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第29話:異界の剣士と、ログインボーナスのゴミ

世界システムを最新版にアップデートした直後、データ神殿の空間に、突如として禍々しい『黒い亀裂』が走った。


バリィィィィィン……ッ!!!


空間を乱暴に引き裂いて現れたのは、全身を黒の夜戦装束で包み、背中に二振りの大剣を背負った、いかにも「死線を潜り抜けてきました」という風貌の鋭い眼光を持つ青年だった。


「……チッ、ここはどこだ? 100層の浮遊城をソロ攻略したと思ったら、妙な空間に飛ばされたか……」


青年は周囲を見回し、俺たちに気づくと、冷酷な笑みを浮かべながら背中の二振りの大剣を引き抜いた。その双剣からは、一振りで国を滅ぼしかねないほどの圧倒的な超高密度魔力が吹き出している。


「おい、お前たちがこの階層のボスか? 悪いが俺の『夜空を統べる神殺しの双剣スターライト・デュアル』の錆びにしてくれる。俺は立ち塞がる者(神)をすべて斬ってここまで来た男だ――」


「主、あ、あの人から放たれるオーラ、別の世界線で数千万の魔軍を一人で絶滅させたという『伝説の黒衣の剣士』のそれです! 完全に別サーバーの最強主人公ですよ!?」

ルナが本日も、メタ視点を取り入れた完璧な絶望顔と状況解説を披露する。


「別世界線の最強の男、ねえ……。流石に放たれる剣気の鋭さが、この世界の住人とは次元が違うわ」

ステラが珍しく身構え、ゼノンも「あの二刀流……構えに一切の隙がない! 剣士として、本能が恐怖で震えるほどだ……っ!」と大剣を握りしめて冷や汗を流す。


「お兄ちゃん、あの双剣、この宇宙の物理法則を無視した『バグデータ』で錬成されてる! ボクの解析シールドじゃ、一撃で消し飛ばされちゃうよぉ!」

「マスター、警告。対象の所持するオブジェクトは、別サーバーの最高レアリティ(SSS級)兵器です。接触は危険です」


ココアとグランド・オーダーも、別格のチート能力を前に最大の警戒アラートを鳴らした。


ヒロイン5人が完璧なインフレ解説と絶望の様式美を終えた。

だが、俺はその青年がドヤ顔で構える光り輝く双剣を一瞥し、退屈そうに鼻で笑った。


「神殺しの双剣ねえ。おい、前作主人公だか別サーバーの最強だか知らねえが。お前が自慢げに握りしめてるその光るおもちゃ……」


俺は一歩前へ踏み出し、青年の双剣に向けて、スッと右手をかざして指先で触れた。


「それ、俺が昔、自分のサーバー(世界)を立ち上げた記念に、新規ユーザー全員に『ログインボーナス』として配った、初期配布のゴミ武器じゃん」


「……は? 何をバカなことを――」


――『アセット削除(データ抹消)』。


パチン、と指を一つ鳴らす。


パリィィィィィィィン……ッ!!!


青年の手の中で、世界の法則すら切り裂くはずだった究極の双剣が、まるで「水に浸した10円ハゲの豆腐」のようにボロボロと崩れ落ち、一瞬にして錆び付いたただの鉄クズ(グラフィック崩壊)へと変貌した。


「な……に……っ!? 我が魂の片割れ、100層の激戦を共にした最強の神殺しが……ただの、ゴミクズに……!?」


自慢の武器をシステムレベルでアセット削除され、青年は文字通り魂が抜けたような顔になり、その場に崩れ落ちてガタガタと震え出した。


「まあ、初期装備にしてはグラフィックだけ派手にしたからな。愛用してくれてて何よりだ。じゃあ、用がないなら自分のサーバー(実家)に帰りな」


俺が冷たく言い放ち、コンソールをトントンと叩いて強制転送コードを実行すると、前作主人公の青年は「そんな……あり得ぬ……俺の、俺の最強がぁぁぁ!」と叫びながら、光の粒子となって元の世界へと虚しく出荷されていった。


「……別世界の最強主人公を、ログインボーナスのゴミ扱いで一瞬で引退(データ削除)させた……のですか?」

ルナが、もうツッコミを入れる元気もなく、ただ呆然と口を開けて崩れた空間の跡を見つめる。


「すごーーい! お兄ちゃん、別サーバーのデータまで一瞬で書き換えちゃうなんて、やっぱり全宇宙の創造主プログラマーだね!」

ココアが目を輝かせて俺に抱きつく。


「ふ、ふん! 別世界の最強を相手にしても、いつも通りのワンポチか……。本当に恐ろしい男だな(❤)」

ゼノンが真っ赤になってそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。


「よし、異物混入のバグチェックも終わったな。……さて、このデータ神殿のゲートの先には、次はどんなアセットが転がってるかね」


俺は5人の美女たちを背後に従え、さらなるテンプレの深淵へと、悠然と歩みを進めるのだった。

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