第15話:数百の神罰と、お気楽なワンポチ即死
街の外へと続く荒野。
俺とルナが歩を進めていると、突然、頭上の青空がバキバキと音を立ててひび割れた。
「主、来ます……! この禍々しいまでの神聖魔力の密度は……!」
ルナが警戒して俺の背後に隠れる。
割れた空間の裂け目から溢れ出してきたのは――黄金の鎧と純白の翼を纏い、手に神槍を握った兵士たちの圧倒的な大群だった。その数、およそ五百。
「見つけたぞ、不純物め! 我らは始祖神直属の精鋭『天界近衛兵団』! 始祖神の命により、この領域ごと貴様を消滅させ、その魔力を回収する!」
先頭に立つ隊長らしき男が、傲慢に声を響かせる。五百の神兵が放つプレッシャーだけで、周囲の地面が自重に耐えかねて地割れを起こしていく。
「な、なんてこと……。執行官の失敗を受けて、まさか兵団を丸ごと一つ動かしてくるなんて……! 主、ここは一度退いて体制を――」
「退く? なんで俺が、わざわざあんなザコどものために歩く方向を変えなきゃならねえんだよ」
俺は首を傾げ、ふぁ、と大きな欠伸を噛み殺した。
「不純物風情が、強がりを! 全軍、突撃! 始祖神の敵に神罰を!」
隊長の号令とともに、五百の神兵が一斉に翼を羽ばたかせ、光の流星群となって俺たちへ向かって突進してくる。荒野のすべてを飲み込むような、絶望的な光景。
だが、俺はただ右手をポケットから出し、空中に浮かぶ不可視の魔力インターフェースを、人差し指でトントン、と叩いただけだった。
――『自動迎撃システム起動:神聖属性特効・因果崩壊』。
「……消えろ」
俺が呟いた、その刹那。
ドォォォォォォォン……ッ!!
爆音すら、空間の崩壊によって途中でかき消された。
突撃してきていた五百の神兵たちの足元――いや、彼らが飛行していた空間そのものに、漆黒の魔法陣が瞬時に展開。そこから放たれたドス黒い重力の奔流が、神兵たちを文字通り「一瞬」で飲み込んだ。
「ぎゃあああああ!? な、なんだこの魔力は――」
「神の身体が、消滅して、い――」
悲鳴すら最後まで上がらない。
光の流星群だったはずの五百の軍勢は、俺の指先一つの操作によって、空間のチリごと綺麗さっぱり消滅した。後に残ったのは、何事もなかったかのように広がる、静かで突き抜けた青空だけだ。
「よし、片付いたな。じゃあ、空間の歪みの中心へ急ぐか」
俺は再び手をポケットに突っ込み、何事もなかったかのように歩き出す。
「あ……、あ……、五百の近衛兵団が、指先一つで……全滅……?」
後ろを振り返ると、ルナはまたしても口を半開きにしたまま、魂が抜けたような顔で立ち尽くしていた。もはや畏怖を通り越して、自分の知っている『世界の前提(神界の常識)』が音を立てて崩壊していくのを、ただ呆然と見届けることしかできないようだった。
「おい、置いてくぞ、ルナ」
「は、はいぃぃっ! お、お待ちください、我が主!!」
ルナは慌てて俺のあとを追いかけ、その細い両手で俺の服の裾を、今度は畏敬の念を100%込めてギュッと握りしめるのだった。




