指先でトントン、と軽く叩いた。
「これ、俺が昔、魔導のスペルを覚える時に、裏紙に適当に書き殴ってはグシャグシャに丸めて捨てていた『ただの端切れのメモ用紙(ゴミ箱行きの裏紙)』のシステムそのままじゃねえか。ガワだけ最高位のページ制限っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺がいつでも破り捨てられる使い捨てのメモ帳だぞ」
『――警告。エラー。該当空間の容量リミッターに、原初の記述者による「無限拡張コード」の上書きを検知。……バ、バカな、世界を終わらせる絶対のページ制限が、ただの汝の「ゴミ箱行きの裏紙」の残骸だというのか……!?』
「俺の所有するメモ帳なんだから、どれだけページが足りなくなろうが、俺の一言で『裏紙の余白を無限に継ぎ足す(ページ拡張)』ことなんて裏技でも何でもないだろ」
トントン、と空中の見えない魔導文字を2回叩く。
『――原初の記述者の命令を受理。世界記述の容量リミッターを完全撤廃(無限化)。これより、物語のページ数を永遠に自動生成し、迫り来る境界線を逆に遥か彼方まで押し返します』
次の瞬間、世界を押し潰そうとしていた漆黒の境界線は、俺のワンポチによる無限拡張によって一瞬でパチパチと音を立てて逆に引き裂かれ、遥か何億光年の彼方へと猛烈な速度で吹き飛ばされていった。
消え去りかけていた魔導城塞は一瞬で復元され、それどころか、世界の器そのものが俺の術式によって「無限の余白」を持つ超巨大な大宇宙へと大進化を遂げた。
物語を強制終了させようとした公式の制限呪術は、俺にとってはただの「裏紙の余白に落書きを続ける」ような手間で、一瞬にしてただの広大な更地へとデグレードさせられた。
「……世界を強制終了させる絶対のページ制限を、昔のゴミ箱行きの裏紙扱いして、一瞬で無限の大宇宙へと拡張(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の構造すら忘れた絶対的な虚無の目で、ただ果てしなく広がり続ける世界の景色を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、公式が用意した強制終了のルールまで、自分の落書き帳にしちゃうなんて、本当の意味でこの物語は永久に終わらないね!」
ココアが目を輝かせ、最高に高まった魔力を帯びた生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! ページが無限になったおかげで、これで私たちのハーレムも永遠に安泰だな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、公式の強制終了バグ(デバッグ)も終わったことだし。……さて、完全に俺の落書き帳として無限に広がるようになったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、公式の制限すら完全に自分の余白としたその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




