第27話 悪夢
演奏を終えると、国王含め王族全員が盛大な拍手をしてくれ、ダリアは前に1人進み出ると、笑顔でゆっくりとお辞儀をする。
その間、フリージアはパーテーションの後ろで1人、ピアノの椅子に座ったまま、呆然としていた。
(終わった…私は、なんてことをっ…)
フリージアは演奏を終えると、後悔と大きな悲しみに襲われ、自然と涙が溢れる。
(だめ…泣き声を聞かれるわけにはいかない…)
悲しみに耐えきれず、漏れる嗚咽を抑えるために、口を両手で塞ぎ聞こえないようにするフリージア。
どうにか泣き止もうと頑張るが、涙が次から次へと溢れ落ちてしまい、フリージアは必死に涙を手で拭う。
「フリージア」
お辞儀を終えたダリアがパーテーションの後ろに顔を出し、フリージアの顔を品定めするようにじっと見つめる。
「ねぇ、さっきの演奏中、願った——のよね?」
フリージアは俯いたまま無言で頷くと、ダリアは満面の笑みでフリージアに抱きつく。
「ありがとう…!フリージア、本当にありがとうっ!!大好きっ」
ダリアがギュッと抱きついてきたが、フリージアは両手をダランと体の横に垂らしたまま、ダリアの頭の向こうを虚しく見ていた。
「さ、座ってないで早く皆様の所へ行きましょ!私はセレス王子の所にも行かなくっちゃ…ふふっ」
ダリアに手を引っ張られ、フリージアはされるがまま椅子から立ち上がり、王族と家族が待つ方へと出ていく。
出ていくと、王族は全員微笑みながら隣の人や周囲の人と談笑していた。
父シード公爵と母イザベラも、国王や他の王族達と楽しそうに何やら話している。
フリージアは、真っ先にファビウスを探す。キョロキョロと辺りを見回すと、ファビウスはフリージアの少し前方に立ち、こちらをじっと見ていた。
「あぁっ、セレス王子が私の方を見てるわ!」
興奮からかダリアが声を裏返し、両手を胸の前で組み、目を潤ませながらファビウスの方を見る。
ファビウスが、口に微笑みを浮かべゆっくりとフリージアとダリアの方へ歩いてくる。
そして、2人の前へ来ると立ち止まり、フリージアの顔をじっと見つめた。
が、その後すぐにダリアの手を取ると、手の甲に口付けをし、ダリアの顔を見つめる。
「ダリア嬢、よろしければ2人で話しませんか」
「はい…喜んでお受けいたしますわ…!」
ダリアは嬉しさを抑えられない様子で、ずっと顔がニヤけていた。
ファビウスの大きな手が、ダリアの腰に触れる。
(やだ…その手で私以外の女性に触らないで…)
ファビウスはダリアを見下ろすと、優しい眼差しでダリアに微笑みかける。
(いやだ…そんなに優しい目でダリアを見ないで…)
ファビウスは、ダリアを丁寧にエスコートし、2人でどこかへ歩き出す。
「行かないで…ファビウス…」
フリージアはか細い声で囁くように言い、溢れる涙を堪え、なす術なく去っていく2人を見つめる。
「うまくやってくれたようだな、フリージア」
いつの間にかフリージアの背後に来ていた父のシード公爵が、フリージアの耳元で囁き、フリージアは反射でシード公爵から離れる。
シード公爵は目を細め、不気味な笑顔でフリージアを見つめていた。
「満足ですか。ご自分が何をしたのか、罪の重さは計り知れないですよ」
「私はそうするよう依頼はしたが、実際効果をかける行動をしたのは、フリージアお前だろう」
「な…なにを、お父さま…!」
「ダリアがうまく妃の座におさまれば、私たちは王族と関係が繋がり、そしてフリージア、お前は永遠に私と一緒に暮らすんだ」
フリージアは目を見開き、父シード公爵が何を言っているのか、混乱して理解できなかった。
シード家の言う通りに願いの効果を使ったが、その結果は結局フリージアになんの利益をもたないものだった。それどころか、最愛の人を失い、自分はシード家で一生を過ごす。
悪夢だ。
「…気分が悪いので、私1人だけ失礼させていただきます」
フリージアは、父シード公爵の顔を見ずに、そう告げると、国王や他の王族に挨拶もせずにホールの壁沿いを歩き、静かにホールを退室した。
退室する際に、ファビウスとダリアが楽しそうに話しをしているのが視界に入り、フリージアはまた溢れそうになる涙を堪え、早足でホールを出た。
◇◇◇
ホールを出た後、どうしてここに来たのか、フリージア自身も分からなかった。
ただ、王城前のシード家の馬車が止まっている所まで戻ると、涙を流すフリージアを見た従者が、何も言わず扉を開けて馬車に乗せてくれた。
フリージアが家へ戻ることを拒否すると、従者は無言のまま連れてきてくれた。
店ファビアスへ。
従者は、フリージアがここを家族に秘密にしたいほどに大事な場所だと思ったようで、それから、もらったお金の分のお返しだと言い、従者はフリージアを降ろし、そのまままた王城へと走り去っていった。
まだ外は明るく、他の店舗は賑やかだったが、店ファビアスだけは人気がなく静かな様子だった。
ただ、電気は薄らとついており、閉店しているわけではなさそうで、フリージアはゆっくりと店の扉を開ける。
「すみません…入っても大丈夫ですか…」
フリージアが、か細い声で呼びかけると、薄暗い店内の奥にいる2人が、フリージアの方に反応する。
「フリージア様…!最近お見えにならないので、心配しておりました!ご体調はいかがですか」
心配した表情のマスターが、カウンターから飛び出てフリージアに駆け寄る。
「大丈夫です…しばらくここに来れなくて、ごめんなさい」
「そんなこと…!それより、ご無事で本当に良かったです」
マスターは優しくフリージアの手を握ると、カウンターの方へと促す。
「あら、もしかして、シード家のフリージアお嬢様かしら?」
カウンターに座っている女性が、フリージアに優しく柔らかい声で尋ねる。
「お久しぶりね。覚えているかしら、お母様の友人のマリアです」
カウンターに座ったマリア夫人が、フリージアにニコニコと笑顔を向けていた。




