第十二話 黎明の風と新たなる使命
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
第十二話 黎明の風と新たなる使命
婚礼から一年。
ギルフォード領は、もはや北方の僻地ではなく、大陸全土が注目する魔導産業の聖地となっていた。
全属性魔法による恒久的な気候操作、そして私が前世の知識を元に設計した魔導列車が、かつては閉ざされていた雪山の間を縫うように走り始めている。領民たちは豊かになり、街には活気があふれていた。
しかし、私の「効率主義」は止まらない。
今日も執務室で山積みの書類を捌いていると、アルベールが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「リリアーヌ! 大変だ、王都から親書が届いた。それも……現国王陛下からの直筆だ」
私はペンを置き、眉をひそめた。
隠居した父様に代わり、今はアルベールが王都との連絡窓口を担っている。その彼がこれほど狼狽えるとは。
「陛下から? ヴァルデール家との縁はすでに切れているはずですが」
「それが……隣国の軍事挑発だ。どうやら我が領の魔導技術を恐れた隣国が、国境付近に未知の古代兵器を持ち出したらしい。陛下は、全属性の賢者である君の力を借りたいと仰っている」
アルベールの言葉を聞き、私はふっと溜息をついた。
平和な隠居生活。それが私の理想だったはずだが、どうやら私の力は、もはや一領地の枠に収まるものではなくなっているらしい。
「……行くのか?」
夜、寝室でカイルが私の髪を撫でながら静かに問いかけた。彼の瞳には、戦場に私を送り出したくないという葛藤と、私の意志を尊重したいという信頼が混ざり合っている。
「断ることもできます。ですが、このまま放っておけば、私たちの創り上げたこの平穏も戦火に飲まれるでしょう。効率的に終わらせるには、私が行くのが一番早いわ」
「お前らしい答えだ。……だが、一人で行かせるつもりはない。ギルフォードの黒騎士団を動員し、俺も共に行く」
「ふふ、心強いですわ。カイル様」
私は彼の胸に寄り添いながら、頭の中で術式を組み立て始めた。
古代兵器。未知の魔力。前世の物理法則と、今世の六属性魔法を組み合わせれば、解けない数式はない。
一週間後、私たちは国境付近の最前線にいた。
目の前には、巨大な浮遊要塞のような古代兵器が鎮座し、禍々しい魔力を放っている。王国の軍勢は、その圧倒的な威容を前に足止めを食らっていた。
「リリアーヌ様、あれをどう攻略するおつもりで?」
副官として同行したアルベールが、緊張した面持ちで尋ねる。
私は馬上で不敵に微笑み、右手を高く掲げた。
「攻略なんて、そんな面倒なことはいたしません。……属性分解」
私は全属性の魔力を、完全な「無」の色である透明な波動へと変換した。
古代兵器がどれほど複雑な属性防御を張っていようと、それを構成する魔力そのものを「原子レベル」で初期化してしまえば、ただの巨大な鉄屑に過ぎない。
私の手から放たれた透明な光が、戦場を真っ白に染め上げた。
爆音も、衝撃もない。
ただ、空を覆っていた巨大な要塞が、まるで雪解けのように、静かに、そして美しく霧散していく。
「……嘘だろ」
王都の騎士たち、そして隣国の軍勢からも、驚愕を通り越した絶望と畏敬の呻きが漏れた。
これが、一人の女性が持つ力。
一国を滅ぼし、あるいは救うことのできる、神にも等しい全属性の極致。
私は何事もなかったかのように手を下ろし、カイルを振り返った。
「カイル様、これで終戦ですね。帰って領地の収穫祭の準備をしましょうか」
カイルは呆れたように笑い、私の隣に馬を寄せた。
「お前は本当に……。英雄になど興味はないと言わんばかりだな」
「英雄なんて、残業が多いだけの役職は御免ですわ」
私は澄み渡った空を見上げた。
六歳の時、馬から落ちて始まったこの人生。
泥にまみれ、妹の毒に晒され、家族に裏切られた日々。
そのすべてが、今の私を形作る糧となった。
黎明の風が、私の髪を揺らす。
私はカイルと共に、勝利の歓喜に沸く戦場を背に、愛する北の地へと馬を走らせた。
社畜だった前世の私も、今世の侯爵令嬢だった私も。
今はもう、どこにもいない。
ここにいるのは、ただ愛する人と共に、自由な空を飛ぶ一人の「賢者」だ。
私たちの物語は、これからも続いていく。
この広い世界のすべてを、魔法という名の筆で塗り替えながら。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
感想もいつも励みになっております。
少しでも楽しんでいただけたなら、
評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




