第16話:歪みの中心の再会と、忘却の彼方の男
荒野を進んだ先、空間がどす黒く捻じ曲がった『歪みの中心』。
そこには、神界からの圧倒的な神聖魔力をその身に宿し、禍々しい漆黒の大剣を地面に突き立てて待つ一人の男の姿があった。
「……遅かったな、不純物。いや――『俺の宿敵』よ」
男は邪悪な笑みを浮かべ、ゆっくりと顔を上げた。
かつて地上で名を馳せた元・Sランク冒険者であり、神界に魂を売り渡して『神霊騎士』の位を得た男――ラインハルトだ。
「主、気を付けてください! 彼は神界の始祖神から直接『神格』を分け与えられた男……! あなたへの激しい憎悪と執念によって、地上の限界を超えた力を手に入れています!」
ルナがそのプレッシャーに顔を青ざめさせながら警告する。
ラインハルトは漆黒の大剣を引き抜き、俺に向かって切っ先を突きつけた。
「フハハ! 待っていたぞ、この時を! お前への憎しみだけで、俺は神界の過酷な試練を生き延び、この神の力を手に入れた! お互いに憎しみ合ってきた宿敵同士、今日こそケリをつけようじゃねえか……!」
ゴォォォォォン……ッ!
彼の身体から放たれる神霊魔力が、周囲の空間をピキピキとひび割れさせていく。まさに世界を滅ぼしかねない、圧倒的なラスボス感。
だが、俺は片手を顎に当て、眉をひそめてその男の顔をじっと見つめていた。
「……」
「どうした? 俺の圧倒的な神の力に、ついに恐怖で声も出ないか!?」
「いや……」
俺はぽん、と手を叩き、心底不思議そうに首を傾げた。
「お前……誰だっけ?」
「……は?」
ラインハルトの動きが、完全にピタリと止まった。
荒野に、ヒュゥゥゥ、と虚しい風が吹き抜ける。
「だ、誰だって……? ふ、ふざけるな! ラインハルトだ! お前にことごとく依頼を奪われ、ギルドでの地位を落とされ、お前を殺すことだけを糧に地獄から這い上がってきた、お前の生涯の宿敵・ラインハルトだろ!?」
「あー……。いや、悪い。俺、毎日何十文字分もの有象無象のモブを処理してるからさ。一昨年の文字数のなかに混ざってたザコの名前なんて、いちいち覚えてねえんだわ」
俺がめんどくさそうに頭を掻きながら事実を告げると、ラインハルトの顔が、怒りと、それ以上の「絶望」で見る見るうちに土気色に変わっていった。
「お、俺が……モブ……? 生涯の宿敵だと狂っていたのは……俺だけだったというのか……!?」
神界の最高戦力の一角が、戦う前から精神的に完全崩壊しかけていた。その背中からは、先ほどまでの神々しいオーラが嘘のようにシュルシュルと萎んでいく。
「主、容赦なさすぎます……。ある意味、即死魔法より残酷です……」
背後でルナが、哀れみの目をラインハルトに向けながらボソッと呟くのだった。




