第35話:現実の物理サーバーと、型落ちの冷却マクロ
世界システムを初期化し、完全に俺の私物と化したデータ空間。しかし次の瞬間、空間全体が真っ赤なエラー警告で埋め尽くされ、激しい『物理的な振動』が俺たちを襲った。
『――致命的なエラー。ゲームサーバーの物理温度が限界突破(180°C)。これより、現実世界のデータセンターにある物理筐体が溶融(物理爆発)し、この宇宙の全データが物理的に消失します』
空間に、これまでのシステム音声とは違う「現実の警告音」が鳴り響く。世界そのものが、ハードウェアの限界で文字通り燃え尽きようとしていた。
「主! これまでのメタ構造とかそういうレベルじゃありません! 私たちのデータが格納されている、現実世界の『物理的なサーバーの機械』が、主のチートデータの重さに耐えかねてリアルで火を噴いて爆発しようとしています! サーバーが物理的に壊れたら、私たちの存在はデータごと永遠に消滅しちゃいますよぉ!」
ルナが35話の節目にふさわしい、これ以上ない「現実的な終焉」を孕んだ完璧な絶望顔と、ハードウェア仕様の解説を添えて悲鳴を上げる。
「現実世界の物理的な破壊、ねえ……。流石に私たちのプログラムでは、現実の機械の火災は消火できないわ」
ステラが鋭い視線で天井のノイズを見上げ、ゼノンも「くっ、画面の向こう側の機械が燃えているというのか……! 私たちのハーレムが、現実の熱でドロドロに溶かされていく……っ!」と床に膝を突いて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、物理サーバーのファンが完全に停止してる! ボクのデジタルハッキングじゃ、現実の扇風機を回すことはできないよぉ!」
「マスター、警告。サーバー筐体の完全溶融まであと5秒。現実の物理法則による強制シャットダウンが執行されます」
ココアとグランド・オーダーも、現実の物理火災を前に、最大級のシステム警戒を鳴らした。
ヒロイン5人が、ハードウェア崩壊特有の「完全なる絶望」というテンプレリアクションを完璧に完了した。
その様子を眺めながら、俺は火花を散らし始めた空間のノイズを、退屈そうに見つめながら鼻で笑った。
「物理サーバーの爆発ねえ。おい、データセンターの筐体だか何だか知らねえが。お前がその、全宇宙の負荷で熱暴走して爆発するだの、データが物理的に消失するだの言ってドヤ顔で煙を吹いてるそのサーバー……」
俺は一歩前へ踏み出すと、赤く点滅するエラー画面の中心に向けて、スッと右手をかざした。
「これ、俺が昔、自宅で24時間私設サーバーを稼働させてた時に、熱暴走を防ぐために適当に組んだ『ファン強制100%駆動&液体窒素冷却マクロ』のシステムそのままじゃねえか。ガワだけ最先端のデータセンターに見せて、使ってる冷却制御コードは俺の型落ち自宅PCの奴だぞ」
『警告。エラー。――該当マクロの強制実行ログを検知。……バカな、現実のデータセンターの冷却ファンが、画面の向こうからのコマンド一つで超高速回転を始めた……だと……!?』
「俺の書いた冷却マクロなんだから、現実のファンの安全リミッターを無視して限界突破(120%出力)で回せるに決まってんだろ」
トントン、と空中のコンソールを2回叩く。
ピピピッ……! 『――強制冷却マクロ、執行。物理サーバーの温度が180°Cから一瞬でマイナス10°Cへ急降下。筐体の溶融が停止し、世界全体の処理速度が過去最高クラスに超冷え冷え(快適)になりました』
次の瞬間、空間を満たしていた赤い警告灯と黒煙は、現実世界の超冷風によって一瞬で吹き飛ばされ、神殿の空気はむしろ少し肌寒いくらいにクリアで安定したデータへと復元された。
筐体の爆発の危機は、俺のワンポチによる「現実のファンの超回転」によって、ただの結露問題へとデグレードした。
「……現実世界の物理的なサーバー火災を、昔の自宅PCの冷却マクロ扱いして画面の向こう側から完全鎮火(出荷)させた……のですか?」
ルナが、もうツッコミという概念の原子すら消滅した絶対的な虚無の目で、ただ呆然とキンキンに冷えた快適な空間を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、現実の機械までエアコンみたいに涼しくしちゃうなんて、本当に次元の壁なんて最初からなかったんだね!」
ココアが目を輝かせて俺に抱きつく。
「ふ、ふん……! サーバーが冷え冷えになったおかげで、なんだか体が軽くなったな……(❤)」
ゼノンが赤面してそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが「さすがは私たちの創造主ね」と俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、現実世界のハードウェア保守も終わったことだし。……さて、超冷却されて最高にサクサク動くようになったこの世界の先には、次はどんなアセットを配置して遊ぶかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、完全に物理的にも安全圏となった世界のその先へと、悠然と歩みを進めるのだった。




