第11話:神界からの墜落、そして世界を揺るがす少女の予言
神界への門がかすかに開き、圧倒的な神威が地上を圧したのも束の間。
引き裂かれた空間は、奇妙な『歪み』を残したまま静かに閉じた。
「……ふん、思わせぶりなプレッシャーをかけておいて、お預けか」
俺は手の中でパチパチと爆ぜる魔力の残滓を消し去り、天を仰いだ。
あの門の向こうには、まだ見ぬ未知の領域――『神界』がある。俺の規格外の力を測り損ねた神どもが、今頃向こうで慌てふためいているかと思うと、可笑しくて仕方がなかった。
だが、異変はその直後に起きた。
キィィィィィン――!
鼓膜を刺すような、高周波の空間鳴動。
先ほど閉じたはずの神界の門の座標から、一筋の『光の質量』が、猛烈な勢いで地上へと自由落下してきたのだ。
隕石か? いや、違う。
その光は、驚くべきことに俺のいる真っ直ぐ目の前、宿屋の裏庭へと正確に落ちてくる。
ドゴォォォォン!!
激しい轟音と共に土煙が舞い上がり、クレーターが出来上がる。
俺は片手をかざして風圧を凌ぎながら、冷ややかな視線をその中心へと向けた。
「おいおい、早速刺客のお出まし、ってワケじゃなさそうだな……?」
土煙がゆっくりと晴れていく。
そこに横たわっていたのは――透き通るような白銀の髪を乱し、身に纏った豪奢な聖衣をボロボロに濡らした、息を呑むほどに美しい一人の少女だった。
その背中には、神界の住人であることを証明する、淡く光る光背が浮いている。
「う……、あ……」
少女は苦しげに喘ぎながら、細い腕で泥だらけの地面を押し、上体を起こした。
そして、目の前に立つ俺の姿をその琥珀色の瞳に映した瞬間、彼女の顔に驚愕と、それ以上の『狂喜』が走る。
「見つ、けた……。あなたが……あなたが、因果の枠から外れた『特異点』……!」
少女はフラフラと立ち上がろうとするが、足に力が入らないのか、そのまま俺の胸へと倒れ込んできた。
反射的にその華奢な身体を受け止める。驚くほど軽く、そして神聖な香りが鼻腔をくすぐった。
「おい、いきなり空から降ってきて何の話だ。お前、神界の回し者か?」
俺の問いかけに、少女は俺の服の胸元を、すがるようにギュッと握りしめながら、必死に声を絞り出した。
「私は、運命の女神の座を追われた、元・一級神のルナ……。神界は今、狂気に満ちています……! 彼らは、地上の生態系をすべてリセットし、あなたの力を『回収』しようとしている……!」
ルナと名乗った少女は、俺の顔を真っ直ぐに見つめ、予言のように告げた。
「あなたを探していたの。……お願い、私と一緒に神々を、世界を、騙し抜いて――」
そこまで言うと、ルナは限界を迎えたように意識を失い、俺の腕の中で完全に脱力した。
静寂が戻る。
腕の中には、神界の最高機密を握っているらしき、行き倒れの美少女。
天を見上げれば、気のせいでなければ、雲の隙間からこちらを監視するような無数の『神の目』が光った気がした。
「ハッ……。神々を騙し抜く、か。面白えじゃねえか」
俺はルナを横抱きに抱え直し、不敵な笑みを浮かべた。
世界のルール(運命)なんて、最初から俺の敵じゃない。




