第42話:終焉の禁忌呪術と、試し書きの白紙ノート
最高位の調停者を砂時計に変えた直後、世界の全天が突如として「純白の虚無」へと染まり始めた。大地から、空から、あらゆる色彩と神話のデータが剥ぎ取られ、文字通りの白紙(無の世界)へと書き換えられていく。
それは、公式の組織が送り込んできた最古の絶対呪術――『世界線差し押さえの禁忌呪:白紙化』であった。
『――調停者の敗北を確認。これより最終制裁に移行。該当のファンタジー世界そのものを「存在しない白紙の頁」へと強制変換する。どれほどの絶対無双の力を持とうと、舞台そのものが消え去れば、汝らも虚無へと還るのみ』
天の彼方から冷徹な法典の意思が響き渡り、俺たちの足元から存在の基盤(世界のデータ)が、凄まじい速度で白い消しゴムをかけられたように消滅し始める。
「主様! これ、これまでの不審者弾きとかそういう次元じゃありません! 私たちが今立っているこの世界、この次元そのものが、公式の手によって『なかったこと(白紙のノート)』にされようとしています! 舞台が消えたら、私たちの存在も一緒に虚無へ溶けちゃいますよぉ!」
ルナが第42話の局面にふさわしい、これ以上ない「世界の白紙化」を孕んだ完璧な解説役としての絶望顔を浮かべて悲鳴を上げる。
「世界そのものの差し押さえ、ねえ……。流石に私たちの魔導術式では、世界を構成するキャンバスそのものの消滅は食い止められないわ」
ステラが鋭い視線で白く染まっていく地平線を見上げ、ゼノンも「くっ、世界が……私の剣も、私たちのハーレムも、根底から白紙へと還されていく……っ!」と床に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、あの白紙化の因果律、この宇宙の外側から全次元の法を注ぎ込んで実行されてる! ボクの解析魔導じゃ、1文字も呪術を打ち消せないよぉ!」
「マスター、警告。世界の完全白紙化まであと3秒。私たちの存在データが順次『記述削除』に指定されています」
ココアとグランド・オーダーの魔導器官も、世界そのものを消し去る禁忌の呪術を前に、最大級の存在消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、世界線凍結特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は世界を飲み込もうとする「純白の虚無」を、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「世界線の差し押さえねえ。おい、公式の組織だか何だか知らねえが。お前らがその、世界を白紙に戻すだの、絶対の禁忌呪術だの言ってドヤ顔で発動させてるその白い空間……」
俺は一歩前へ踏み出すと、広がり続ける白紙化の境界線に向けて、スッと右手をかざして指先でトントン、と軽く叩いた。
「これ、俺が昔、新しい魔導の術式を開発する時に、適当に呪文の試し書きをしては消していた『ただの実験用の白紙ノート(落書き帳)』のシステムそのままじゃねえか。ガワだけ最高峰の禁忌呪術っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺の使い古しのノートの余白だぞ」
『――警告。エラー。該当空間の原初の所有権(持ち主:俺)を確認。……バ、バカな、世界を無に帰す絶対の白紙化空間が、ただの汝の「試し書きノート」の残骸だというのか……!?』
「俺の所有するノートなんだから、どれだけ白紙に戻されようが、俺の一言で『以前の記述を復元』できるに決まってんだろ」
トントン、と空中の見えない魔導文字を2回叩く。
『――原初の記述者の命令を受理。白紙化の呪術を強制上書き。世界全体のデータを、過去最高にサクサクで快適な完全修復状態(最新セーブデータ)へと巻き戻します』
次の瞬間、世界を飲み込もうとしていた純白の虚無は、俺のワンポチによる強制復元によって一瞬でパチパチと弾けて霧散した。
消え去りかけていた青い空、緑の大地、そして魔界平原のすべての色彩が、これまで以上に鮮やかで強固なデータとなって瞬時に再構成された。
世界線をまるごと凍結しようとした公式の禁忌呪術は、俺にとってはただの「昔のノートの頁をめくる」ような手間で、一瞬にしてただの快適な空間へとデグレードさせられた。
「……世界そのものを白紙にする絶対の禁忌呪術を、昔の試し書きノート扱いして画面の向こう側から完全無効化(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の原子すら消滅した絶対的な虚無の目で、ただ元通り以上にピカピカになった世界の景色を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、世界を消そうとする呪いまで自分のノートにしちゃうなんて、本当にこの物語はお兄ちゃんの手のひらの上なんだね!」
快活に笑うココアが、柔らかい生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! 世界が元に戻ったどころか、なんだか前より魔力が満ち溢れてくるな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、公式の差し押さえバグ(デバッグ)も終わったことだし。……さて、完全に俺のノートとしてサクサク動くようになったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、完全に世界の存続すら安全圏となったその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




