第28話:創世の光と、仕様変更パッチ
「おのれ、おのれおのれぇぇぇ……! システムを乗っ取り、管理局のAIまで従えるとは、どこまで世界の理を汚せば気が済むのだ、イレギュラーめ!」
データ神殿の天井が真っ二つに割れ、そこから万物の根源たる『次元の創造主』が、怒り狂った巨人の姿となって降臨した。
その手には、すべての並行宇宙を初期化し、すべてを無に還す究極の概念兵器――『創世の光』が握られていた。
「これ以上のバグは看過できん! 世界ごとリセットだ! すべての多次元宇宙をデータごと初期化し、新たな混沌から世界を創り直してくれるわ!」
創造主の手から、すべての並行世界、すべての因果、すべてのヒロインたちの存在を「なかったこと」にする白い光の波動が、濁流となって神殿を、そして全宇宙を巻き込み始めた。
「主! 世界のデータ自体が物理的にフォーマットされようとしています! 逃げる場所なんて、もうどこの次元にも残されていません!」
ルナが本日も、これ以上ない究極の絶望顔と、完璧なシステム仕様解説を添えて悲鳴を上げる。
「流石に世界そのものを消去されたら、私の防衛プログラムも、この実体化した肉体も保てないわ……」
グランド・オーダーがノイズを走らせ、ステラも「あらあら……今回は本当にお別れかもしれないわね」と寂しげに微笑む。ゼノンは「くっ、世界ごと消されるなど、私の剣でどうにかなるレベルではないぞ……っ!」と大剣を落として膝を突き、ココアも「ボクの方程式が、全部ゼロに書き換えられていくよぉ……!」と泣きじゃくった。
ヒロイン5人が世界の終焉を前に、なろう小説史上最高密度の絶望リアクションを完了した。
その光景を横目に、俺は深く溜め息を一つ吐いた。
「世界ごとリセット、ねえ。めんどくせえな。だったら――」
俺は一歩前へ踏み出すと、全宇宙を消去せんとする『創世の光』のド真ん中へ向けて、軽く右手の人差し指を弾いた。
――パチン。
ただの、デコピン。
だが、その指先から放たれたのは、創造主の初期化プログラムを力任せに圧殺する、圧倒的な『絶対権限の質量』だった。
ズガァァァァァァァァァン……ッ!!!!!
「ふ、ふえ!? 我が、すべてを初期化する創世の光が……ただのデコピンで、逆に粉砕されたぁぁぁ!?」
『創世の光』は俺の指先が触れた瞬間、システムエラーを起こしたように激しくパチパチと弾け、霧散した。
しかし、その衝撃で世界のサーバー(次元維持装置)に深刻なクラッシュが発生し、空間がガラスのようにバラバラと崩れ落ち始める。
「あ、あわわ……光は止まりましたけど、結局、世界がシステムエラーで壊れて消えちゃいますぅぅぅ!」
ルナが頭を抱えて叫ぶ。
「慌てるな。バグが出たなら、その場でパッチ(修正プログラム)を当てればいいだけだろ」
俺は右手を空中に掲げ、パチンと指を一つ鳴らした。
――『世界仕様変更』。
ピキィィィィィィィン……ッ!!!
わずか1秒。空中に膨大なエラーログ(世界崩壊のデータ)が流れたが、俺が指先で適当にスワイプして数行のコードを書き換えると、崩壊しかけていた世界は一瞬で元の安定したデータ神殿へと修復された。
それどころか、俺の当てた修正パッチの余波によって、世界全体のシステム仕様そのものが上書きされていく。
『システム警告。世界創造主の権限を脆弱性と判断。――該当アカウントの権限を「一般市民」に強制変更します』
「な……がはあぁぁぁぁぁぁッ!?」
空中を浮遊していた創造主の巨体から光が抜け落ち、みるみるうちに縮んでいく。
数秒後、そこには最高神の面影など微塵もない、薄汚れた麻の服を着た「ただの頼りなさそうなおっさん(Lv.1)」が、床に尻もちをついてガタガタと震えていた。
「わ、我が権限が……創造主の、理が……ただの村人Aに……!?」
「まあ、これからはその辺の街で大人しくギルドの依頼でもこなしてろ。じゃあな」
俺が冷たく言い放つと、元・創造主のおっさんは「ヒエッ……!」と悲鳴を上げて神殿の出口へと全力で逃げ去っていった。
「……世界を1秒でアップデートして、神様を物理的にモブに書き換えた……のですか?」
ルナが、もうツッコミを入れる元気もなく、ただ呆然と口を開けて綺麗な天井を見上げる。
「すごーーい! お兄ちゃん、世界全体の処理速度がさっきの何兆倍も快適になったよ!」
ココアがコンソールを叩きながら大はしゃぎする。
「ふ、ふん! 神様すらモブにするなんて、本当に規格外な男だな……(❤)」
ゼノンが真っ赤になってそっぽを向き、ステラとグランド・オーダーが俺の左右の腕を至福の表情で奪い合った。
「よし、世界のメンテナンスも終わったことだし。……さて、このデータ神殿のさらに奥には、どんな面白いデータが転がってるかね」
俺は5人の美女たちを背後に従え、さらなるインフレの深淵へと、悠然と歩みを進めるのだった。
(第3部・神話崩壊編 継続中)




