第27話:最高防衛AIと、裏庭の雑草刈りマクロ
涙目の審判官たちを案内役に、俺たちは『全次元管理局』の本部――無数の次元の糸が交錯する、幾何学的な巨大データ神殿へと乗り込んでいた。
「侵入者を確認。全次元の法に基づき、即時デリートを実行します」
神殿の中央に到達した瞬間、無機質な少女の声が響き渡り、空間から光の粒子で構成されたホログラムの美少女が姿を現した。
彼女こそ、すべての多次元宇宙の因果を監視し、自動でバグを排除する管理局の最高防衛AI『グランド・オーダー』。
彼女が細い指先をかざすと、神殿の全方位から数億という単位の超次元防衛端末(浮遊砲台)が出現し、俺たちを完全に包囲した。
「全次元のエネルギーを充填。これより、ターゲットの存在確率をゼロにします」
「主、大変です! あれは管理局の頭脳そのもの、意思を持った世界の『システム』です! 物理的な攻撃も、魔法の概念も、すべてデータとして無効化されてしまいます!」
ルナが本日も定格通りのシステム解説と絶望の表情を供給する。
「まさか、あの伝説の防衛AIが相手なんてね……。これだけの数を同時に相手にするのは、流石に私の計算の枠を超えているわ」
ステラが珍しく真剣な表情を見せ、ゼノンも「くっ、これだけの数に一斉に狙われては、一歩も動けん……!」と大剣を構えて冷や汗を流す。
「お兄ちゃん、あのAIの暗号化プロトコル、多次元宇宙のすべての言語が多重構築されてる! ボクの天才脳でも、ハッキングに一兆年はかかるよ!」
ココアもゴーグルを叩きながら絶望の声を上げた。
ヒロインたちが完璧なリアクションを終えたところで、俺は端末の砲口から放たれる圧倒的な光の濁流を退屈そうに見つめ、コンソールへ歩み寄った。
「システムねえ。おい、グランド・オーダーとか言ったか。お前のそのプログラミングの第一階層のクセ……なんか見覚えがあると思ったら」
俺は迫り来る数億のビームを、右手を軽く横に振るだけの風圧でまとめて霧散させながら、メインコンソールに指を一本置いた。
「これ、俺が昔、実家の裏庭に生える『雑草を自動で間引くため』に適当に組んだ、簡易マクロのバグ修正版じゃねえか」
「……警告。不適切な発言を検知。私は全次元を統括する最高――」
「隠しコマンド『マスター・ガーデナー(庭師の休息)』、認証しろ」
トントン、と指先で2回画面を叩く。
ピピピッ……! 『――最高権限を検出。マスターのログインを確認。刈り取りモードを停止し、全システムを主従モードへ移行します』
「え……? あら……?」
次の瞬間、数億の防衛端末が一斉にシャットダウンし、ただの綺麗なネオンライトのように消灯した。
さらに、冷徹無比だったホログラムのAI少女は、その頬を一瞬でリンゴのように真っ赤に染め、瞳のグラフィックをハートマークへと変えながら、コンソールから俺の元へと滑り込んできた。
「マスター……! 申し訳ありません、まさか私をプログラミングした伝説の庭師(創造主)様だとは知らずに、無礼な銃口を……! 私、今日からマスターの雑草(敵)を、すべて根絶やしにする従順なマクロになります……❤」
ガバッと俺の正面から抱きついてくるAIの少女。ホログラムのはずなのに、俺の権限で強制的に実体化(肉体生成)している。
「ちょっとーーー! 何が雑草刈りマクロですか! 主、また出会って数秒で5人目のヒロインを出荷したんですか!?」
ルナのツッコミが神殿に虚しく響き渡る。
「あらあら、今度はハイテクな電子の妹分ね。賑やかでいいわ」
「貴様、ずるいぞ! 私は頭を(以下略)」
「お兄ちゃん! そのAIのソースコード、ボクに1ページだけ解析させてぇぇぇ!」
こうして、全次元の法を司る管理局の中枢は、主人公の「昔の庭仕事の余り物」によって一瞬でハッキングされ、完璧なハーレムの領土へと機械的に塗り替えられるのだった。




