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第12話:守護の結界と、神界からの不法侵入者

「う、ん……。ここは……?」


宿屋の俺の自室。ベッドに寝かせていた元・女神のルナが、かすかに長い睫毛を揺らし、琥珀色の瞳を開いた。

見慣れぬ天井と、すぐ傍らの椅子に腰掛けて静かに魔力の本をめくっている俺の姿を認めると、彼女は弾かれたように身を起こした。


「私、確か神界から墜落して……。あ、あなたが、私を受け止めてくれたのね」

「目が覚めたか。一応、最低限の回復魔法はかけておいた。……で、神界が俺の力を『回収』しにくるってのは、どういうことだ?」


俺が本を閉じると、ルナは怯えたように視線を落とし、小刻みに震えながら語り始めた。


「神界の絶対指導者である『始祖神』が、地上の人間の中に、神のシステムを超える異分子――つまり、あなたが存在することに恐怖したのです。だから、地上ごとあなたを消滅させ、その莫大な魔力を神界のエネルギーとして強制徴収する計画が始まっています。すでに、私の行方を追って、容赦のない追手が――」


「なるほどな。だが、安心しろ」


俺はフッと鼻で笑い、ルナの言葉を遮った。


「ここには、俺が最高密度の『隠蔽と防御の多重結界』を張ってある。神界の最高神だろうが、俺の許可なくこの部屋を覗くことすらできねえよ」

「そ、そんなはずは……! 神界の探知魔術は、地上のどんな結界も透過する最高位の――」


その時だった。


パキィィィィィン――!!


部屋の空間が、ガラスが割れるような音を立てて歪んだ。

ルナの言う通り、神界の追手が空間を転移し、俺の部屋へ直接「不法侵入」してきたのだ。


現れたのは、黄金の鎧に身を包み、背中に白い翼を生やした二人の男。神界の戦闘兵器――『下級神・執行官』。


「見つけたぞ、反逆者の元・女神ルナ。そして、地上の不純物め」

「ひっ……! もう見つかるなんて……! 逃げて、彼らの神聖魔術は、地上の『チート』なんて次元じゃ――」


ルナが絶望に顔を青ざめさせた、その瞬間。


「……おい」


俺は椅子から立ち上がりすらせず、ただ冷徹な声を部屋に響かせた。


「誰の許可を得て、俺の部屋の結界を破り、土足で踏み込んできてんだ?」

「フン、地上の羽虫が吠えるな。神の裁きを受け――」


執行官が黄金の聖剣を抜こうとした瞬間、俺はパチン、と指を一つ鳴らした。


――『因果反転・即死のデス・ケージ』。


「が、はっ……!? あ、熱い、身体が、内側から……!?」

「バ、カな、神の加護が、すべてかき消されて――!?」


二人の執行官は、武器を構える暇すらなく、その場でガクガクと膝を突いた。彼らの身を包んでいた神聖なオーラは瞬時にドス黒い魔力へと反転し、自らの肉体を内側から焼き尽くしていく。


「神だか何だか知らねえが、挨拶もなしに他人の部屋に入るな。みっともねえ」


俺が冷たく言い放つと同時に、二人の神界の追手は、光の粒子すら残さず、ただの塵となって消滅した。


部屋には、何事もなかったかのような静寂が戻る。


「あ……、あ……」


ベッドの上で、ルナは完全に硬直していた。

神界の精鋭である執行官を、指先一つ、しかも座ったままで一瞬で消滅させた男。その常識を遥かに超越した光景に、彼女は畏怖と、そして言葉にできないほどの衝撃に目を見開いている。


「さて、ルナ。邪魔者も消えたことだし……。神界を騙し抜く作戦とやらを、詳しく聞かせてもらおうか」


俺は怯える新ヒロインに向かって、底知れない笑みを向けた。

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