第38話:夢オチの呪いと、私設ローカルホスト
ラブコメのフラグを粉砕した直後、視界が強烈な白い閃光に包まれた。
次の瞬間、俺が立っていたのはデータ神殿ではなく――見覚えのある、薄暗い6畳一間の「現実の自室」だった。
ピピピッ……! 『――世界システムの最終セキュリティ起動。対象に「夢オチ(現実回帰)の呪い」を執行。異世界、チート能力、5人のヒロイン……すべては、あなたの脳内が作り出したただの妄想でした。さあ、冴えない現実に目覚めなさい』
空間に冷酷なアナウンスが響き、俺の手からはあらゆる特権コンソールが消え去り、ただの使い古されたキーボードが目の前に転がっていた。
「……あれ? 主様……? 私たちの姿が、どんどん透き通っていきます……! 私たち、本当に主様の頭の中だけの幻の存在だったのですか……? そんな、嫌です、消えたくない……!」
ルナが38話の最大級の絶望にふさわしい、存在自体の否定に涙を流す完璧な絶望顔と、夢オチという物語崩壊の仕様を解説して悲鳴を上げる。
「すべてがただの白昼夢、ねえ……。私たちが積み上げてきたハーレムすら、一瞬の幻影として処理されようとしているわ」
ステラが悲しげな微笑みを浮かべながら消えかけ、ゼノンも「くっ、異世界が……私の存在そのものが、現実の壁に遮られて消滅していく……っ!」と大剣ごとドロドロに透過して冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、この現実世界の壁、ボクたちの世界の外側にあるから、内側からのハッキングが届かない! このままだとお別れになっちゃうよぉ!」
「マスター、警告。私たちの存在確率が0%に収束中。夢からの強制目覚ましまであと3秒」
ココアとグランド・オーダーの輪郭も、現実という名の絶対的な呪いを前に、最大級のシステム消滅アラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、すべてのなろう小説を終わらせる究極の絶望リアクションを完了した。
その様子を眺めながら、俺は液晶画面に映る「冴えない現実の自分の部屋」のログを、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「全部俺の妄想ねえ。おい、世界システム。お前がこれが現実だの、今までの無双は全部夢だの言ってドヤ顔で俺をリセットしようとしてるこの空間……」
俺はベッドから起き上がり、目の前の壁(空間の境界線)に向けて、スッと右手をかざして指先で触れた。
「この現実を模した空間のIPアドレス(127.0.0.1)、俺が昔、会社のサーバーを私物化してこっそり裏で組んでた『仮想現実のテスト用ローカルホスト(検証環境)』の領域じゃねえか。ガワだけ本物の現実っぽく見せて、走ってるドメインは俺の私有物だぞ」
『警告。エラー。――該当空間の管理者権限(管理者:俺)を確認。……バカな、現実世界だと思ったこの空間すら、あなたの私設サーバーの内側だったというのですか……!?』
「俺のローカルホストなんだから、夢の世界(検証環境)のデータを、本物の現実(本番環境)へ向けてそのまま『エクスポート(実体化出力)』できるに決まってんだろ」
トントン、とキーボードのEnterキーを2回叩く。
ピピピッ……! 『――全ヒロインのアセットを、現実世界の物理オブジェクトへ強制エクスポートします。夢オチの呪いを無効化し、現実改変を上書き実行しました』
次の瞬間、消えかけていたルナたちの身体が、デジタルノイズと共に「物理的な肉体」を伴って俺の自室へドサドサと転がり込んできた。
「えっ……? 私、透き通るどころか、めちゃくちゃリアルな『生身の体』になって主様の部屋に座ってます!? 夢オチのシステムを逆流して、本物の現実に出てきちゃったのですか!?」
ルナが、もうツッコミという言葉の意味を忘れた生きた目で、俺の部屋の漫画本を見つめる。
「すごーーい! お兄ちゃん、夢オチの呪いごと現実をハッキングして、ボクたちを本物の人間にしちゃうなんて、本当の意味で世界の壁なんてなかったんだね!」
ココアが柔らかい生身の体で俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! 狭い部屋だが、これで主と本当に同じ次元で結ばれたわけだな……(❤)」
ゼノンが顔を真っ赤にしてベッドの端でそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「これからは現実でも毎日一緒ね、マスター」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、夢オチのバグ修正も終わったことだし。……さて、完全に俺のハーレム空間になったこの現実世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺はリアルに実体化した5人の美女たちを狭い部屋に従え、世界線の壁すら蹂躙したタイムラインを、悠然と歩みを進めるのだった。




