第37話:強制ラブコメ時空と、粉砕されるフラグ
読者のブラウザを強制固定し、Cookieを書き換えてお気に入り登録をカンストさせた結果、世界システムは「超人気ラブコメ作品」としての最適化を勝手に開始してしまった。
ピピピッ……! 『――警告。読者満足度向上のため、世界観を「深夜アニメ風ラブコメ時空」へ強制変更します。これより、全ヒロインの好感度イベントおよびラッキースケベフラグが超高確率で自動発生します』
「な、何ですかこのピンク色の空間はー!? 私、なぜか頭の上がパニックになっていて、主を見るだけで顔が熱くなって、勝手に『もう、主のバカぁ!』って叫びながら手をバタバタ振っちゃいますぅぅ!」
ルナが37話のバグにふさわしい、完璧なツンデレヒロインの絶望顔を浮かべながら悲鳴を上げる。
「くっ、因果律が書き換えられているわ……! 主公と目が合っただけで、私の服のボタンが物理法則を無視して弾け飛びそう(ラッキースケベ)になっている……!」
ステラが胸元を必死に押さえながら身構え、ゼノンも「な、なぜだ!? 剣を構えようとすると、足元に『何もない平地』があるのにつまずいて、主人公の胸に飛び込んでしまう構え(フラグ)に強制固定される……っ!」と顔を真っ赤にして冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、世界の物理エンジンが『ラブコメ仕様』になってる! 曲がり角の向こうから、食パンをくわえたボクが時速80キロで食い込んでくる未来予測が確定しちゃってるよぉ!」
「マスター、警告。対象のラブコメ時空により、私たちのシリアスな戦闘データが順次『お色気イベント』に書き換えられつつあります」
ココアとグランド・オーダーのシステムも、世界から迫り来る「強制デレ期」を前に、最大級のラブコメアラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、深夜アニメのラブコメ特有の「不条理なハプニング」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を横目に、あちこちで発生しようとしているピンク色のエフェクト(フラグ)を、俺は退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「ラブコメ時空ねえ。おい、世界システム。お前が読者サービスだか何だか知らねえが、良かれと思って勝手に走らせてるその『ラッキースケベの因果関係』……」
次の瞬間、空間が歪み、上空から「足を滑らせたステラが俺の上に覆いかぶさる」という確定演出が物理的に降ってきた。
だが、俺は一歩も動かず、迫り来るそのラブコメの因果に向けて、スッと右手をかざしてデコピンの構えを作った。
「甘酸っぱいイベント発生させてる暇があったら、さっさと次のアセットの読み込み(ローディング)進めろよ。めんどくせえな」
――パシィィィィィィィン……ッ!!!
俺の指先から放たれたデコピン一発(物理衝撃)により、ステラをこちらに誘導していた「ラブコメの因果律」そのものがガラスのように粉々になって空間に飛び散った。
それどころか、世界に展開されていたピンク色のラブコメオーラ、ココアの食パン、ゼノンのつまずき判定まで、すべてが衝撃波で物理的に叩き潰された。
『警告。エラー。――発生予定のラブコメフラグが、物理的な打撃によって全損しました。イベントの発生確率、すべて0%に強制書き換え(ロック)されました』
「……迫り来るラッキースケベやラブコメのフラグ(因果)そのものを、デコピン一発で物理的に粉砕してイベントを強制終了(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の細胞が死滅した目で、ただ木っ端微塵になったピンクのエフェクトの残骸を見つめる。
「すごーーい! お兄ちゃん、ラブコメの神様が用意したラッキースケベすら力づくで叩き潰しちゃうなんて、本当の意味でストイックな無双バグだね!」
ココアが呆れ半分、いつもの安心感を覚えて俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! イベントは壊されたが、これで勝手に体が動く不条理からは解放されたな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちのマスター(主公)ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、過剰なファンサービスのバグチェック(デバッグ)も終わったことだし。……さて、このラブコメ時空を無理やり突破した先には、次はどんなアセットが転がってるかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、完全に色気のない、いつもの乾いた無双タイムラインへと、悠然と歩みを進めるのだった。




