第43話:絶対の物語法則と、家庭菜園の自動水やり
世界を完全復元した直後、平原の空に巨大な「天の黄金律」が刻まれ、世界全体がのどかな田園風景へと急速に作り替えられ始めた。
主の手にあった無双の力や絶対の魔導書が次々と光の粒子となって封印され、代わりに錆びたクワとボロ布の服が強制的に与えられていく。
それは、公式の組織が発動した、世界の存在意義そのものを縛る最高位の概念改変――『絶対法則:至高の内政・農耕生活』であった。
『――物理的な消去が不可能であるならば、世界の「法則」そのものを書き換える。これよりこの世界は、一切の戦闘、チート、無双能力が完全に機能しない「ただの地道な開拓物語」となる。汝はただ、一生土を耕し、日々の糧を得るだけの凡夫として余生を過ごすがいい』
天から響く調停者たちの勝ち誇った声と共に、俺たちの周囲には広大な未開拓の荒れ地が広がり、戦うためのすべての力が、世界の法によって「使用不可能」に指定されていく。
「主様! こ、これは世界の根幹にある『ジャンル(物語の方向性)』そのものの強制改変です! 世界の絶対法則によって、私たちの最強の力も、主様のチート権限もすべて封印され、ただの『地道な村人』のステータスに固定されてしまいましたぁぁ!」
ルナが第43話の不条理にふさわしい、これ以上ない「牙を抜かれた絶望」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべて悲鳴を上げる。
「物語の絶対法則による力の封印、ねえ……。流石に世界が定めた『戦ってはいけないルール』のなかでは、私たちの最強の剣もただの鉄くずだわ」
ステラが力が入らなくなった己の手を見つめ、ゼノンも「くっ、クワを握る力しか出ん……! 魔王竜を屠った私の筋力が、ただの『耕作適性』に書き換えられている……っ!」と泥の中に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、このスローライフの法則、世界の外側にある最上位の法典でガチガチに固定されてる! ボクの解析魔導じゃ、このクワの攻撃力を1すら上げられないよぉ!」
「マスター、警告。世界の法則改変が100%完了。これより、地道な開拓フェーズが強制開始されます」
ココアとグランド・オーダーの魔導器官も、世界のルールそのものの書き換えを前に、最大級の機能制限アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、ルール改変特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は手渡された錆びたクワと、広大な荒れ地を、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「地味な農耕生活ねえ。おい、公式の組織だか何だか知らねえが。お前らがその、戦いを禁じる絶対の法則だの、最強のジャンル縛りだの言ってドヤ顔で発動させてるその内政システム……」
俺は一歩前へ踏み出すと、足元の泥に向けて、手にしたクワの先端をツン、と軽く突き立てた。
「これ、俺が昔、ちょっと自宅の庭でトマトとかハーブを育てるのにハマってた時に、毎日水をやるのがめんどくさくて適当に組んだ『家庭菜園用の自動水やり&一括収穫の簡易術式』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ最高位の絶対法則っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺の私生活のズボラから生まれたただの便利ツールだぞ」
『――警告。エラー。該当法則の根底にある自動化ロジックの「最初の所有者」を確認。……バ、バカな、世界を縛る至高の農耕法則が、ただの汝の「トマトの自動水やりツール」の残骸だというのか……!?』
「俺の作った菜園ツールなんだから、俺がクワを一振りすれば、開拓なんてプロセスを全部無視して、一瞬で『全自動で超肥沃な大地に耕作&全作物の最高品質収穫(全自動出荷)』が完了するに決まってんだろ」
――ザシュッ。
俺が地面にクワを軽く突き立て、空中の見えない魔導文字をトントンと2回叩く。
『――原初の記述者の命令を受理。家庭菜園術式を限界突破(10000%出力)で強制執行。これより、全自動でエリア全体の開拓・建築・収穫を完了し、余剰エネルギーをすべて「無双の戦闘力」へと逆流変換します』
次の瞬間、目の前に広がっていた広大な荒れ地は、一瞬にして天を突くような超巨大な黄金の魔導城塞へと自動建築され、地平線までの全大地が一瞬で最高級の果実が実る超肥沃な楽園へと大進化を遂げた。
それどころか、スローライフの法則そのものが俺の術式によって完全にハッキングされ、封印されていた俺たちの最強の魔力と戦闘データが、以前の数百倍の質量となって体内に猛烈に逆流(還元)してきた。
世界のルールを縛ろうとした公式の絶対法則は、俺のワンポチによる「自動水やり」によって、ただの超効率的なパワーアップイベントへとデグレードさせられた。
「……世界を地道な農村物語に変える絶対法則を、昔の家庭菜園ツール扱いして、一瞬で超巨大城塞と最強の魔力に変換(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の構造すら忘れた絶対的な虚無の目で、ただ一瞬で築かれた黄金の城塞を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、公式が用意した嫌がらせのルールまで、自分を強くするための便利なおもちゃにしちゃうんだね!」
ココアが目を輝かせ、最高に高まった魔力を帯びた生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! 農業をするつもりが、気づけば前より遥かに強い力を手に入れてしまったな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、公式のルール改変バグ(デバッグ)も終わったことだし。……さて、完全に俺のプライベートな城塞になったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、公式の法則すら完全に自分の栄養としたその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




