表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥の中に咲く蓮華 ~無能を演じる全属性令嬢、学園で静かに牙を剥く~  作者: たま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第十三話 叡智の継承と、新たなる命

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第十三話 叡智の継承と、新たなる命

国境での一戦は、戦わずして世界を屈服させた。

隣国は即座に無条件降伏を申し入れ、王国はリリアーヌを「救国の聖女」として王都に迎えようとしたが、彼女はそのすべてを「事務手続きが煩雑になるから」という理由で一蹴し、早々に北方の地へと帰還した。

それからさらに数年の月日が流れた。

ギルフォード領の発展はとどまることを知らず、今や大陸で最も進んだ「魔導都市」としての地位を確立していた。

そんなある春の日、城の庭園には柔らかな陽光が降り注いでいた。

そこには、小さな二人の影があった。

「お兄様、見て! この石、火属性と風属性を混ぜたら、もっと高く飛ぶと思うの」

「ルナ、危ないよ。母様に教わった通り、術式の幾何学模様をしっかり固定させないと、魔力が暴走するって言われただろう?」

銀色の髪を持つ兄のリュカと、カイルと同じ鋭い黒檀の瞳を持つ妹のルナ。

二人はリリアーヌとカイルの間に生まれた、ギルフォードの未来を担う子供たちだった。

「ふふ、二人とも、そこまでよ」

テラスから声をかけたリリアーヌの姿は、以前よりもどこか柔らかく、慈愛に満ちた空気を纏っていた。

彼女の手元には、最新の魔導論文ではなく、子供たちのために自作した魔法の絵本が握られている。

「母様!」

子供たちが駆け寄ってくる。リリアーヌは二人を抱きしめ、その魔力量をそれとなく確認した。

リュカは水と風、そして微かな光の適性。ルナは火と土、そして闇の適性。

二人合わせれば、母であるリリアーヌが持つ全属性の理を補完し合えるようになっている。

「母様、どうして母様は一人で全部の魔法が使えるの? アルベール叔父様も、ミレーヌ叔母様も、二つまでなのに」

リュカの純粋な疑問に、リリアーヌは遠い空を見上げた。

かつて馬から落ちて、過酷な前世を思い出したあの日。

孤独の中で魔力を練り、誰にも知られず「万能」を求めたあの日々。

「それはね、リュカ。お母様は、大切なものを守るために、どうしても全部の力が必要だったからよ」

「大切なもの?」

「ええ。この領地も、アルベール叔父様やミレーヌ叔母様も。……そして、あなたたちのパパもね」

背後から、重厚な足音が近づいてきた。

公務を終えたカイルが、満足げな表情で家族の輪に加わる。彼はリリアーヌの肩を抱き寄せ、子供たちの頭を優しく撫でた。

「パパ! 母様がね、パパを守るために魔法を全部覚えたんだって!」

「ほう、それは初耳だな。……だが、実際は俺が彼女の知略に守られっぱなしだ」

カイルは可笑しそうに笑い、リリアーヌと視線を合わせた。

二人の間には、もはや言葉を必要としない深い信頼が通い合っている。


その日の夕暮れ。

リリアーヌは一人、城の最上階にある研究室にいた。

窓の外には、魔導列車が走り、魔導灯が街を彩る、彼女が創り上げた「理想郷」が広がっている。

ふと、机の引き出しから一通の古びた手紙を取り出した。

それは、かつて王都で絶縁した両親から、数年前に届いたものだ。

そこには、没落した生活の中での後悔と、リリアーヌへの謝罪、そして最後に「自慢の娘だった」という一言が添えられていた。

リリアーヌはその手紙を、憎しみも悲しみもなく、ただの「記録」として見つめた後、そっと指先で魔力を通した。

手紙は小さな光の粒となって、春の風に溶けて消えていった。

(社畜だった私が、こんなに賑やかな家族に囲まれるなんてね)

彼女は独りごちて、小さく微笑んだ。

かつては「目立たないこと」だけが生きがいだった。

けれど今は、自分の力が誰かの光になり、次世代へと受け継がれていくことに、何物にも代えがたい喜びを感じている。

「お母様、早く来て! お夕飯の時間だよ!」

階下から呼ぶ子供たちの声。

リリアーヌは研究室の灯りを消し、軽やかな足取りで部屋を出た。

全属性の賢者。

救国の聖女。

冷酷な領主の妻。

数多の二つ名を持つ彼女だが、今、この瞬間の彼女にとって最も大切な肩書きは、ただの「リリアーヌ」という一人の女性であった。

馬から落ちて始まった、奇妙で鮮やかな第二の人生。

その道は、これからも子供たちの笑い声と共に、果てしなく続いていく。

氷の地に咲いた蓮の花は、今や大地全体を包み込む大樹となり、いつまでもその地を、優しく守り続けるのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

感想もいつも励みになっております。

少しでも楽しんでいただけたなら、

評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ