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第13話:神界の料理と、至高の異世界トースト

「……と、いうのが、私の知る限りの神界の防衛網と、始祖神の権能です。これに対抗するには、まずは……」


執行官が消滅した後の静かな部屋で、ルナは真剣な表情で神界の脅威を語っていた。

だが、その緊迫した空気をぶち破るように――。


グゥゥゥゥゥ……。


静かな室内に、なんとも情けない音が鳴り響いた。

ルナの顔が、一瞬で耳の根元まで真っ赤に染まる。彼女は慌てて自分の下腹部を両手で押さえ、俯いた。


「あ、あの、これは……! 神界を追放されてから、何も口にしていなくて……その、不可抗力です……!」

「神様も腹が減るんだな。神界じゃ何を食ってたんだ?」

「神界では……清らかな霊気と、最高級の黄金リンゴを少々……。ですが、地上に落ちてからは魔力が枯渇して……」


消え入りそうな声で弁明する元・女神を見て、俺はフッとため息をついた。


「待ってろ。戦うにしても、腹が減っては作戦も立てられねえだろ」


俺はアイテムボックスから、即座にいくつかの食材と調理器具を取り出した。

ただの宿屋の部屋だが、俺の魔力制御にかかれば、煙も匂いも一切外に漏らさずに最高級の調理ができる。


今回用意したのは、俺が独自に品種改良した『白金小麦』の特製パン。そこに、A5ランク以上の魔獣『ゴールデンバイソン』の極上バターを厚めに乗せ、火属性の微細魔法で完璧な黄金色になるまでトーストする。仕上げに、幻のミツバチが数年に一度だけ集める『世界樹の蜂蜜』をこれでもかと回し掛けた。


「ほら、食え」


皿に乗せて差し出すと、ルナはごくりと唾を飲み込んだ。


「こ、これは……? 地上の食べ物は不純物が多く、神の身体には毒になるはずですが……。……あむっ」


誘惑に勝てず、ルナは小さな口でトーストを一口、かじった。

その瞬間、彼女の琥珀色の瞳がこぼれ落ちそうなくらいに大きく見開かれた。


「な、なんですか、これは……っ!? サクッとした歯ごたえの後に、濃厚でクリーミーな甘みと、爆発的な旨味が口の中に広がって……! それに、この不純物の全くない、圧倒的に純粋な魔力の塊は……っ!?」


ルナは、先ほどまでの元・女神としてのプライドも忘れ、狂ったようにトーストを頬張り始めた。


「美味しい……! 美味しすぎます……! 神界の黄金リンゴなんて、これに比べたらただの硬い果物です……! はふっ、んむ……っ!」

「落ち着いて食え。おかわりはあるからな」


口の周りに蜂蜜をつけたまま、幸せそうに頬を緩めるルナ。神界を揺るがす重大な秘密を握っているはずの少女は、完全にただの『食いしん坊なチョロイン』と化していた。


「……決まりました」


最後の一口を名残惜しそうに飲み込み、指についた蜂蜜までペロリと舐めると、ルナは潤んだ瞳で俺を真っ直ぐに見つめてきた。


「私は、あなたにすべてを捧げます。始祖神なんてどうでもよくなりました。私は、この素晴らしい料理を作るあなたを、私の新しい『あるじ』として認めます……!」


「いや、飯だけでそこまで忠誠誓うなよ」


俺は呆れつつも、完全に胃袋を掴まれた新ヒロインの頭を、ポンポンと軽く叩くのだった。

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