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泥の中に咲く蓮華 ~無能を演じる全属性令嬢、学園で静かに牙を剥く~  作者: たま


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第十一話 氷華の婚礼

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第十一話 氷華の婚礼

ギルフォード領に、これまでの歴史で最も輝かしい一日が訪れた。

空は一点の曇りもないクリスタルブルー。私の全属性魔法によって領都全体の気温は最適に保たれ、街路には氷を彫刻して作った光り輝く花々が咲き乱れている。今日は、私とカイルの結婚式だ。

「お姉様、本当にお綺麗です……」

控え室で私のドレスを整えてくれたのは、修道院から特別に外出を許可されたミレーヌだった。

かつての派手な装飾を脱ぎ捨て、質素な灰色の法衣を纏った彼女の瞳には、もう人を支配しようとする邪悪な光はない。ただ、一人の妹として、姉の幸せを願う純粋な涙が溜まっていた。

「ありがとう、ミレーヌ。あなたも、自分の道を歩み始めているようで安心したわ」

「はい。孤児院の子供たちに水で動物を作って見せると、みんなとても喜んでくれるんです。魅了なんてなくても、笑ってもらえる……それがこんなに温かいなんて、知りませんでした」

彼女は小さく微笑み、私の手を取り、震える声で続けた。

「お姉様を……ずっと妬んでいました。でも、あの日、お姉様が私に見せてくれたのは、怒りではなく『自立』でした。私もいつか、お姉様のように自分の足で立てるようになりたいです」

私は彼女の手を握り返し、静かに頷いた。許しという言葉は安っぽいが、私たちはようやく、呪縛を越えて「姉妹」になれたのかもしれない。


婚礼の鐘が、北方の澄んだ空気に鳴り響く。

私がカイルの待つ祭壇へと歩みを進める中、エスコート役を務めたのはアルベールだった。

「リリアーヌ、君をカイル殿に引き渡すのは、兄として最大の誇りであり、最大の損失だよ」

「アルベール、そんな大袈裟な。あなたはこれからも、私の右腕としてこき使われるのですから、損失ではありませんわ」

「ふっ、違いない。君の『効率的』な式次第には、今朝も驚かされたよ」

アルベールは苦笑しながら、私の手をカイルへと託した。

祭壇に立つカイルは、漆黒の礼装に身を包み、鋭くも深い慈愛に満ちた瞳で私を見つめていた。

「待たせたな、リリアーヌ。いや、今日からは俺の妻だな」

「ええ。カイル様、覚悟はできていますか? 私は理想の領地を造るためなら、妥協は一切いたしませんわよ」

「望むところだ。お前の描く未来を、俺がこの剣と闇で守り抜こう」

私たちは誓いのキスを交わした。その瞬間、私は指先を天に向けた。

「全属性・祝祭のセレブレイション・レイン

空から降り注いだのは、水属性の魔力でダイヤモンドのように輝く氷の粒と、火属性が生む温かな光、そして風が運ぶ花の香。光と闇が織りなす極光オーロラが真昼の空にカーテンを描き、領民たちの歓喜の叫びが地平線まで届かんばかりに轟いた。


宴の最中、私はカイルと共にバルコニーから領地を見渡した。

そこには、前世の孤独な社畜時代には想像もできなかった景色があった。

冷酷な剣鬼と呼ばれた男が、私の隣で穏やかに笑っている。

過ちを認めた兄が、未来のために魔力を振るっている。

改心した妹が、誰かのために祈っている。

そして、無能と呼ばれた私が、世界を塗り替える力を持ってここに立っている。

「リリアーヌ、何を考えている?」

カイルが私の腰を引き寄せ、耳元で囁く。

「……前世の自分に、教えてあげたいなと思って。馬から落ちるのも、案外悪いことばかりじゃないわよ、って」

私はカイルの肩に頭を預け、目を閉じた。

侯爵令嬢として生まれ、転生者として目覚め、泥の中に咲く蓮のように生きた私の物語。

その「第一章」は、今、完璧な大団円を迎えた。

しかし、全属性の賢者としての私の道は、まだ始まったばかり。

この人と共に創り上げる未来は、きっとどんな魔法よりも美しく、驚きに満ちているはずだ。

私は隣にいる愛しい人の手を取り、新しく始まる「第二章」のページを、力強くめくった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

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