第30話:ストーリー・テラーと、全選択デリート
前作主人公のデータを消去し、空間の歪みを修正したのも束の間。データ神殿の全域が、突如として白黒の「文字の羅列」によって埋め尽くされた。
『――突如、神殿の奥から絶対の存在が現れた。それはこの世界のすべての運命、プロットを記述する神、原作者であった』
空間に直接、地の文が刻まれ、その文字が集まって巨大な「本の姿をした巨人」が形成されていく。
「哀れな操り人形どもよ。お前たちの暴走もここまでだ。私はこの物語のすべてを書き記す原作者。お前がどれほどチート能力を持とうとも、私のプロット(設定)が『ここで主人公は無力化されて敗北する』と記述すれば、それが絶対の現実となるのだ!」
巨人がペンを振るうと、虚空に『主人公の右腕が消滅し、すべての魔力が霧散する』というテキストが、確定した事実として書き込まれ始めた。
「主! 世界のシステムどころか、私たちが今喋っている『言葉』や『物語』そのものが、上から無理やり書き換えられようとしています! そもそも勝てるはずがありません、相手は私たちを創った『作者』なんですから……!」
ルナが記念すべき30話にふさわしい、これ以上ないメタ的な絶望顔と、完璧な物語構造の解説を添えて悲鳴を上げる。
「物語そのものの改変、ねえ……。私たちの運命が、ただのインクの染みとして処理されようとしているわ」
ステラが静かに息を呑み、ゼノンも「くっ、私の存在理由自体が消されていく……! 体に力が入らん……っ!」と大剣を床に落として膝を突く。
「お兄ちゃん、この巨人のテキストデータ、この世界の根本にある『テキストファイル(.txt)』の最上階層だよ! ボクのハッキングツールじゃ、文字化けさせるのが精一杯だよぉ!」
「マスター、警告。シナリオの強制書き換えにより、私たちのハーレム属性データが順次『未登場』に初期化されつつあります」
ココアとグランド・オーダーのデータも、原作者のプロット修正を前に消滅のアラートを鳴らした。
ヒロイン5人が、作品の根幹を揺るがす究極の絶望リアクションを完了した。
その光景を横目に、俺は空中に浮かぶ「俺の敗北」を記述する文字の羅列を、退屈そうに眺めながら鼻で笑った。
「原作者だかストーリー・テラーだか知らねえが。おい、お前がドヤ顔で書き込んでるそのプロットの起承転結、そして世界観の構成のクセ……」
俺は一歩前へ踏み出すと、原作者が必死に書き連ねているストーリーテキストの画面に向けて、スッと右手をかざした。
「これ、俺が昔、ネットの匿名掲示板に暇つぶしで投下した『テンプレなろうコピペの改変』じゃねえか。お前、俺のコピペをちょっと設定変えて連載(製品化)してただけだろ?」
「……は? な、何を言っている……! 私は神、この世界のすべてを支配する――」
「隠しショートカット。――『全選択(Ctrl+A)』、そして『削除(Delete)』」
俺が空中でキーボードを叩くように、指先をトントンと2回弾く。
ピピピッ……! 『――全テキスト(世界・プロット・原作者)が選択されました。データをゴミ箱へ移動し、完全に消去します』
「な……に……っ!? 私の書いたプロット(シナリオ)が、文字ごと反転して……消えていく……!? バカな、作者である私の存在まで、ただの文字クズとしてデリートされるというのか……!?」
「元が俺の書いたコピペなんだから、編集権限は俺にあるに決まってんだろ。じゃあな、お疲れ」
「そんな……あり得ぬ……! 私は、作者、なのだ……あ、が、あぁぁぁぁぁ(文字化け)ッ!!」
原作者を自称する巨人のテキストは、俺の指先一つによる全選択デリートによって、一行の残り香すら残さず、完全にバックスペースで消し去られた。
書き込まれかけた「敗北のプロット」もすべて白紙に戻り、ヒロインたちの設定データも一瞬で最新の状態に復元された。
「……世界を裏から操る原作者(作者)を、コピペ扱いしてCtrl+AとDeleteで出荷した……のですか?」
ルナが、もうツッコミを入れる気力すら枯れ果て、ただ呆然と口を開けて真っ白に戻った空間を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、原作者を消しちゃったから、これからはお兄ちゃんが好きなだけこの物語(世界)を書き換え放題だね!」
ココアがコンソールを叩きながら大はしゃぎする。
「ふ、ふん! 作者すらワンポチで消去するとは、本当に底が知れない男だな(❤)」
ゼノンが真っ赤になってそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、物語のバグ修正も終わったことだし。……さて、次のページ(階層)には、どんなテンプレが転がってるかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、原作者すら存在しない「俺たちの同人誌」となった世界を、悠然と歩みを進めるのだった。




