第4話:桁外れのチート拠点と、動き出す無能な新勇者
翌朝、エルフレデは目が覚めると同時に、自分の置かれた状況を思い出し、ガバと跳ね起きた。
最高級のシルクのシーツ。広大な部屋。
「……夢じゃ、ない。私は本当に、ディアスに買われたんだ……」
奴隷としての過酷な労働を覚悟し、部屋を出た彼女を待っていたのは、邸宅の庭に広がる「あり得ない光景」だった。
世界に数本しか存在しないはずの、魔力を無限に生み出す『世界樹の苗木』が、庭木として雑に何本も植えられている。
池で泳いでいるのは、国宝級の霊薬が獲れるとされる『幻の古代魚』。
さらに、庭の手入れをしているのは、伝説のSSSランク魔獣『フェンリル』だった。ポチ、と呼ばれて嬉しそうに尾を振っている。
「な、何なのよこの屋敷……! 国家が破産するレベルの財宝が、どうして庭に転がっているのよ……!」
エルフレデの常識は、またしても内側から粉々に破壊された。
かつて自分たちが命がけで戦っていた世界がいかに狭く、そして今のディアスがいかに次元の違う領域にいるのか。読者が最も好む「元強者の価値観崩壊」のステップだ。
俺はテラスで、最高級の魔導コーヒーを飲みながら、怯える彼女を冷たく一瞥した。
「目覚めが遅いぞ、エルフレデ。さっさと俺の朝食の片付けをしろ」
「……っ。言われなくてもやるわよ!」
文句を言いながらも、彼女は甲斐甲斐しく皿を片付け始める。その隷属の紋章は、彼女が俺に逆らえないことを冷酷に示していた。
◇
その頃、帝国の王宮――。
「報告します! オークション会場に赴いた使者の一行が、何者かの魔術によって消滅させられました!」
謁見の間に、衛兵の悲痛な叫びが響き渡る。
玉座にふんぞり返っていたのは、エルフレデをハメて追い落とし、新たな『勇者』の座に就いた男、レナードだった。
「あぁ? 使者が消された? くだらねえ。どうせどこぞの野良魔術師の不意打ちでも喰らったんだろ」
レナードは、鼻で笑いながら、隣に侍らせた美女の肩を抱いた。
「しかし、レナード様! 目撃者の証言によると、犯人はかつて我が国を追放された元・宮廷魔術師のディアスだ、と……。しかも、奴はエルフレデを10億ゴルドで競り落としたようです!」
「ハハハハ! あの無能のディアスだと!? 10億ゴルドぉ? どこでそんな大金を盗んできたんだか。追放された腹いせに、コソコソと裏で泥棒でもやっていたんだろうさ」
絵に描いたような無能の現実逃避。
読者が「早くこいつをボコボコにしてくれ」とスカッとするための、完璧なストレス(ヘイト)の蓄積だ。
「いいか、エルフレデが抜けた今、この国最強の男は俺だ。SSSランクの俺の剣技にかかれば、ディアスのような魔法しか使えない引きこもりなど、一撃で真っ二つよ。おい、今すぐ軍を動かせ。ディアスからエルフレデと10億ゴルドを『回収』してやる」
無能な新勇者は、自分が破滅へ向かって極音速で突き進んでいることすら気づかない。
すべては、俺の描いた復讐のシナリオ通りに。
(第5話へ続く)




